駄菓子屋
「こんちわー」
なぜかこのお店にだけある暖簾をくぐり、お菓子屋さんへと入る。
「おぉ、よく来たねぇ。久しぶりじゃないかい?」
「おばあさんもお元気そうで何よりです」
おばあさんが1人で切り盛りしているお菓子屋。
いや、駄菓子屋である。
何を隠そう、彼女も日本からの転生者らしい。
「元気にしておるかと心配しておったのに」
「就職してからこっち、忙しくて……」
「ほほ、怒っておらんから心配するな。して、そっちのちんまいの達がライ坊の教え子かい」
「そうですけど、ライ坊はやめてくださいよ」
「嫌だね。ライ坊より先に死ぬ者の、精一杯の意地悪じゃ」
この世界で流通しているはずのない、駄菓子を作っていること。
そして店の外観をできるだけ日本の家屋に寄せていること。
さらに暖簾。
7歳の時のライヤがここを通りかかり、ピンときたのが始まりだった。
日本から来た人間にだけわかるようなものにしていること。
常々考えてはいたのだ。
ライヤは偶然菅原道真公にこの世界にいざなわれたが、日本に神は八百万いるらしいし、道真公のように歴史上の人物が祀られて神になることもある。
忘れられ、信仰を失って消えていく神もいれば新たに生まれる神もいるのだろう。
となれば、他の神に異世界に送られた者もいるだろう。
道真公が言うには、幾多の世界があるらしいから同じ世界に出身が同じ人間がいることは少ないだろう。
だが、ゼロではない。
その可能性にかけておばあさんは駄菓子屋を営んでいたのだ。
同じ日本から来た人に気づいてもらえるように。
「よし、皆。ここにあるものの中で600G以内だ」
「ゆっくり選んでいきなよ。おいしかったら、またおいで」
三々五々、決して広くはない店内に広がっていく生徒たち。
彼らにとっては初めて見る物だ。
楽しい経験になるだろう。
「体調の方はどうですか?」
「まだ大丈夫そうかね」
「こっちでは少しの異常が命取りですからね」
「わかってるよ、ライ坊も命を大事にしなよ? また厄介ごとになっているんだろう?」
「……わかります?」
「そりゃこんだけ生きてるからね。2,3年前くらいとおんなじ顔してるよ」
「それって昔の人の特権じゃなかったんですね……」
話をしていくうちにおばあさんとライヤの生きていた年代が近かったことがわかったのだ。
彼女の方が少し年上であったし、亡くなった年も少し早かったらしいが、精々5年以内の事。
同じ年に死んでも同じ年に送られるわけではないことがわかった。
ライヤが同じ日本人として見つかった今、この店をいつまでも開けていく必要はないとライヤは言ったのだが、
「次にまた日本人が来た時に頼れる場所がないと困るだろう? 誰もがあたしたちみたいに上手く生きていけるとは限らないんだ。その時に助けてやれるようにしたいんだよ」
とのことだった。
長く生きた人間は視点が違う。
「ライ坊が凄すぎるのさ。あたしも慣れるのに20年はかかった。あの年であんなに自然なのはおかしいさね」
「ばあさん! これいくらだ?」
「おい、ゲイル! 俺の恩師だぞ! じゃない! 年上には敬語を使え! 貴族であってもだ。よほどのクズじゃない限り、年上には敬意を払え」
「はい……」
「おぉ、立派に教師やっとるじゃないか。それは45Gじゃ。良く計算して買いな」
「ありがとう、おばあさん!」
値段を聞いてゲイルはまた去っていった。
「おばあさん、こちらはどういったものです?」
「ドーナツといってな。ケーキの一種とでも考えてくれればよい」
「ありがとうございます、おばあさん」
「……これ、は?」
「それはじゃがりこだね。150Gだよ。ちょっと高いけど、味は保証するよ。あ、甘くはないからそこは気を付けなね」
「(ペコリ)」
「相変わらず値段書いてないんですか」
「こうしておしゃべりできる機会を作らんとね。あまり繁盛してるわけでもないし、このくらいが丁度いいのさ」
それでもこの店も30年ほどは続いているらしいから凄い。
日本ではコンビニの発展によって用途が限定的すぎる駄菓子屋は消えていった。
他にもスーパーマーケットの出現によって青果店や肉屋、魚屋がなくなったり、ショッピングモールによってデパートが消えたりしているが、この世界にはまだそういう傾向はない。
そんなことが出来るくらいの資産を持つのは貴族だけだが、その貴族たちは平民の暮らしになんて興味はないのだ。
「まぁ、俺もこの雰囲気が好きですよ」
「そうだろう? 詫び寂とはこのことを言うんだねぇ」
日本にいた頃は人気のあるところの方がいいのかもと思っていたが、神社とかの良さもわかるようになってきた。
初詣の時期とかは別だが。
いや、逆に遊園地がさびれていたりしても嫌か?
「それで、問題だよ。ライ坊、何とか出来るのかい?」
「さあ? 戦争自体は止められないでしょうね。そういう世界ですし」
「また行くのかい?」
「かもしれませんね。守らないといけないので」
「あぁ、あの姫さんかい。そりゃ男としていかなきゃならんね」
「ちなみにさっきの髪の白い子があれの妹です」
「似てるからねぇ、そうだと思ったよ。ただ、性格は大分違うようだ」
にかりとおばあさんは笑う。
「姫さん2人を落ち込ませるわけにもいかんだろう? あたしは戦争に行ったことがないからぇ偉そうなことは言えんが、生きて帰るんだよ」
「必ず」
「そしてまたここに顔を見せておくれ」
「みんなも連れてきます」
「それがいいね。その時はサービスしてあげるよ」
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