アンの場合

「いや、なんでいるの」


待っててって言ったじゃん。


「私以外が最初なのは許せないわ」


仁王立ちしているアン。

果たし合いの場かな?


「まぁ、落ち着けよ。座って」

「はい」


ん?

やけに素直だなとライヤがじっと見ると、アンが目をそらす。


「緊張してるな?」

「してないわけがないでしょ! なんでライヤはそんなに普通なのよ……」

「いや、この場を設けてるのがもう物語ってるし……。今更かなって」


「告白する権利をかけて勝負する」みたいなやつだ。

する前にもう言ってるだろってやつ。


「改めまして、アン」

「はい……」

「いつも通りでいいって……」

「無理よ、そんなの……!」


ガチガチに緊張していながらも、頬は紅潮し、瞳は期待に満ちている。

そんなところが愛おしい。


「まずは、いつもありがとう。アンがいたから学生生活は楽しかったし、こうして教師として働けている」

「そんなの私だって……!」

「今は俺のターンな?」


何か言おうとしたアンの唇に指を当て、止める。


「正直、初めて会った時は鬱陶しいと思っていたし、アンのせいで巻き込まれた事件も少なくない」


ぷくりと頬が膨らむ。

不満の表れだろうか。


「けど、今から学生生活をまた最初から始められるとしたら、今度は俺からアンに声をかけるだろう。『勉強教えてあげましょうか?』ってな」

「ふふっ……」


お、ウケた。


「あと、謝っておこうかな。アプローチを受けておきながらここまで引き延ばして済まなかった。白状すると、アンのことは好きだったよ。俺もいつからかはわからないけどな」


一気に顔が華やぐアン。

いつ見ても美人さんだなぁ。


「アンよりも弱い俺だけど、アンを守るためなら命を落とすギリギリまでは頑張って見せる。だから、俺と結婚してくれないか?」

「……死にそうになったらどうするの?」

「その時は家族で逃げようか」

「ふふっ、良い案ね」


パチリとライヤが指を鳴らすと、小さな炎の輪が出来る。


「今は急ごしらえだけど、後でまた用意しようと思う」

「これは何?」

「どこかの本で読んだんだけど、結婚相手に指輪を送る風習があるんだって」

「なんで用意してないのよ」

「無茶言うな。給料3か月分とか言われるんだぞ。それだけ、重みを置くものなんだ」


アンの左手をとる。


「今はこんなものだけど、いずれもっと凄いやつを用意するよ」

「楽しみに待ってるわ」


薬指を輪に通し、そのまま手の甲にキスをする。


「それで、お返事は? お姫様」

「もちろん、いいわ! 長い間待ってたのよ!」


いつぞやのキスなんて比べ物にならないほど気持ちのこもったキスののち、2人は額を合わせて笑う。


「私が一番、それは譲らないわよ」

「断言はできないけど、努力はするよ」

「いいわ。私の魅力で許さないから」


あぁ、よくこんな子が俺のことを好きになってくれたな。


「でも、他の子も大切にするのよ?」

「難易度高いな……」


そしてまた2人は唇を重ねるのだった。





[あとがき]

短めに1人ずつやっていこうかと。


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