メンタル強者

「こりゃまた豪勢な家を建てるようで……」

「金なら有り余ってるから、まじでいい家にしてくれ。出来高で払う用意もある」


集めた職人たちが一気に色めき立つ。

やはり成果制は人を狂わせるな。


「ただ、余計なものは勝手に作らないでくれ。いいかもと思ってもちゃんと相談すること。あと、評価に関してはちゃんと俺が査定するからな。ずるしようとしてたら何なら元の金額よりも下げるぞ」

「了解しました。そこでまずご相談が……」


顔合わせでの話し合いは7時間にも及んだ。


「休日が溶けた……」

「ま、まぁ、有意義な話し合いが出来たってことで……」

「ヨルも一緒だろ。来週になればまたあの授業だぞ」

「……」


少しげんなりした顔をするヨル。

ヨルですら辟易としている。

少し授業形態を考える必要があるかもしれない。

道端の小石を蹴飛ばすヨルは今日はショートパンツ。

普段は教師用のローブか、長ズボンの姿しか見ていないのでかなり新鮮である。


「まったく時間がかかりすぎだよー」

「フィオナもかなり口出しはしてたよな?」

「しょうがないよねー」


たははー、と笑うフィオナ。

1人だけいつもと違う格好のフィオナ。

普段は露出の多い恰好を好むフィオナが今日はクリーム色のワンピースに身を包んでいる。

この服を作ったのがどこの誰かは知らないが、恐らくオーダーメイドだ。

何故なら、普段から自分のサイズに合う服がないとフィオナが嘆いているから。

だから自分で服を作り出して上達したらしい。

そのデザインはお腹のあたりでキュッとしまっており、いわゆる乳袋が存在する見た目となっている。

全くけしからん。

どこのだれか突き止めて追加報酬を払わねば。


「ほんとよ、折角の休みだったのに……」

「気分転換には……、アンはならないか」

「普段見ているものとほとんど変わらなかったわよ」


遂に休みを貰えたアンは半そでにジーンズのような長ズボンとキャップというスタイル。

足の長さを際立って見えるし、ラフなスタイルでも絵になるのが凄い。

帽子をかぶり慣れていないからか話す時に帽子のつばから見上げるように上目遣いになるのがまた可愛い。

帽子はこのために存在したのか。


そんな三者三様の美女たちと通りを歩けば注目も集める。

最早慣れたものではあるが、新天地という事もあり、不躾な視線が多いのも確かだ。


「みんな平気か?」

「気持ちのいいものではないわね。今更だけど」

「ごめん……」

「違うわよ!」


ペしっとライヤの頭を叩くアン。


「私が言ってるのは、視線を向けられるのがってこと! 私は王女だから慣れてるけど。2人はどう?」

「私も別にかなー? ほら、私って特に顔を隠しても隠せないものがあるからねー」


そう言いながら胸を張るフィオナ。

横目でもゆさっ、と揺れているのがわかり、道行く男たちの視線をくぎ付けにする。

そのせいか、2人躓いたぞ。


「私も慣れてきました。お2人よりは個人的に視線を向けられませんから……」


自嘲気味に言うヨルだが、実際この2人が横にいれば霞むのは仕方ないだろう。

ライヤなんてもはや目に入ってるかも怪しい。

しかし、ヨルにも注目する視線は一定数あり、より下劣なものが多いという印象だ。


「ほら、そんなに殺気出してたら楽しめるものも楽しめないでしょ」

「そんなもの出せるようになった覚えはないけどな」

「じゃあ、今出せるようになったのかもね」


ヨルははてなマークを頭の上に浮かべているが、フィオナはうんうんと頷いている。

武術の達人クラスでないと理解しえない何かをライヤが出していたという事だろうか。


「2人にしかわからないなら意味ないな」

「そうでもないよー」

「そうね。ヨルにはライヤの殺気が向いてないからわからないだけで、他の人には効いてると思うわよ」

「つまり、それを超えて声をかけてくるのは……」



「いい女たちだなぁ! どうだ? 俺に一晩付き合っちゃくれねぇか!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る