バイキング

「夜……?」


ライヤが起きたのは次の日の夜。

ライヤ自身は夜に限界が来てから寝たという記憶しかないので今が何回目の夜なのかを測りかねている。

その気になれば3日くらい寝ていられるのがライヤの数少ない特技なのでなお質が悪い。


「あら、やっと起きたのね」


体を起こすと、窓際で本を読んでいたアンから声がかかる。

柔らかい色のランプに照らされる姿は、まるで絵画のようであった。


「……どうしたの?」

「いや、なんでもない。俺何日寝てた?」

「ちょうど一日よ。今からみんな寝るんだから、もうちょっと寝てても良かったけどね」


しかし、そんな恥ずかしいこと言えるわけもなく。

どのくらい寝ていたのかの確認を取る。


「寝るのは別に大丈夫だけど、流石にお腹がすいたな。頼めば持ってきてもらえると思うか?」

「じゃあ、行きましょうか」

「?」


会話繋がってない?


「いや、部屋に持ってきてもらうんじゃないのか?」


それが普通だったはずだけど。


「この旅館は新しい方式に挑戦しているそうよ。昨日私たちも行ったけど、楽しかったからライヤも一緒に行くわよ」

「ふーん。え、一緒にってことはアンもまだ夜ご飯食べてないのか? 結構いい時間だろう?」


パタンと本を閉じたアンは軽く微笑む。


「そろそろライヤが起きる時間じゃないかと思って待っていたのよ。待っていた甲斐があったわね」


つくづくいい女である。




「これは……、バイキング?」

「あら、知ってるの?」


アンに案内されてついた食堂には、様々な料理が所狭しと並んでいた。


「他のお客さんは……」


ライヤの記憶が正しければ、多くの人が料理をめぐって好きなものをとっていくというスタイルだったはず。


「この旅館の新しい試みとして考えていて、それを先行体験させてもらっているわ。私が来るから少し気合いが入っているという事はあるかもね」


気合いが入っているどころの話ではないだろう。

どんなものにも適量というものがある。

バイキングにおける適量とは、お客さんの量と食べる量に応じて最後に全ての料理が消費されることを言うはずだ。

だが、食堂に所狭しと並べられた料理の数々は100人が一斉にこの食堂に来たとしても消費できないほどだ。

各地に恐らく雇われの魔法使いが配置され、熱を与えることでホカホカの状態を保っている。

現状、ライヤとアンの2人しか利用しないことを考えると過剰にもほどがあるだろう。


「これ、余ったらどうするんだ?」

「さあ? 従業員が食べるんじゃないかしら」


あまり気にしていないアンの物言いに、静かに頭を抱えるライヤ。

というのも、普通の客相手であればそれもあったのではないかと思われるのだが、アンは王女だ。

そういう形式のものだとはいえ、王女が手を付けたものを食べるわけにはいかないのではないだろうか。

食品ロスの観点では、信じられないほどやらかしている。


「何してるの、ライヤ。お腹すいてるんでしょ?」


とはいえ、お腹がすいているのも事実であり、一旦置いておいてお盆片手に料理を物色するのであった。





「海よ!」


そして翌日。

海へ繰り出している。


「どう? ライヤ! 綺麗じゃない!?」

「めっちゃ綺麗だな」


ライヤは2つの意味で言っているが、それを察したアンはご満悦だ。

海も言うなれば手が付けられていない状態。

整備された海岸のように砂浜が全て綺麗というわけではないが、ゴミが浮いていることなど絶対にない透き通った海。

そして完璧なプロポーションを誇るアンの肢体。

非の打ちどころがない状態である。


「先生、オイルを塗って下さらない?」

「……ん」


ここに生徒であるウィルと、スッとオイルを差し出してくるエウレアがいなければ。

なんでいるんだ。

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