体調管理
翌日。
「ごほっ、ごほっ……」
「見なさい、無理するから……」
ウィルが体調を崩していた。
ウィルは基本的には別に病気を持っていたりはしないのだが、如何せん体力がない。
昨日の海ではしゃぎ過ぎたことによって体調を崩してしまったのだ。
ウイルスなどによるものでもないので休むことでしか体調の回復は見込めない。
少し強いことを言っているようだが、アンも内心では心配している。
それをウィルもわかっているので文句などを言う事はない。
「とにかく、今日一日は安静にしていなさい。私たちも今日は宿の中でのんびりしておくことにするから」
「で、でも、ご迷惑をかけるわけには……」
「迷惑だなんて思わないの。どうせ休養を取るために来たんだから。ちょうどいい機会よ」
そう言い残して颯爽と部屋をあとにするアンをベッドから見つめる。
「……」
どうしても、負い目と嫉妬を感じてしまう。
自分がもう少し体力があれば先生に迷惑をかけることもないのに、と。
「エウレアさん。あなたも休んでいいのですよ？」
「（フルフル）」
朝からベッドの横で様子を見守ってくれているエウレアにも声をかけるが、離れようとはしない。
従者として心配をしているのもあるが、前期間クラスメイトとして過ごしたこともあって友達としての心配も入っているのだ。
風邪などでもないので感染の心配もない。
エウレアの実家の領地と言えど、実家そのものではないので特に知り合いがいるわけでもない。
簡単に言えば、暇なのだ。
「よ、起きてるか？」
昼過ぎになり、少しウィルの体調も復活してきた頃。
コンコンとウィルが休んでいる部屋をノックする音が響く。
「せ、先生！？」
「そ、そんな拒否される……？」
思ったよりも反応が大きかったので来てほしくなかったのかと落ち込むライヤ。
しかし、そういったわけではもちろんない。
「（起きてないから髪もぼさぼさで、お風呂にも入っていないのに……！）」
そんな乙女らしい理由である。
「折角だから顔を見に来たんだけど、お節介だったか……？」
「いえ、そんなことはないです！ 嬉しいんですけど……」
「そうか？ じゃあ、入ってもいいか？」
「ど、どうぞ……」
大急ぎで体を起こし、手櫛でどうにか寝ぐせをマシにしてライヤを迎いいれる。
「お、もう体を起こしても大丈夫なのか？」
「えぇ、ご心配をおかけしました」
「体調がよくない時はよく食べて良く寝るのが一番だからな。何か食べたか？」
そういうライヤの後ろにワゴンがあるのを発見し、ウィルは戸惑う。
「えっと、果物だけ……」
「じゃあ、食欲はあるよな。折角だから作ってきたんだ」
「先生が！？」
「そんな驚かなくてもいいだろ。これでも一応一人暮らしなんだから」
現在はほとんどの食事はフィオナに支配されているライヤだが、学生時代は自炊を行っていたのだ。
料理には一家言ある。
「おかゆって言うんだが、こっちの人の舌に合うかわからないんだ。間違いなく弱っている時の食事としては最上級なんだけど……」
「こっちの人……？」
「あぁ、気にするな。それで、食べれるか？」
気遣って食べれないなら皿を下げようかというライヤに視線を向けていたウィルだが、ライヤの後ろで身振り手振りをしているエウレアに気づく。
そして、体調とは別にポッと頬を赤らめるウィル。
「！？ どうした、また熱が出たか？」
「い、いえ熱は出ていないので……！」
しかし、ウィルは意を決する。
「……ただ、少し体がだるいので食べさせていただいてもいいですか……？」
「え？ それはエウレアに頼めば……」
頼もうと振り返ったライヤだが、既に部屋からエウレアの姿が消えていた。
「は？」
あまりにも早い退室。
ライヤでも見逃しちゃうね。
「あ……」
スッと小さな口を開けるウィルに、ライヤは逃げ場がないことを悟るのであった。
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