海の攻防
「なんで2人がいるんだ……?」
「あら、ここはエウレアさんの実家の領土ですもの。私がエウレアさんから招待を受けて来ていてもおかしくないのでは?」
「……」
笑顔のウィルとキュポッとオイルの蓋を外して渡そうとしてくるエウレア。
どこで覚えてきたんだこんなこと。
「ウィル、あなたはクラスメイトと一緒でしょう? その子と遊びなさい」
「いえ、アン姉さま。クラスメイトと一緒に先生とも遊びたいです」
バチバチと火花が見えるような2人の横で飄々としてオイルを差し出したままのエウレアとビビっているライヤ。
「エウレアってさ、兄弟とかいる?」
「(フルフル)」
「兄弟、あぁこいつらは姉妹か。姉妹喧嘩ってこんな感じになるのか?」
「(コテン)」
「わからない、と。まぁそうだよな」
姉妹であれ、こういった要因で喧嘩になることなどほぼないだろう。
「ライヤは私にオイルを塗りたいわよね!?」
「先生、生徒のお肌の保護も仕事ですよね!?」
「どういう話になったんだ今の時間で……」
「「ね!?」」
「どっちにも塗らないよ……」
色んな方面に問題が出ること必至である。
「……じゃあ、私?」
「悪乗りしてくるなよエウレア……」
既にライヤの精神は疲労困憊である。
「ライヤは白い私と日焼けした私どっちが好き?」
「アンなら白いままの方が綺麗だと思うよ」
「私は、私はどうですか先生!」
「ウィルもだよ。みだりに焼かない方が綺麗だと思うな」
「エウレア! お願い」
既にアイコンタクトで例のメイドにオイルを塗らせているアンに対抗してエウレアに頼むウィル。
意気地なしと言うようなジッと見つめるエウレアの瞳から目をそらすライヤ。
「勘弁してくれ……」
「ウィルは泳げるのか?」
「そうですね……」
少し考え込むウィル。
「……海は初めてですし、あまり自信もないので、教えていただいてもいいですか?」
「あぁ、それはもちろん。おぼれても怖いしな」
もちろん、建前でウィルはアンよりも普通に泳げる。
ライヤの背後では上手くやりやがったと顔を顰めるアンとグッとガッツポーズをしているエウレアの姿があった。
「じゃあ俺が手を引くから、ひとまず泳いでみようか」
ウィルがギリギリ足がつくかつかないかくらいの深さで練習を試みる。
もちろんライヤは足がついていて簡単に手を引けるが、ライヤは立ち泳ぎも得意としているのでもっと深くても問題はない。
所謂スクール水着に身を包んだウィルの手を引く。
「ちなみに、なんでその色?」
「お嫌いです?」
「いやぁ……」
なんとパーカーを脱いだウィルの水着の色は光沢のある白だったのだ。
色身で言えばアンの水着と変わらないのだが、スクール水着であるという事実があまりにも大きい。
「先生がお好きかと思って♪」
「……」
否定できないのが男の悲しい性である。
だが認めてしまえばおめでとう、犯罪者の仲間入りとなるのでそれも出来ない。
「さ、やるぞ」
「はい♪」
手ごたえがあったウィルはご機嫌である。
一方その頃残されたアンとエウレア。
「あなた、わかってるの?」
「……」
「まぁ、マルクス家の者ならわかっていないわけはないんでしょうけど。あんたはともかく、ウィルに実戦をさせるのはまだ早いわ。実力どうこうよりも、覚悟が決まっていない。簡単にあの子は崩れるわよ」
アンとてただ遊びに来たわけではない。
賢者の忠告を受け、マルクス家からの情報をもとにこの地に来たのだ。
ただ海に行きたいのであれば他にもいくらでも候補はある。
だが、何かが起こった時に迅速に行動できるようにと国を代表して赴いているのだ。
「……王妃様も確認済みです」
「お母様が? イリーナならまだしも、ウィルが来るなんてお父様が許すわけないと思ったけど」
「……アン様はご自身で大丈夫でしょうから、ライヤ先生はウィル様をお守りするだろうと」
「その理論だとあんたは自分でどうにかするしかないのだけど」
キュッと唇を結ぶエウレア。
「……そんな覚悟いらないのにね」
その様子を見てアンはため息をつくのであった。
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