王国の未来

「で、なんでここにいるんだよ」

「今年学園を卒業しまして」

「あぁ、知ってる。大層喜ばれたらしいな」

「はは……。兄上があんなことになったので僕にお鉢が回ってきただけですよ。アン姉さまは知っての通りですし……」


王家の特徴である短髪に切りそろえた白髪に、紅い瞳。

常に浮かべている柔和な笑顔に柔らかな物腰。

176センチと決して長身というほどではないが、スタイルが良く実際よりも背が高く見える。

外見だけの男ではなく、兄であるカムイが王になるのだから、自分は諸外国との外務を担当しようと積極的に他国と関わりを持とうとしていた。

キリシュライトが外務に関わるようになって外交の成功と呼べる実績は何割増しかになっているらしい。

噂では、訪れる外国で要人の娘を虜にし、結果としてそれが成功の要因になっているとかいないとか。


「そこだよ。お前が王国を継ぐんだったら、ここにいないだろ」

「もし僕が継ぐことになっても今すぐの話じゃありませんから。お父様もお元気ですし……」


確かに。

あの王様がこの先数年でくたばるのなんて想像できない。

ただでさえ天災を起こせるレベルの魔法を使えるのに武器を持った時より素手の方が強いとかいうフィジカル化け物だからな。


「そこで、まずはこちら側を治めることで練習になればという事らしいです」

「王国全体の前に、ってことか」


どうやらキリシュライトは学園の分校絡みで来たわけではなく、王国側の人材育成の一環としてズンバに来たらしい。

戦争から一年たって落ち着いて諸国連合の方を治めようという事だろう。


「それに、今はこちらにアン姉さまもいますから、いざとなればご助力願えるかなという打算もありますね」


ライヤは心の中でアンに合掌する。

アンははしゃいでいた。

王国の公務から離れられると。

それを思えば分校のことなんて簡単にやってみせると。

しかし、どうやらそれは叶わないらしい。

何なら、体制が確立されていないこちらの方がアンの仕事は多いのではなかろうか。


「で、そんなお前が何であんなとこにいたんだよ」

「いえ、僕らも今着いたばかりで、拠点がないんです。それで、良い物件はないかと……」

「王族が政治を行うような場所になり得る物件があんなとこで売ってるわけないだろ……」


誰をターゲットにしてるんだその物件は。


「……言われてみればそうですね」

「ですから申し上げましたのに……」


後ろに控えている年配の兵士がため息をつく。

キリシュライトはもちろん馬鹿ではない。

むしろ頭はキレるし、まともな判断が下せる奴だとは思う。

だが、抜けている。

いわゆる天然タイプなのだ。


「……」

「そんなに怒らないでください……」

「いや、怒ってはない。一抹の不安を抱えているだけだ」


いつかキリシュライトが王国を治めることになった時、重大なポカをやる未来を憂いているだけである。

杞憂であればいいが。


ん?


時間差で気付く。


「キリシュ」

「なんでしょう?」

「お前がズンバに来るのはアンがこっちにいるのも考慮してって話だったよな?」

「そうですね」

「じゃあ、こっちに分校を作るのはかなり前から決まってたのか?」

「決まったのは少し前だった気がしますけど……。話があったのは間違いないですね」


ライヤが必死に政治から遠ざかろうとしていたことによって情報がなかったのだ。

一教師としては正しいのかもしれないが、そんな話があったならもうちょっと早くその可能性を伝えてくれても良かった気がする。





「お前らも知ってたわけだな?」

「いえいえ、噂に聞いていた程度ですよ」


夜、イプシロン率いる部隊がライヤ達の居る一画に来ていた。


「半分ほど姿が見えないけど?」

「一応、我らの任務は国境警備ですので。全員をこちらによこすわけにはいきません」

「それもそうか。で、なんで来た?」

「なぜとは? 我らライヤ隊長の配下。隊長の指示を仰ぎに来るのは当然でしょう?」


思わず天井を仰ぐライヤ。

この忠誠心の高さはどこから来てるんだ。


「隊長の奥様方もご機嫌麗しいようで。私、ライヤ隊長の部下であるイプシロンと申します」

「ちゃんとライヤの役に立ちなさい」

「もちろんでございます」


しれっとアンたちにも挨拶するイプシロンたち。

アンはアンネ先生として彼らと共闘しているはずだが、今回は上手く隠せているようだ。


「……ひとまず頼むようなことは無い。また何かあったら連絡するから、連絡役として交代で1人くらい残しておいてくれ」

「わかりました」


20数人が窓から闇へと姿を消す。

光魔法も使った彼らの姿はすぐに闇に溶け、去る音も聞こえない。

一応ここ領主の館なんだけどな。

あの規模の人数で侵入できるもんなのか。


「私たちよりよっぽど暗部って言葉が似合うよねー」


フィオナがそんな言葉をこぼす。

ほんとにな。

一応、今はアン配下の暗部って形だったはずだけど。

前まであれが普通の部隊として存在してたのがおかしい。





[あとがき]

今日で2021年度が終わりますね。

数ある作品の中から本作を見つけていただいて本当にありがとうございます。

素人の作品で読みづらい部分であったり、納得のいかない部分などあるとは思いますが、まずはここまでお読みいただいた全ての方に感謝を。

明日からの2022年度に合わせて作中でもライヤの教師生活3年目に入っていこうかと思います。

よろしければこれからも応援の程よろしくお願いいたします!


ここまで読んで頂きありがとうございます!

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