1年のご褒美
「ってかアンとエリアルはなんでそんな仲が良いんだ? 学年的にはイリーナと一緒なんだろう?」
「確かにそうね。でも、年が違うって言っても2,3年くらいよ? 人との関わりでそんなの誤差でしかないわ」
「深っ……!」
生きている時間は人より長いとはいえ、学生時代を2回送っているだけのライヤにはそういう考え方はない。
社会に出て年上、年下と関わることが増えればそういう考え方になるのだろう。
彼女らは小さなころから社会に出て、遥か年上と関わってきているからその考え方が染みついているのだ。
特にアジャイブ魔術学校は学年を超えた関わりが薄いため、そんな感覚はよりなくなるだろう。
「それに、私たちは長子だしね。自然と関わる機会は増えるわ」
「そうですね、私たちは見た目もいいですから。昔からいいように使おうとする人も絶えませんでしたから。そこで意気投合したというのもありますね」
「ただ、聞いてよライヤ! エリアルったら人のものばっかり取ろうとするのよ
!?」
「ふふ、ちゃんと守ってない方が悪いのですよ。ねぇ、先生?」
「ライヤだけは渡さないわよ!」
ガルルという獣の声が聞こえそうな気迫で威嚇するアン。
「ま、今回は難しいでしょうね。でも、先生がアンよりも私を好きになれば話は別でしょう?」
「あり得ないわよ!」
「そう? どうでしょう、先生?」
「人の感情ってのは流動的だからな」
ライヤの言葉にほら、という顔をするエリアル。
「だが、今回は断言しよう。俺の最優先はアンだ。それだけは変わらない」
力強いライヤの言葉に、目をぱちくりとさせるエリアル。
アンは真っ赤になって俯き、ヨルはさながら少女漫画を読んでいるようなにやけ顔。
「ふふっ♪」
エリアルが笑みをこぼすが、それは今までのものと違った。
言うなれば、捕食者の顔をしていた。
「これは楽しめそうですね?」
「えぇ……」
ライヤには珍しくかなり明確なお断りの言葉だったのだが、聞き入れてもらえなかったようである。
「ライヤさん、格好良かったです!」
「そ、そうか? お気に召したならまぁ何よりだが……」
「こう、お腹の奥の方がキュンキュンしました!」
「それ絶対他で言うなよ? 絶対だぞ?」
何を口走ってんだこの合法ロリは。
「まぁ、エリアルのことは置いておくとしてだ。ヨルを担いで正当性を主張、こちらから仕掛けるって寸法だな?」
「えぇ、攻める展開の方がもちろんいいもの。期は伺うけどね。向こうがギリギリになったら始めるわ。ヨルは裏切者っていう烙印を押されるかもしれないけど……」
「もちろん、構いません。むしろその程度でお役に立てるなら……!」
「そう気負わなくてもいいわ。十中八九負けないもの」
「そこだよな」
「えぇ、諸国連合をけしかけても勝てないのはわかってるのに、わざわざなんでするのかってとこよね」
公国の仕業だと仮定しても公国にうまみがない。
「うちの国が潰れるってだけじゃダメですか……?」
「理由としては弱いわ。だって今回の戦争の結果次第では諸国連合が王国の傘下に入るのよ? 安定させるまでに時間はかかるかもしれないけど、安定さえしてしまえば公国は帝国と王国の両方と接することになるわ。できるだけ挟まれたくないっての言うのは当然じゃない?」
「確かに……」
「それを差し置いてでもやりたいことがあるのかしらね……」
「俺たちは後手に回ってるからな。仕方ないことではあるけど……」
狙いがわからない一手というのは非常に気持ち悪い。
ボードゲームでもよくあることだが、強い手でも狙いが明確なら対処するのは可能だ。
だが、狙いがわからない手には迂闊に飛び込めない。
それが敗着になる可能性があるからだ。
「お、そろそろ帰るか。寝ないとな」
「え?」
「え?」
いい時間だからと帰ろうとしたライヤに首をかしげるアン。
そしてそれにまた首をかしげるライヤ。
「泊っていくでしょ?」
「いや、本当に勘弁してください」
「心配しなくても取って食うわけじゃないわよ。ご飯食べたの?」
「いや、結局食べれてないけど……」
「そう、なら用意させるわ。ヨルもいるわよね」
「いただきます!」
とんとん拍子に話が進んでいく。
「新年の王への挨拶は長子からって決まりなのよ。その際に伴侶も同行するってね」
「……」
無言で窓から飛び出そうとしたライヤをアンが片手でローブの首元を掴んで引き戻す。
「2人だけの秘密なら良かったけどね。お父様もお母様も知ってるんだから逃げられないわよ。むしろいなかったら将来が閉ざされるまであるわ」
「何という強権……!」
「そりゃ王様だもの。ライヤが帰れないから、当然ヨルも泊りよ」
「あ、わかりました」
「ヨルがここで寝るだろ? じゃあ、俺はそこのソファで……」
「何言ってるのよ。一緒にベッドで寝ればいいじゃない」
「わかってて言ってるだろ!?」
「えぇ、でも私のために一緒に寝てもらうわ。私今年は頑張ったわよね?」
「う……」
「ちょっとくらいご褒美があってもいいでしょう?」
「なら、私はソファで……」
「お客様をそんな扱いするわけにはいかないわ。ライヤの片腕を許します」
「本当ですか!?」
腕をその胸にかき寄せるアンと、小さな全身でがっちりと腕をホールドするヨルの柔らかな感触にライヤが一睡もできなかったのは言うまでもない。
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