助っ人

「奇遇は奇遇ですかね……?」

「あら、先生なのですから。私に敬語など不要ですよ?」

「さいですか……」


この場にこの年でいる時点でえらいことなのだ。

どういう立場の人間かは知らないが、ライヤなんかよりも立場が凄いのは確かである。


「いつお声かけしようか迷っていたのですよ。先生もお忙しいでしょうし。ここでお会いできたのは僥倖でした。いずれ我が家にお招きしたいと思っているのですが、いかがです?」

「俺に拒否権はないですよ……。それはそれとして、俺のことは知ってるみたいだけど、そちらのお名前を伺っても?」

「あぁ、申し遅れました」


未成年らしく、全身をしっかりと布で覆ったライムグリーンのドレスの胸に手を当て、優雅に礼をする。


「エリアル・グランドと申します。どうぞお見知りおきをライヤ先生?」





グランド家。

王国に3つしか存在しない公爵家である。

国の動きに大きな影響を及ぼすほどの力を持っているが、長年の王国への貢献によりその権力を貴族として最大限持っている3勢力のうちの1つ。

互いの勢力争いは貴族ゆえあれど、王国の危機には団結する。


「道理で……」


現在15歳くらいであろうことを鑑みれば、この場に初めているとしてアンと同じくらいのお披露目か。

それだけでこの少女への期待が伺える。


「アン王女と仲のよろしい先生には言うまでもありませんが、私に敬意など不要です。先生でもあるのですから」

「この場では難しいだろう」

「そんな……! 淑女の馬車を荒らしておいてこんな些細なお願いも聞いていただけないのですか……?」

「わかったから声を落とせ……!」


今までは会場の音量に合わせた声だったのにそこだけ気持ち声を大きくして周りへアピールするエリアル。

その内容が内容なだけにピクリと周りの大人が反応しているのを感じたライヤは止める必要があった。


「それで、まず何年生なんだ?」

「5年です」

「イリーナと一緒か……」

「あら、イリーナさんとも関わりが?」

「クラブ顧問だからな、一応」

「あぁ、魔術クラブですか……」


少し顔を陰らせるエリアル。


「……何か知ってそうだな?」

「……ここではお話しできません」


なるほど。

公爵家ならではのものか。

これはエリアルに会う理由がライヤにも出来た。


「招待を待っていることにするよ」

「えぇ、もちろんです。それよりも今はこの場を楽しみましょう?」

「楽しむような場ではないと思うんだが……」


ふわりと笑ってライヤの腕をとるエリアル。


「!?」


そのままトコトコと少し歩いていく。


「おいっ!?」


向かうのは大広間の壇上の真ん前、少しひらけたところ。


「今年も無事に終わることが出来……」


アンの目に映る、エリアルが腕を絡ませているライヤの姿。


ビキッ!


アンの持つ拡声器にひびが入るようなノイズが響く。


「えぇ、来年も健やかに迎えられたらいいと思いますね」


刺すような視線を向けるアンに必死に首を振って無実を主張するライヤ。

そしてその横で微笑んでいるエリアル。

ライヤに来年はあるのだろうか。





「エリアルは昔っからああなのよ! 今回は許すけど、次はないわよ!?」

「あい……」

「あははっ! あのライヤ先生があんなにしょんぼりしてるなんて!」

「エリアル、あなたもよ! その人のものであればあるほど欲しくなるのどうにかしなさい!」

「どうにかってどうするのよ」

「どうにでも、よ!」


アンの部屋に戻り、とりあえずライヤが説教され、知らない人が1人。

ヨルは非常に困惑していた。


「えーっと……?」

「ヨル、こちらはグランド家のエリアルよ。公爵家の人間だから、仲良くしておいて損はないわ」

「! 海洋諸国連合の辺境伯の一人娘、ヨルと申します! 王国の方々にはお世話になるばかりか、ご迷惑をおかけしてしまい……」

「あぁ、そういうのは大丈夫ですよ、ヨルさん。あなたの方が年上でしょう? それに、私は何の被害も受けていませんもの」

「え……?」

「ヨル、その子はまともではあるけど、かなり利己的よ。自分の損になりそうなことには容赦ないけど、得になりそうであればかなり協力してくれるわ」

「え、なるほど?」


何も聞かされていなかったライヤは頷くことしかできない。


「もう戦争は止められないわ。なら、その準備を急がなくちゃ」

「三大公爵家は既に状況を知っております。ヨルさんの保護はライヤ先生に一任しますが、その補助を行わせていただくのがグランド家です」

「もう少しはこそこそ隠しておくけど、準備が出来たらこちらから仕掛けるわ」

「その際にはヨルさんを担がせていただきます」

「ヨルには負担になるだろうけど、そのくらいは働いてもらうわ」

「ライヤ先生にはその補佐をお願いします」


2人の交互の説明に全く口を挟めないヨルとライヤ。

2人は実感するのだった。


あ、国を率いる人ってこんな感じなんだ、と。

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