戦争Ⅹ
「やぁ、アン第一王女でよろしかったかな?」
「そちらはマリオット第二皇子で間違いありませんか?」
戦後交渉の場に両国のこの場におけるトップが顔をそろえていた。
「まずはこちらの希望を聞いてくれて感謝する」
「いえいえ、戦争など起きない方が良いですからね」
和平と言っても前日まで戦争をしていた者同士、仲良くできるはずがない。
このような急ピッチで戦後処理が行われることの方が異常なのだ。
王国側からすれば願ってもないのだが、帝国側があれだけ優勢で持ち込む話ではない。
よほどのっぴきならない事情が出来たのだと思われるが、それを踏まえてもこれ以上の被害を王国側も出すわけにはいかなかった。
「停戦の条件としては、こちらから賠償金を支払う形で留めたいと考えている」
「あら、それだけですか?」
「ふむ、こちらとしてもあまり譲歩は出来ないのだが。このまま続けても結果は見えていると思うが?」
もうバッチバチである。
帝国側はこの程度の賠償で済むように昨日潰しにかかっている。
例えアン王女をとれずともこれだけの力をまだ持っているんだぞと誇示するために。
そして王国は戦争を仕掛けられた側で、停戦を申し込まれた側だ。
そっちの都合なんだからこの程度で済むはずないよな? と言うのは当然ではある。
「互いにまだ学生なんだから仲良くしようよ」
「そちらが仕掛けてこなければ私は今も学園で過ごせていたはずなんですけどね?」
もう埒が明かない。
「これ以上何もなければ今日は退席しても構いませんか? 友人が心配ですので」
「……友人と言うのは、空に浮いていた彼かい?」
「!!」
「ランボルと凄い戦いをしていたのは見ていたよ。しかも、一見ランボルに全て費やしているかのように見えて上空の僕に気づいていたみたいだし。そうだ、彼はどうだった?」
「……殿下。このような場でする話では……」
「いいから、王女殿下も気になるよね?」
ニコニコしながら話しかけるマリオットから横の騎士に視線を移す。
「……一言で言えば、見事です。あれほどの若さであの魔力制御は未だ見たことがない。物心ついてから本日まで努力を欠かしたことがないのでしょう。そして、頭の回転も速い。とても学生とは思えませんでした」
「やっぱり、彼欲しいよねぇ」
「ダメです!! あ、失礼を……」
思わず声を荒げてしまい恥じ入るアンにマリオットは言う。
「あぁ、そのことならもう振られてるから問題ないよ。『大事な人を守りたいからそっちにはつけない』って言われちゃったしね」
「な……!」
ライヤは決してそんなことは言っていないのだが、本人がおらず気を失っていて弁明できない状況でマリオットの嫌がらせは実に刺さっていた。
(帝国を苦戦させてくれたお返しだよ。精々揉まれるといい)
マリオットはライヤがただの平民であることは知らないが、貴族であっても王女を特別視しているとなれば話は変わってくる。
今回に限ればライヤが平民なため、その度合いは跳ね上がる。
このような公式の場で偉い人たちが多くいる中でそれが発せられたというのは無視するには大きすぎるものだった。
「こちらから出せるものは賠償金しかないのだ。僕にはそれほどの権限は持たされていない。どうか、理解を」
難航した停戦協定であったが、その後数日をかけてしっかりと締結される運びとなった。
「ライヤの容体は!?」
「姫様。命の別状はないと思われますが、衰弱しています。聞けば、帝国の皇子付き近衛騎士と渡り合ったとか。B
「以降ライヤの
黙り込む医者たち。
彼らもA
軍医も時には戦わなければならないのだから。
しかし、そんな彼らでも帝国の近衛騎士には到底かなうとは思えなかった。
「無理しすぎなのよ……」
アンとてライヤに対して悪いとは思っているのだ。
学園で自分が声をかけなければこれほどまでに注目を浴びることはなかったし、成績の良い一般生徒として過ごせるはずであった。
こんな戦争になんて来ることも無かったはずだ。
しかし、実際はと言えば王女のお付きという大役を担い、戦場では相手の主力の相手をして疲弊して倒れてしまっている。
自分のためにと嬉しい気持ちはありながらも、ライヤに万が一があったらと思わずにはいられないのだ。
「アン王女。先ほどはご無礼を」
「フィオナさん……。いえ、いいのです。ライヤの指示ですし、あのまま私があそこにいてはいけないこともわかっていましたから」
だが、駄々をこねずにはいられなかった。
ライヤが下がってしまえばあの戦線は崩壊することもわかっていたのに。
自分は王女に向いていない。
自重の笑みを浮かべながらフィオナを労う。
「フィオナさんには辛い役割をさせました。ごめんなさい」
「いえ、私はライヤ君に言われたことをしただけなので」
「ライヤに……?」
「えぇ。もしも相手軍が攻め込んできて自分が対応せざるを得ない時はアンを連れて退いてくれ、と。相手軍に余裕があることをライヤ君は認識していたようでしたから」
アンの綺麗な紅い瞳から涙がこぼれる。
「ライヤ。あなたは、どこまで私の先を……」
自分がこれからどれだけ頑張ってもライヤに追い付ける気がしない。
守ってもらうばかりで何もできない。
そんな悔しさを噛みしめてアンはそっと眠るライヤの頬を撫でるのであった。
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