出立
「ヨルも中々似合ってるじゃないか」
「普通なら嬉しいところなんですけど、絶妙に嬉しくないですね」
「いやいや、亡国の姫君って感じでいいんじゃないか?」
神輿に担ぎ上げられるヨルはドレスに身を包んでいるが、背格好からあまり格好の良いドレスは似合わない。
それこそ小さな女の子が着るやつを着ている。
似合ってはいる。
似合ってはいるのだが、22歳からすれば非常に遺憾なようだ。
「大将に等しい存在だし、聖女としての役割もあるからな。『可憐な聖女が危険も厭わず兵たちを癒す』図を期待されてるんだろ」
「それは承知の上です。たとえこの命に代えても……」
「やめなさいよ。それだと私が守れなかったことになるじゃない」
今回戦場での最重要人物は2人。
アンとヨルだ。
この2人を守るためにはどうするか。
ヨルをアンが守り、ライヤがアンを守ればいい。
無論、大抵のことはアンは自力で何とかなるのだが。
「で、でもやはり、アン王女の手を煩わせるのは……」
「どうせ私は前線に出れないからいいのよ。格下相手に付け入る隙を与えるだけだものね?」
「そう圧かけてくるなよ……」
前回に続き、アンが前線に出ることは無い。
前回のような窮地が考えづらい分、より可能性は低いと言えるだろう。
「綺麗な女性に応援されるっていうのはそれだけで価値のあるものなんだよ。諦めろ」
「なら一緒に戦った方が士気が上がるってずっと言ってるのに……」
ライヤも半分はそのほうが良いと思っている。
それだけアンの力は強大で、後方に回すのはもったいない。
だが、王族。
打ち取られては意味がない。
「やむを得ない時には頼むよ」
「その時が来るのを願うわ」
願うなよ。
劣勢になってるだろそれ。
「やけに帰ってくる頻度が高いと思ったらそんな報告かい」
「悪いとは思ってるよ。でも、行かなくちゃなんだ」
ライヤはこの日、実家に報告に来ていた。
「で、地位はなんだって?」
「大佐相当だよ」
「そりゃあまた偉くなったもんだねぇ。あれかい? 隊長だったりするのかい?」
「一応、そうなる。詳しいことは言えないけど」
「いやいや言わないでいいよ! あたしはまだのびのびと生きていたいからね!」
今から戦地へ向かう息子にも変わらぬ対応をしてくれる両親に安堵する。
2回目で慣れたというのもあるかもしれない。
1回目の時はライヤ本人もかなり動揺していたのであまり記憶はないが。
ちなみに、父親はしゃべっていないのがデフォルトなのでこれが普段通りである。
「無事に帰ってくるならならあたしは何も言わないよ! むしろ、国を守ってくれてありがとうって感じさね! ほら、あんたも何か言ってあげな」
「……何のために行くんだ?」
「アンを守るために」
父の問いに間髪入れずにライヤは応える。
「男なら女を守って自分も帰るんだぞ」
「わかってる。俺だけ死ぬくらいなら一緒に戦って死ぬ」
「いや、それもどうかと思うがな……」
格好良かったランゲルフの態度がライヤの予想外の覚悟によって崩れる。
「それくらいの心持ちでないと、その前にアンに殺されるからね」
「良く言ったよ、流石あたしの息子! 格好つけておいで!」
賑やかに送り出されるのであった。
王都出立まであと1日。
「此度、王家からは2人が戦場へと向かう事となる。実際に向かう戦地は違うだろうが、異例のことだ。部隊を預かる諸君には最大限の配慮を期待する」
遠征が開始される日。
王様から部隊を預かる立場の人間たちに通達があった。
内容は、アンだけでなく今年学校を卒業したカムイも戦場に出るという事。
異例も異例。
そもそもそんな話は3日前の時点では無かったはずである。
「なおこの申し出はカムイ本人からのものであり、比較的戦況が穏やかなうちの方が初陣として望ましいという判断のもとだ。負担は大きくなるだろうが、王国のためだと思って頑張って欲しい」
ライヤはアンとセットなのが確定しているので安心だが、他の将校たちはそうではない。
ただでさえ女癖の悪さで心象の悪いカムイだ。
さらに初陣。
付近の部隊は余計な神経をすり減らす羽目になるだろう。
だが、おかしいのはこれをカムイ本人が言い出したという点。
記憶の限り、カムイは仕事に積極的ではない。
それこそ自分が戦う事すら嫌うタイプだ。
現に体育祭などでも手を抜き、早々にリタイアしていたらしい。
そんなカムイが今回の戦争が比較的小規模だからといってわざわざ腰を上げるだろうか。
嫌な予感しかしない。
「ヨル殿も王国のために尽力してくださるとのことだ! うら若き乙女に無理をさせるなど王国の兵として許さん! 必ず大勝を!」
「「は!!」」
王様の隣でニゴリと笑っているヨル。
濁点が入っているように見えるのは気のせいではないだろう。
「では、各々! 解散!」
王の号令の下、一斉に部隊の隊長が散り始める。
階下に到着に、部隊を率いて王都から離れていくのだ。
「1番隊出ます!」
アンを要するライヤ達はその中でも最も規模の大きな編成である。
にこやかに手を振るアンと、ペコペコと頭を下げているヨルを連れて、ライヤ達は王都を後にした。
[あとがき]
眠い。
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