体育祭当日 14:43

「それにしても、どこにいったのでしょうね?」

「クンが申し訳ありません、お姉さま……」

「マオさんが謝ることではないでしょう。それに、怒ってもいませんから。単純な興味です。午前の競技には参加していたはずですが……」

「あ!」


ウィルとマオがそんな話をしていると、周りにいた生徒が声を上げる。

その生徒の指さす方を見ると、少し目の周りを赤くしたクンがこちらへ歩いてくるのが見えた。


「クン! どこ行ってたの? 心配したんだよ」

「あぁ……、すまなかった」

「!?」


普段ならどんなことがあっても謝らないクンが素直に謝ったことによりマオは困惑する。

それは普段のFクラスでの様子を知っているクラスメイト達も同様であった。

Sクラスの皆はなぜそれほど驚いているのかわからなかったが、1人ゲイルだけは察していた。


(俺もあんな感じだったんだろうな……)


今では丸くなろうと努力しているゲイルだが、なまじ貴族であるという後ろ盾があった分厄介であった。


「ウィル王女も、俺の身勝手で……」


そう言うクンの言葉にはただいなくなっただけではない何かが込められているような気がしたが、ウィルは深くは聞かなかった。


「戻ってきてくれたという事は、競技に参加してくれるという事ですか?」

「作戦も何も聞いていない俺でいいなら、もちろん参加させてほしい」

「もちろんです! 人数が足りなかったのでありがたいですね」


各連合の人数の少ない方に合わせられるのだが、今回はS・Fクラス連合の方が人数が少なかった。

よって、その人数で登録されているのだが、クンがいなければそこから1人減ってしまう。

さらに言えば、クンはFクラスでリーダー格であることからもわかる通り、ある程度能力が高い。

この競技においては重要な人材であると言えた。


「さぁ、みんなそろったことですし! 勝ちましょう!」


皆を鼓舞するウィルを眺めているクンにマオは声をかける。


「何してたの?」

「お前には関係ない」

「ふーん……。まぁ、泣くだけ泣いたならいいんじゃない?」

「!?」


泣いていたのがバレないようにできるだけ目元を冷やしてきたのだが、どうやらバレバレだったようだ。


「何してたか知らないけど、お姉さまの邪魔だけはダメよ?」

「あぁ、身に染みてわかってるさ」





遡ること15分前。


「ライヤ先生も仕事をしていることだし、私も仕事をしなくてはなりません」


泣き崩れているクンに立ったままそう語りかけるアンネ先生。


「本来であれば王女の誘拐など企てるだけで重罪です。酒場で冗談として言っただけでも裁かれるでしょう。今回は実行にまで移しているのですから、それなりの罪になるでしょうね」


淡々と事実を述べる。


「教師としては生徒を守りたい気持ちももちろんありますが、罪をなかったことにはできません。これほどの大事であれば王族による裁定が下されるでしょう。事情を鑑みるに多少の恩赦はあるでしょうが、それも私の知るところではありません。ここまでで何か言いたいことは?」

「……ありません……」

「そうですか。生徒という事もあるので、あなたは守りたいですがね……」

「いえ、悪いことをしていたのはわかっています。悪いことをした人は、罰を受けないといけません」

「いい心がけですね」



「顔を上げなさい」


アンネ先生の声がして、クンが顔を上げるとそこには髪がきれいな真っ白になり、瞳が真紅になったアンが立っていた。

教師用の白ローブを着ているのでわかりにくかったが、少しポカンとした後にクンは叫びをあげる。


「あ、アン王女!?」

「えぇ、そうです。妹がお世話になっていますね」


何と言う事だ。

狙っていたウィルの姉の目の前で計画を聞きだされていたのだ。

あまりの事態に土下座して震えることしかできないクン。


「王家として、あなたの処遇を決めたいと思います。異論はありませんね?」

「……」

「肯定とみなします。では、クン。あなたは学園での7年間をすごしたのち、軍で働いてもらいます」

「え……?」


すぐに罰が与えられるというわけでないのに驚き、クンは顔を上げる。


「利用されていたという事とまだ子供であるという点を鑑みて罰としては労働が適当でしょう。しかし、あなたのような子供が必要とされる仕事など我が国では認めていません」


「よって、成長したのちに軍で10年間の兵役を命じます。Fクラスということもあって軍での立場はひどく厳しいものとなるでしょう。ですが、これは罰です。異論はありますか?」

「……」


反論など、できるはずもない。

そもそもこの罰でさえ軽い方なのだ。


「では、学園生活をこれからも送るにあたって今すべきことはわかりますね?」

「体育祭を、頑張ることです」

「よろしい、ではいきなさい」


「あぁ、そうそう」


ぺこりと頭を下げて立ち去ろうとするクンをアンが呼び止める。


「私がアンネ先生であることは他言無用です。もちろん、これ以降ウィルに手出しするようであれば容赦はしません」


ボンッ!


アンが開いた手のひらで火が爆ぜる。


「いいですね?」


コクコクと必死に頷いたクンはその場から逃げるように走り去っていった。



「容赦ないな……」


男たちを連行して戻ってきていたライヤはその様子を見てそう呟くのだった。

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