1人目、2人目

「じゃあ、誰から始める?」


テスト4日目。

というか4日目以降。

全員が終わるまで教師と立ち合いをするという行事である。

Sクラスであれば今年は7人しかいないので1日で終わるだろうが、Fクラスは200人を超える。

一日で全員を相手しろというのはむしろ教師に酷であろう。


「僕からだよー」

「マロンか……」


生徒たちに順番を任せていたライヤ。

最初から一番面倒だと思う相手だった。


「よし、じゃあ始めるか」

「お願いしまーす」

「じゃあ、どうぞ」

「はーい」


ハンデとして、最初の一手を渡す。


「土よ」


初手はやはり得意な土魔法。

だが、一見変わったところはない。


「……いい工夫だ」


相手に自分がやったことが何なのかをわからせないというのはそれだけでアドバンテージだ。

相手はどこかに仕掛けがあるかもと思い、行動がワンテンポずつ遅れる。


だが、それでもライヤは前に出る。

今回は普段からライヤが身を置いている状況とは違い、格上として待ち受ける立場だ。

ここで止めるのは教師としては、ダメだろう。


「さぁ、どうする?」

「うぇ!?」


地形の変化がないことからライヤは空中を選択。

風魔法で飛行してそのままマロンに斬りかかる。


「飛ぶなんてズルだよぉ!?」

「俺が出来るってことは分かってただろ!」


この反応からマロンが仕掛けていたのは地面だと推測できる。

本来なら反応などあてに出来ないが、相手は1年生。

そんな立ち回りは基本的に考えなくていい。


ガキィッ!


「重っ……!」


普段の授業とは比較にならないライヤの剣をギリギリで受けるマロン。

だが、その勢いに押されて膝をつく。

普段は剣は剣の授業、魔法は魔法の授業に分けられているが、今回はその2つが掛け合わさっている。

ライヤは剣も魔法も超1流ではないが、その賭け合わせでは国でも屈指である。

特別な力はないが、全てをこなせるからこその力がある。


「ふっ」


一度揺らいだ盾は簡単に引き戻せない。

ライヤが速さに切り替えた連撃を繰り返すが、それでも差は開いていく。

体が成長し、筋力がつけば無理やり力で立て直すことが出来るが、1年生の10歳になったばかりの体ではそんな芸当は出来ない。


「うっ、うっ……」


必死に下がりながら立て直しを図るマロンだが、自力差があるだけにそれは叶わない。


「あ……?」


盾が振られ、空いた空間に攻撃がくるとマロンが仕掛けておいた土壁を上げるが、予想したところに攻撃は来ず。

代わりにライヤが戻す剣の柄で盾を弾いていた。

それまで必死に腕を引き戻していた盾が遂にその手から離れる。


「終わりかな?」

「……参りましたー」


ふぅと息を吐き、パタリと後ろに倒れるマロン。


「疲れたなぁー」

「どうだった?」

「何も出来なかったー」

「まぁ、そんなもんだ。とりあえずお疲れ」


疲労困憊のマロンを風魔法で対戦のリング上から追い出す。


「さ、次は誰だ?」

「お、俺です」

「よし、デラロサやるか」


ボッと自分の周りに火を纏い準備を終えるデラロサ。


「どうぞ」

「お願いします!」


纏っていた火の中から火球がいくつかライヤに迫る。

だがデラロサの周りを離れた火などライヤの敵ではない。

簡単に制御を奪われ鎮火される。


「あぁ!!」


その間に駆けていたデラロサは直剣でライヤへと斬りかかる。

デラロサの作戦は、とにかく近接に持っていくこと。

魔法での戦いは戦いと呼べるものになるかも怪しい。

だが、剣での近接戦闘であれば筋力差などはあれど貴族の子息として教育を受けて来ている自分でも戦えるという判断をした。

そして、それは正しい。

今までの授業でもそれは証明されている。


「残念」


だが、そう上手くは行かない。

普段は授業なので打ち合っている場面だが、ライヤはスッと一歩二歩下がる。

他に取れる選択肢がある状態で相手がしたいことに付き合う意味はない。


再び開いた2人の距離。

デラロサがどうしようか迷う間にライヤの周りにゴポポと水が湧く。


「いけ」


その一言で地面を這うように勢いよく水がデラロサに迫る。

咄嗟に剣を地面に刺して持ちこたえようとするが、それは叶わない。

人間、水の深さが5センチもあれば溺れてしまう。

その水に勢いがあれば尚のことである。


足を取られ、剣から手が離れたデラロサは水の勢いにそのまま流されていく。

場外に出たあたりで水はやみ、ゴロゴロと転がり止まったデラロサ。


ザクッ。


その真横にデラロサの剣が突き立てられる。


「……参りました……」

「うん、自分の得意なことを押し付けるのはいいけどな。もうちょっと相手を制限しないとああやって逃げられるからな。自分の土俵にどう引き込むかも考えていい」


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