体育祭へ

「おはようー」

「「おはようございます!」」


おぉ、元気のいいことで。


「そんな固くなるなよ。昨日も変わらないって言っただろ?」


そんなこと言っても全く改善されない様子。

やっぱ言わない方が良かったか?


「さて、今日は授業は一旦置いておいて、大切なお話がある」


ゴクリと唾をのむ皆。


「体育祭があるぞ」





アジャイブ魔術学校は魔術学校という名前がついてはいるが、日本で言う義務教育の類である数学とか、歴史とか体育とかも存在する。

そして生徒数が多いため学年を超えた関わりは少ないが、学年内の関わりをもたらす数少ない行事のうちの一つが体育祭である。

学年内でSクラスからFクラスまで存在するが、人数がピラミッドのような形になっているので各チームの人数をできるだけ均等にするためにSとF、AとE、BとDが組むことになる。

Cクラスのチームは人数が少なくなる分、1人2回出場する場合が多い。


「それで、体育祭のジレンマは知っているな?」


簡単に言えば、組むクラスの実力が近ければ近いほど勝ちやすいのである。

平均値で勝負できるというのはあるが、一番はSクラスとAクラスがチームメイトを下に見て協力しないからだ。

魔術学校であるのだから体育祭にも魔法は用いられる。

しかし単純な体力勝負の競技だってあるし、団体競技も存在する。

そんな中で協力する姿勢がなければ順位が下がってしまうのは当然ではないだろうか。


「でも、先生たちの年は違いましたよね?」

「そりゃアンがいたからな」


いつも一緒にいるCクラスに息が合うのは当然だし、同じ平民同士のBクラスとDクラスが協力できるのも当然だ。

しかし、俺たちの代はSクラスにアンと言う一際カリスマのある存在がいたため、他のSクラスがFクラスをないがしろにするのを許さなかったのである。

Fクラスは農民出身で子供の時から家業を手伝っている子たちも多いため、体力に関しては他よりも優れている。

そこにSクラスの魔法と戦略性が加われば最も優勝に近いのはこの組だと言える。

そこを考慮して学園長はこの組み合わせにしているはずなのだが、上手くはいっていない。

ちゃんとSとFの組が勝ったのは俺たちの代くらいじゃないだろうか。


「……先生は、勝てなかったんですか……?」

「ん?」

「……先生と、アン王女は別々ですよね……?」


なるほど。

アンが勝ってたってことは俺が負けてたってことだもんな。


「一応、7年間のうち2回は勝った。だが、他の5回は全てSとFの勝ちだったな」


未だに悔しいことの一つでもある。


「それで、お前たちにも頑張って欲しいなってことなんだよ。折角なんだから1位目指してくれってことだな。あぁ、もちろんFクラスを適当に扱ったりしたらどうなるかわかってるよな?」

「任せてください」


お、ウィルがいつになく乗り気だ。


「先生」

「ん?」

「これで1位になれたらご褒美を所望します」

「あ? あぁ、うん。俺に出来ることなら。みんなも考えてくれていいぞ」


幸いお金も余ってるし。

多少なりとも何か買えるだろう。


「では、皆さん頑張りますよ!」

「「はい!」」


すんごいやる気だ。





「というわけで、一緒に体育祭を戦うので挨拶に参りました」


放課後、先生に少しだけ早く終わらせてもらい、F級(クラス)の教室に来ました。

少しでも自分たちのことを知ってもらおうというわけですね。

ただ、こう見ると生徒数の違いが如実過ぎて少々気圧されますね。

凡そ1000人ほどでしょうか。


「ウィ、ウィル王女!? どうしてまたFクラスに……」

「先ほども申し上げました通り、顔合わせです。少々お時間よろしいですか、先生?」

「それは、まぁ、構いませんが……」


ここの先生もAクラスのはずなのですけど、自信がなさげですね。

先生になれているのだからもっと自信を持てばよろしいのに。


「皆さま、ごきげんよう。ウィル・シャラルと申します。今度行われる体育祭にて同じチームになるという事で一緒に戦って頂きたいと思い、ご挨拶に参りました。Sクラスは私含めこの7人での参加になります。数は少ないですが、一生懸命頑張りますのでどうかよろしくお願いしますね」


シャロンさんはただでさえ体が小さいのにマロンさんの後ろに隠れているから皆様からちゃんと見えているか微妙なところですが、まぁいいでしょう。


「偽善者が……!」

「?」

「こ、こら!」


なにやら言い争いをしていますね。


「どうせお前らは俺たちをいいように使う気なんだろう! 優しく見せかけようったってそうはいかないぞ!」

「お、王女様なんだよ!? ダメだよ!」


どうやら騒いでいるのは男の子で、女の子がそれを止めようとしているようですね。


「何か?」

「お前ら貴族はそうやって俺たちをいいように使うんだ! 俺は騙されないぞ!」

「私は王族ですが?」

「え? あ、うーん……。いや、もっとだろ!?」


流れるようなツッコミ。


「今まであなたに何があったのかは申し訳ありませんが知りません。しかし、私たちの中に何かした者はいないはずです。よね?」


周りを見ると、スッと目をそらす者が1人。


「ゲイルさん?」

「ちょっと前に、多少貶すようなことを、言ったかもしれねぇ……」


何してるんですか。


「でも、彼のことではないですよね?」

「……とにかく、俺は協力しないからな! 先生、さようなら!」


彼はさっさと荷物をまとめて帰ってしまいました。

それを皮切りに私たちにいい感情を持っていないのでしょう。

3分の1ほどが帰ってしまいました。


「すみません、王女様……」

「いえいえ、あなたのせいではないですよ」


止めようとしてくれてた女の子が謝ってくれますが、彼女は悪くありません。

これは先が長そうですね……。

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