商会へ

「よく来たねぇ!」

「息子への挨拶はないのか」

「早々と実家を出ていった息子なんか知るもんか! そんなことよりお客様だろう?」


言わんとすることはわかる。

ライヤとて少しは負い目を感じているのだ。


「学園のSクラスの皆様! ようこそカサン商会へ! 私は代表のサラと申します」

「Sクラス代表のウィルです。今日はよろしくお願いします」

「はいはい、任されました! では、まずはこちらへどうぞ!」

「……思っていた方とかなり人物像が違いました」

「うるさいって?」

「いえ、そこまでは……」


ぞろぞろと移動しながら生徒たちはライヤに困惑している旨を伝える。


「俺はどっちかというと静かな方だが、母さんは見ての通りだ。俺も本当にこの人から生まれたのかと疑ったことはある」

「ライヤー? おかしなこと言ってないで、皆さんを案内しなさい!」

「ご、ごめん母さん」


さしものライヤも母親には勝てないようで、普段傍若無人なライヤが人に対して下手に出ているのを見るのが初めての生徒たちは目を丸くしていた。


「この子ったら学園に入るなり家を出ちゃってね。商売に興味がなかったってのもあるけど、それにしても家に帰ってこないのよ。あら、こんな話じゃなかったわね。ちゃんとお仕事しなきゃね!」

「えぇ、その話は後程詳しく」

「ウィル、聞こうとするな!」

「あら、興味ある?」

「もちろんです。皆さんもですよね?」


各々頷く生徒たち。


「なら、お昼ご飯の時にでも話そうかね! 商会の仕事をおおまかに説明していきますね!」


ウィルはふてくされているライヤを見て可愛いと思うと同時に、サラを見て納得していた。


(先生とは方向性が違いますが、良い意味で遠慮がありません。課外授業ではこちらが見学させてもらっている立場ですが、貴族という身分に押されて普段通りに出来ない方が多いと聞きます。少なくとも先生のお母様はそういったことはなさそうです。先生は立派に彼女のお子さんなんですね)


後から聞けるというライヤの過去の話に胸を膨らませながら説明を聞いていくのだった。



「こういった形で、王国における娯楽品の取引を主に行っております。うちの愚息の縁もあって王室御用達の権利もいただけたので、経営状況は良いほうですかね! 何か質問はありますか?」

「はい」

「そちらの……?」

「ティム、いいぞ」

「はい、娯楽品を扱っていらっしゃるというお話しでしたが、ここ数年で新たな娯楽品が流通し、流行っていると聞きます。そういったアイデアはどこから得ているのでしょうか?」

「当然の質問だね! 一応、隠してるわけじゃないんだけど、ライヤのアイデアさ」

「「!」」

「この子は律儀にも自分の学費を返そうとか思っててね! 最初はいらないって言ってたんだけど、当時怪しかった経営状況を一変させる策があるとかで聞いてみたら当たったのさ! アイデアをライヤから買う形で学費は返してもらった形になるね!」


ぐるりと生徒たちが後ろに控えているライヤの方を見る。


「詳細は言わんが、特に大したことじゃないから気にするな。俺は子供の時から思うままに勉強させてもらった。だけど商会を継ぐ気はなかったからな。精一杯の恩返しってやつだ」

「何をどう育て方を間違ったらこんな頭の固い子が生まれるんだろうねぇ」

「育て方間違ったとか言っていいことと悪いことあるだろ!?」

「あぁ、間違えた。今のなしで!」

「無理だろ!」


和気あいあいとした親子のやり取り。

貴族の親子とはまた違った親子の在り方に生徒たちは新鮮味を感じていた。

貴族の家族関係は良くも悪くも形式的だ。

一緒に食卓を囲むことなどあまりないし、それぞれ独立した生活を送っているのが普通だ。


「少し対象年齢が高いから、皆さんはやったことがないかもしれません。今日はお土産に1人1つプレゼントしますよ!」

「やったー!」


おもちゃはおもちゃだ。

貰っていて嫌なものじゃない。


「とテンションも上がったところで、うちの流通の方法を見に行きましょうか!」


またぞろぞろと移動する。


「うちは小売りは担当していなくて、卸売りがメインになります。うち発案の玩具を工房に依頼して作ってもらい、それを小売店に融通する形になるね!」


ライヤは自分の親が想像の500倍くらいまともに課外授業をこなしてくれていて安心していた。

凡そ2年ぶりの実家にはなるが、先ほどの会話からもわかる通り、かなりの放任主義。

ライヤにとってはありがたいことこの上ない家庭であった。


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