課外仕事
「これってどう考えても教師の仕事じゃないと思うけど、どう?」
「そうだね~」
「身から出た錆じゃないですか」
ライヤ、フィオナ、ヨルは王都から3キロほど離れた草原地帯にいた。
凡そ1キロ離れた地点には他学年の先生がいたりする。
「まさか俺たちがやらされるとは思わないだろ」
「お金が必要なのは確かなんですし、頑張りましょう!」
「プラス思考だな……」
「ごめんね~。思ってたよりも壊れてて~」
王都外に生徒を連れて行って魔物の相手をさせるのは例年行われている。
ただし、大抵は5年生以上だ。
1年生から実戦を見据えて魔法を教えることが今までは無かったからである。
そしてその校外実習に当たり、周囲の魔物の間引きが行われる。
生徒が囲まれて万が一という事が無いようにするためだ。
ティムの提案を学園長に聞いたところ、ライヤが駆り出されてしまった。
ストラス家から貰う家が傷んでいたのでその修繕費にお金は必要だ。
特別手当が出る仕事ではあるが、ライヤは乗り気ではなかった。
「王国軍に頼んでもいいんじゃないか?」
「今まで先生方が頑張ってきたんですから、そう簡単にはいかないでしょうね」
「社畜根性ありすぎだな……」
「私の寮長の給料もなくなっちゃうからね~」
「フィオナは気にしないでいいよ。ただで貰うほうが気が引ける」
ちなみに、ライヤのフィオナに対する口調はため口にしてくれと頼まれて矯正中である。
「『自分の生徒なら大丈夫だろうという目安まで間引きしてください』ね……。そもそも、自分が間引きした地域に魔物が留まるわけなくないか?」
「今までは5年生以上だったので結構似たり寄ったりになってたんじゃないでしょうか。その水準だと2年生には厳しいとは思いますけど」
この仕事の気が乗らない点は、結局S
王国軍が担当する王都周辺の治安維持をやらされているという感覚が強いのだ。
「まぁ、やるけどさ……」
「私も頑張るからね~」
サクサクと歩き回って猪や狼の姿をした魔物を屠っていく後ろ姿をヨルは眺める。
「(これなら私の出番はなさそうですね……)」
怪我をした時にすぐに治療できるようについてきたのだが、杞憂であったようだ。
魔物の討伐を見たことがなかったヨルは魔法で吹き飛ばすのだろうと考えていた。
だが、2人は移動に魔法を使ってはいるが、倒すのにはそれぞれの得物を用いている。
「ライヤさん、なぜ魔法でやらないんですか?」
「魔物に魔法がなぜか効きにくいのは知ってるだろ?」
「はい。でも、効きにくいだけで全く効かないわけではないと……」
「それな、嘘だ」
「はい?」
ライヤがヨルを手招きする。
「この辺りの魔物は弱い。俺でも片手間で処理できるレベルだ」
襲ってくる狼を蹴り上げて退けながらライヤは続ける。
「それこそ、学園の卒業生くらいだったら捕獲も容易いだろうな」
「それがどうしたんです?」
「実演してみせよう」
地面を転がってまだ起き上がれない狼の首に風の刃を落とす。
音もなく首が落ち、首とそれ以外の部分は同時に消えた。
「!? ライヤさん離れてください!」
「お、わかるか。流石」
焦って飛び退いたヨルに対して、ゆるゆると後退してくるライヤ。
「これが魔物を魔法で狩っちゃいけない理由だよ」
「毒、ですか?」
「毒かもわからないけど、人体に有害なのは間違いないな。実証済みだ」
若かりし頃の思い出である。
「効果範囲は狭いけど、どんな魔物にも共通する特徴だ。例えば、こいつらを捕まえて部屋で魔法で殺したとするだろ?」
「その部屋の人は毒を吸いますね」
「それに、死体は消えるし、この毒自体もすぐに消える。証拠なしに暗殺が成功だ。よほど吸わなければ死にはしないと思うけどな。だけど、ここ辺りの魔物は簡単に捕まえられる。よほどの量を確保するのは簡単なんだよ」
常識が覆った衝撃でヨルは二の句が継げない。
「毒になるからと言ってそれを馬鹿正直に言って注意喚起したら悪人に使ってくれと言ってるようなもんだろ? だから、教師か王国軍の魔物担当の人、後は王国の偉い人くらいしか知らないんじゃないか? 俺は図らずも辿り着いたけど」
魔物に魔法を使わないのは当たり前だと思わせることで使わせないようにしているのだ。
「でも、その感じだと諸国連合では使わない方がいい、くらいの教えられ方だったか?」
「……そうですね」
「王国ではもっと強く教わるよ。無駄だから使うなってね」
それでもライヤのように好奇心でやらかす奴はいる。
「そういう奴は王国軍に見つかって軍の魔物班に入れられるわけだ。ばれても問題ないからな」
「さっきは脅かすために暗殺とか言ったけど、心配しなくてもそんなに大量の魔物を生きたまま王都に入れるなんてどだい無理な話だから気にするな」
そういってまた魔物討伐に戻るライヤを見送る。
ヨルは嫌な予感を胸にそれを見守るのだった。
[あとがき]
唐揚げ食べたい
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