3人目、4人目

「じゃあ次はゲイルか?」

「お願いします!」


一番気合いが入っている男、ゲイル。

今となっては恥ずかしいことだが、ライヤに正面から喧嘩を売っている。

叩き潰されたとはいえ、リベンジに燃えるのは男の子として当然だろう。


剣の練度ではS級最高を誇るゲイル。

今は筋力差でライヤが勝っているとはいえ、ゲイルが学園にいる間には技量で抜かれるだろう。

元々威張り散らすだけの力は持っていたゲイルだが、ライヤに負けて学ぶ姿勢が強まったことによりめきめきと実力をつけていた。

S級の中ではエウレアに次ぐ実力者となっているだろう。

まぁ、エウレアは本来の実力を授業で見せないので実質一番まである。


「どうぞ」

「極光の火炎!」


始まった瞬間、ゲイルはカリギュー家が代々得意としている周りを眩ませる魔法を放つ。

もちろんライヤも織り込み済みなので光源であるゲイルからは目をそらしている。

極光の火炎の良いところであり悪いところは当たりかまわず光を発するところであり、使用者本人にも影響が及ぶところである。

戦時であれば自軍の後方からその圧倒的な魔力で敵軍まで光を届かせることでその威力を発揮するが、1対1では決め手になりえない。

互いに目をそらすか瞑るかしているのでその次に取れる情報は同等だ。


「……極光の火炎!」

「うっ」


視線を戻したライヤは2連続の極光の火炎に咄嗟に目をそらすが、流石に首をいわすので避けきれなかった。

言うなれば、視界が半分白い状態。

見えないことは無いが、極端に情報量は限られる。


ボッとライヤの周りに土壁が立ちその姿を隠す。

ライヤとしては最も警戒しなければならないのは遠隔からの魔法攻撃。

いくらライヤとて魔力感知だけでの魔法の乗っ取りは難しい。

始点が自分の近くからなら発生前に抑えられる自信があったので遠くからの魔法を遮断するようにしたのだ。

同時に自らの姿を隠し目の回復に努める。


「こんなことなら目を開かなくても魔力感知できるようにしとくべきだったか……?」


そうぼやくライヤだが、一応できなくもない。

寝ている時とかがその例になるが、他にしていることがなければの話なのだ。

いつでも剣に対応できるようにしなければならないのにそんな真似は出来ない。


「はぁ!!」

「おぉ!?」


壁は斬りつけただけでは壊れない程度に作っていたはずだが、それを見越してゲイルはこの辺にいるだろうと突きで壁を貫通させてきた。


「はぁぁ!!」

「危ねぇ!」


一発目が外れたので二発目には対応できた。

腰のあたりをかすめる剣を避け、遂に視力が回復したライヤは後方の壁を下ろし、逃れる。


「頑張れぇ!」

「惜しいですわ、ゲイルさん!」


今までとは違い、ライヤに一杯食わせた感があるので周りの生徒たちの声援も大きくなる。


だがそんな周りの盛り上がりと比べ、2人はそれぞれ別の感想を抱いていた。


「(この攻撃で先生に一発も当てられなかったのは痛い……! この先こんなに上手くいくわけがない……!)」

「(油断してたな……。確かにああいうフラッシュ系の攻撃は二連で使うのは有効だ。一度避けたらもう一度来るとは思わないからな。アンに同じようなことをされたことがあるからギリギリ反応できたが、初見なら一撃どころか負けていた可能性すらある。気を引き締めよう)」


一方は格下ゆえの焦り、もう一方は格上が故の余裕が少し間が開いたことで如実に表れた。

今回のゲイルの戦いの中で何か悪いところを探すとしたらここだろう。

ライヤに落ち着く時間を与えてはいけなかったのだ。

この後、ゲイルはライヤに何もさせてもらえず完封されることになる。

それでもライヤに危機感を抱かせたという点では他の生徒よりも一歩抜けていると言えるだろう。


「参りました……」

「うん、お疲れ。惜しかっただけに悔しいとは思うが、マジでいい線いってたぞ。俺が4年生の時なら負けていたかもな」

「……時期が具体的なのはどうしてです?」

「5年の時にアンに同じような事されてるからな。そのおかげで今回も致命的な隙にはならなかっただろ?」


ゲイルは先ほどの戦いを振り返り、なるほどと納得する。

確かにライヤは2回目の極光の火炎の後、周りが見えていない様子だったが自らを囲むという判断が早かった。

あれは経験に裏打ちされたものだったのだろう。

なんだかんだ、嫌がっていたアンとの模擬戦もライヤの糧となっている。



「じゃあ、次はシャロンいくか」

「…………」


普段なら小さな声で返事があるところだが、もはや緊張しすぎて声も出ていない。

口は動いているのはわかるのだが、音が出ていない。

大丈夫かこれ。


「よし、じゃあ始めようか。どうぞ?」

「…………」


またぽそぽそと口が動くシャロンだが、やはり声は出ていない。

だが、魔法は発現した。

シャロンの周りに水魔法による水のヴェールが立ち上がる。


「!!?」


その事実にライヤは驚きを禁じ得ない。

発声無しで魔法を形作れるなら理論上、無詠唱も視野に入れることが出来る。


ザバァー……。


ライヤが驚いている間に水のヴェールは解け、その奥で倒れているシャロンが見つかる。


「おいぃ!?」


ライヤはすぐに駆けよって抱き起すが、


「気絶してる……」


ライヤと戦うというプレッシャーに耐えられなくなったのだろう。



「シャロンはまた今度かな……」

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