英雄と教師
ライヤに伝えられたのはもちろんライヤが体験したことだけであったが、それだけでも生徒たちにとっては驚愕に値する内容だった。
「ま、待ってくれ。先生。じゃあ、あれか? 先生はあのランボル殿と交戦してあまつさえ互角だったと言っているのか?」
「いや、だからゲイル。俺は実質負けてたって。そもそも俺はB
ゲイルが質問しただけで、他の生徒たちは開いた口が塞がらない。
生徒で戦争に駆り出されるのなんてほんの一握りだ。
それこそ、戦場に送って1人であっても役に立つと思われる人物しか選抜されない。
半端な実力では被害の数が増えるだけになってしまうからだ。
その場にいた時点でおかしいのは当然なのだが、この目の前にいる先生はそんなことを微塵も感じさせない。
それに、当時の戦争を大きく左右されたとされる奇策の立案者がライヤだという事も信じられなかった。
今ではその地域に人体に有害なガスがあるというのは知られていることではあるが、その戦争で利用されたことから広まったものである。
つまり、ライヤはそのことを知っていたか少なくともあたりをつけていたということになる。
そして、あの帝国の近衛騎士と一騎打ちをして互角だったという。
にわかには信じがたい話だ。
かなり軍事に力を入れている帝国の近衛騎士、それも皇子付きともなれば文字通り規格外の存在のはずだ。
それに曲がりにも学生の身で戦い、生き延びた。
「まぁ、今ならもうちょっといい勝負になるんじゃないか? あのおっさんがまた成長してなければだけど」
そしておっさん呼ばわり。
ここでゲイルは気付く。
「な、なぁ。うちの魔法を見たって言ってたのって……」
「あぁ、『極光の火炎』か? この戦争だな。お前のお父さんによるものだったが。あの魔法は規模こそ大きいが目的は目くらましで攻撃目的じゃなかったから何回か使用されてたからな」
「でも、先生」
「なんだ、エウレア」
「そんな先生が有名じゃないのは、おかしい」
「ふむ」
確かに、ちょっと悪目立ちはしたけどな。
「あのあと俺は査問会にかけられたんだぞ?」
「「!!」」
曰くスパイじゃないかとか、王女様にはふさわしくないだとか。
今更かよという議題で延々と引っ張られた。
俺が根負けしてアンの近くからいなくなりますってことにしたかったんだろうが、もちろんそんなことはアンがさせない。
しんどかったのはしんどかった。
良く知りもしないおっさん共に囲まれてないことないこと言われるんだからそりゃいい気はしない。
その頃は王様からの印象もアンに引っ付いてる平民くらいにしか思われてなかったからな。
1か月ほどたって戦後落ち着いたらピタッと止まったが、俺がまぁかなり活躍したことが王様に知られてそんな奴を貶めてるのは何事かとキレたらしい。
というのも、俺が作戦をお願いしたB
お世話になりっぱなしである。
「それで、王様からも謝られて大々的に褒美を与えるって言われたんだけど、断った。要らないものまで押し付けられそうだったからな」
権力を握るものは責任も負わなければならない。
そして、俺には責任を負う意思がなかった。
当然である。
「アンにはしこたま怒られたが、俺が将来教職を目指す時に邪魔がないようにしてくれとお願いした」
「……推薦、とかじゃなく……?」
おずおずと聞いてくるシャロンの頭を撫でながら言う。
「そりゃそうだ。推薦されて入った教師なんて誰が信用する? 邪魔がない状態で受からなかったんだったらまた来年頑張るかとなるけど。お前たちだって今この話から俺が『だから試験とか無しで教師になったんだよね』とか言ったら教わろうとは思わないだろ?」
フルフルと無言で顔を横に振る皆。
あれ?
「そんな凄いやつの授業を聞けるなんて、いくらお金があっても機に恵まれないとできない」
「なら、これからはちゃんと授業聞いてくれるよな?」
「あぁ」
ゲイルすら従順になっている。
これ最初から話してたら良かったのか?
いや、それだと距離感がな……。
「それに、実績がある人からその経験を聞く価値はあると思う。今みたいに。でも、それと教師として何かを教えるのって別だろ?」
じゃないと世の天才が教えた人たちがみんな凄い人になってしまう。
分かりやすいところだとガリレオとかアインシュタインとかが他人に教えたところで周りの人に理解されたとは思えない。
そもそも天才は常人には理解できない価値観やら考え方やら思考回路を持ってる可能性が高いから、そもそも向いていない。
だからこそ、教師には凡人が向いていると思ってる。
もちろん例外はいるだろうが。
「少なくとも今までのカリキュラムは出来るまでやれば出来るっていう学園の意味がないやり方を採用してただろ?」
教師連中が非凡であるため出来ない者の苦しみがわからないのだ。
創意工夫が足りない。
「ま、自分でも割と凄いことしたとは思ってるけど世間的には何でもないし気にしないでいい。今まで通り、先生と生徒だ、だろ?」
「お姉さま」
「あら、ウィル。珍しいわね」
珍しく忙しそうに公務をこなしておられるアン姉さまに会いに来ました。
「本日、ライヤ先生から戦争のお話を伺いました」
「そう」
「先生は、本当にあのようなことを……?」
「なに、疑ってるの?」
「いえ、そういうわけではありませんが……」
多少なりとも疑問を持つのは当然ではないだろうか。
ウィルに選民意識のようなものは無いが、それでも平民としてライヤは常軌を逸している。
「ま、心配しなくてもいいわよ」
「え?」
「あなたたちが聞いたのなんてほんの一部でしょ? あんなに長丁場になったのにその全部を話すはずないしね。貴族相手の話は?」
「あ、本当に少しだけ……」
「そう……」
少し考えた後、アン姉さまが口を開く。
「なら、私から話すことはないわ。とにかく、あなたたちはライヤから教えてもらっているのをもう少しありがたく思った方がいいわ」
そう言って公務に集中しだしたアン姉さまにぺこりと礼をしてその場を後にする。
「貴族相手……?」
まだ追加があるの……?
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