春休み
出発準備
「本当に大佐なんだな」
「お父様も反対しなかったもの」
「さいですか」
いつもの白ローブではなく、堅苦しい軍服に身を包んだライヤは同じく女性用軍服に身を包んだアンと王城の廊下を歩く。
大佐ともなればそう簡単に廊下で出会うことなどない階級であり、アンは階級こそ貰っていないものの、そもそも王女である。
方々の兵士から敬礼され、それがライヤへのものも含まれていることがわかる。
「……やっぱ着替えていいか?」
「戦場なら何かしら理由をつけられるかもね」
言外に、今はダメだと言われている。
今回ライヤが注目されている理由は2つ。
平民というのは抜きにして。
1つ目は魔術学校からの招集がライヤのみであること。
前回の戦争で対峙した帝国と違い、今回の海洋諸国連合は明らかに格下である。
よって、教職や生徒から人員を割く必要はないという判断によるものだ。
もう1つはその胸に光る勲章である。
今回の招集にあたって正式に王様から前回の戦争での功績を認められ、勲章を授けられたのだ。
将校ならいざしらず、大佐以下で勲章を持つ者は多くない。
「今回は私の我儘で招集されたわけじゃないから、胸を張っていればいいのよ」
「いっそアンの我儘だった方が良かったかな……」
「何言ってるのよ。2年で実績を作るんでしょ?」
アンとの交際を公に出来るほどの功績。
一番の近道は戦争で活躍すること。
「……わかってる。だけど、派手な戦果は期待するなよ」
「もちろんよ。ライヤはそういうタイプじゃないものね」
王都出立まであと3日。
「今回、大佐の指揮下につくこととなりました。なにとぞ、よろしくお願いいたします」
隊長の挨拶に合わせて見事に統率の取れた敬礼をする隊員50余名。
「いや、隊長……」
「隊長は現時点を持ちましてライヤ大佐となっております」
「じゃあ、副隊長。階級は?」
「中佐です」
例に漏れず、ライヤが配属されたのはB
「そんなに勲章を持っていてまだ中佐だったんですか!?」
「この前お会いした体育祭時点では少佐ですよ」
「……本当ですか?」
「それだけ平民は出世しにくいという事ですね」
言われてみれば、胸の勲章が一つ増えているような気がしないでもない。
「ライヤさん、お久しぶりです」
「ミランダも元気そうで何よりだ」
隊長、いや副隊長に続いて進み出たのはミランダ。
恐らく生まれは良いにもかかわらず協調性がなさ過ぎてこの部隊に配属されている女性だ。
「ちゃんと仕事してたか?」
「……多少」
「……副隊長?」
「彼女の言う事は本当ですよ。以前は全くでしたから。隊長と仕事をしてから少しばかり耳を傾けてくれるようになりました」
改善されてそれなの問題しかないだろ。
「それよりミランダ。隊長のことは隊長とお呼びしろ。もしくはライヤ大佐だ」
「え」
「いや、俺そんなことに拘る人間じゃないですけど……」
「では、ライヤ大佐と」
「やめてくれ。副隊長も元の呼び方でいいでしょう。ってかこんな長い付き合いになると思ってなかったから名前聞いてなかったんですけど。教えて貰えたりします?」
「ふむ、ではイプシロンとでも名乗っておきましょう」
「……隊長に偽名を使うのはありなんですか?」
「敬語は不要ですよ、隊長」
「あなたがどこの所属なのかわかった気がしますよ」
「何のことでしょう。私は清く正しい王国軍所属ですよ」
間違いはないだろう。
恐らく、暗部だろうが。
「一つだけ。あんたは俺たちの敵、もしくはカムイの味方か?」
イプシロン(仮)が第一王子であるカムイの手の者なら一気に信用できなくなる。
イプシロンが何を考えていようとカムイの命令でアンを陥れる可能性があるからだ。
口ではどうとでも言えるとわかっていながらも聞かざるを得ない。
「あんな小物に私が従うわけがないでしょう?」
他の隊員に聞こえないようなひそひそ話でありながら、やけに気迫のこもった一言だった。
王都出立まであと2日。
[あとがき]
カレー作るか……。
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