学年末テスト
「おい、アン。なんだあの文書」
「折角休みに来たんだから、仕事の話はしないで。すぅー」
「いや、そんな匂い嗅がれると嫌なんだが」
「大丈夫よくさいわけじゃないから。ライヤ成分を補充しているだけよ」
「うーん……」
言っていることがわからないでもないから止めにくい。
かく言うライヤも自分の胸元に抱き着いているアンとの位置関係的に、透き通った清涼感のある髪の匂いに心を奪われている。
「どうせそれなりの立場は必要なのよ。前回の戦争での功績があるから。他のどんなことがあってもライヤのその功績だけは消えないわ。なにせ軍で会議にかけちゃったんですもの。だから、それなりに立場がいるのよ。もう1個上にしようと思ったんだけど……」
「それはまずい」
大佐の上ともなれば准将だ。
将官は流石にまずい。
「まぁ、そんなことはいいじゃない。今は甘えさせて」
ふぅ、とまたライヤに寄りかかるアン。
「……近いのか?」
「向こうもかなり追い詰められているみたいだしね。春休みには何かしらの動きがあると思うわ」
「春休みなんだな。もう少し差し迫ったものかと思ってたが」
「まぁ、もう仕掛けようと思えば仕掛けられるけどね。学校がない時の方がライヤもヨルも都合が良いでしょう?」
「それはそうだ」
そこまで考えられているのか。
「じゃあまぁ、先生として仕事を全うするとしましょうかね」
テスト1日目。
今日も今日とてテストである。
他の教師からテスト問題に対する嫌がらせを受け、またもや睡眠不足のライヤだが、ギリギリでテスト監督を終えていた。
「お疲れだねー」
「疲れたっていうよりは眠いだけですけどね……」
「でも、私にとってはお得かなー」
疲れているライヤは人形のようにフィオナに抱きしめられているが、それから逃れる気力もない。
「明日もあるんだから、ゆっくり休むんだよー?」
「なら、放してください」
「やだー♪」
テスト2日目。
「算数は出来たか?」
「……前より?」
「! 良かったな!」
算数のテストを心配していたシャロンも上手くいったようだ。
ぐしゃぐしゃとシャロンの髪を乱暴に撫でる。
「……えへへ……」
だが、まんざらでもなさそうだ。
「あとは3日目と、最後の実戦だけだな!」
「……あ」
思いだし、顔を青くするシャロン。
かなり前から告知されてただろうに……。
テスト3日目。
本日は国語のテストがあるわけだが、ライヤはある信念に基づいて作問をしている。
その信念とは。
「この時の主人公の気持ちを答えよ」系の問題の答えは作者に聞く、というものだ。
これは小説の問題になるが、評論では「この時の作者が考えたことを答えよ」になる。
日本にいる時からずっと疑問に思っていたのだ。
「作者の気持ちを答えよ」とか「主人公の気持ちを答えよ」とかってそれこそ作者にしかわからないだろう。
それを勝手に代弁して答えとするのは納得がいかないと。
だって、先生が作った答えが本当に正解かどうかわからないじゃん。
文章からなんとなく理由付けをしていろんな問題によって傾向付けをして答えを作っているが、作者の考えなんてものを答えられる前提であるという問題が気に食わなかったのだ。
そんなライヤの謎のこだわりによりどう部分点を採るかという問題が完成した。
1年時点の算数ではないが、数学になった時にどう部分点を採るかという問題も出てくるのだから、国語にもそういう問題があってもいいだろう。
「先生、あの時作者はこう考えていたのではないでしょうか!?」
「いや、即答え発表とはならないから。せめて採点が終わるまで待ってくれ」
そしてこの意地の悪いともとれる問題に適性を示したのはティムである。
普段は王女の護衛としての頑固さを前面に出しているティムだが、その生来の頭の固さがこの問題によくマッチした。
前期時点でこの問題に答えられる生徒はいないだろうと意地の悪い笑みを浮かべていたライヤを驚かせたものだ。
ほぼ完答に近かったのだから。
そしてテスト4日目。
1年の総決算が始まる。
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