最後の王族

「仮住まいとしてこちらの一画を使って頂ければと思います。ご要望とあらば、使用人も下げさせますが、どうしますか?」

「そうだな……。どうしようか?」

「下げてもらってもいいんじゃないでしょうか。別にお願いすることもないでしょう?」

「じゃあ、そのように伝えてきますね」


ミクがぺこりと礼をして去っていく。


「来年度はSクラスの担任ではないだろうとは思ってたけどさ。働く場所まで変わるとは思わなかったな。……そういえば、ヨルは顔を出さなくていいのか?」

「無理に顔を出す必要はないですよ。もう他の方がちゃんと治めているみたいですし」


それでもお世話になった方とかもいるだろうに。


「いいんです! そんなことより、学園のことですよ。学園長からライヤさんの事を頼まれてるんですから」


なぜわざわざ。


「これからの国の発展に関わることなのでライヤさんがサボらないように見張っておけと」

「信用の無さに涙がでるね。俺、在学中はかなり頑張っていた部類になると思うんだけどな」

「私はわかりませんけど、学園長にそう思われる何かがあったんじゃないですか? 例えば、勉強以外何もしなかったとか」

「……黙秘権を行使する」


実際には、興味のあること以外を全くしなかった、が正解だ。

学生という立場上、普通はやりたくなくてもやらなければいけないことはある。

多くの生徒にとってそれは勉強なわけだが、勉強が好きだったライヤにそれは当てはまらない。

対して、クラブ活動やクラスでの活動にあまりにも積極的でなかった。

唯一、体育祭だけはアンへの対抗心で頑張っていたが、他の行事には協調性の欠片もなかった。


そして、ライヤはこう言いたい。

学生の頃の行事と今回の一件は規模が違いすぎるではないかと。


「でも実際、あんまりやることはないだろ? 分校の話はアンがするし、諸国連合の動きも俺が関与することじゃない。転勤したと思えばいい」

「それでも、です。ミクさんやキリト君とつながりがあるのですから、何かしら仕事はあるでしょう」


あくまでも真面目なヨル。


「でもー、今は暇だよねー?」


ポーンと用意された寝室のベッドに飛び込みながらフィオナが言う。


「じゃあー、のんびりしようよー。街の見学に行ってもいいかなー?」

「いいんじゃないか? 行ってきなよ」

「え?」

「え?」

「ライヤも一緒にいくんだよー?」

「いや、のんびりするって……」

「家にいるだけがのんびりじゃないんだよー。そうと決まれば、いこうー!」





「うーん、落ち着いた街並みで好きだなー」


フィオナとヨルにそれぞれ腕を取られて半ば引きずられるように歩くライヤ。


「ここって温泉が有名だったよな?」

「そのはずです」

「道理で景観に気を遣ってるよなー」


ズンバは諸国連合のほぼ中心に位置し、交易の要所として発展したという。

加えて、温泉が発見されたことで観光客も増え、諸国連合随一の国家へと成長した。

そう昔のことではないはずだが、温泉が発見される前から区画整理をちゃんと行っていたのだろう。


「こっちで家を買うなら、庭に温泉があるようなのが良いな」

「それいいねー!」

「家で温泉なんて、贅沢ですね」


まだ見ぬ家に思いを馳せる3人。


「折角だから、このまま物件を見に行ってみるか?」

「アンさんはいなくていいんですか?」

「見に行くだけだよ、決めはしない。どうせここに住むことになるんだから、物件は見といて損はないだろ?」





「不動産会社ってこんなに混むもんだっけか?」

「それならー、今この国はよほど景気が良いんだろうねー」


街の人に聞いた不動産屋に向かうと、人がごった返していた。

祭りなんて行われている様子はなく、恐らく不動産屋がある場所を中心に人混みが出来ている。


「そんな話は聞かないけどな」

「そうだとしても、明らかに異常ですよ」


ライヤはふと思い出す。

日本で同じような光景を見たことがあった。

あれはそう、有名人が訪れている最中だったような……。


「すみません、通して頂けますか? これから向かわなければいけないところがあるので」


騒がしい中でも通る声が聞こえ、人々が道を開ける。

さながらモーセだ。


見覚えのある王国軍の兵たちに先導されながら歩くその姿。


「キリシュか?」


ぼそりと小さな声で言ったライヤだったが、その男は反応してライヤの方を見る。


「ライヤさんじゃないですか! お久しぶりです!」


民衆の目が今度はライヤに向けられる。

ミスったなー、と思いながらライヤは返事をする。


「あぁ、久しぶりだな」

「ずっと会いに来てくれなくて寂しかったんですよ?」


鼻血を流しながらも目は放さないファン(?)の方々。

少し憂いを含んだ笑顔を見せるキリシュライト・シャラル。

王国の第二王子である。


「ここじゃ騒がしいから、場所を移そう」

「はい!」


変わって、太陽のような笑顔を見せるキリシュライトにノックアウトされる女性の方々が多数。

半分テロである。





[あとがき]

引っ越し前の片づけより後の片づけの方が終わる気がしない。


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