ライヤの過去
「まだ1年生にその話は早いんじゃないかなー?」
「……やっぱりそうです?」
帰っていつもの夕飯。
フィオナに本日の授業のことを伝える。
ライヤとしても、今日の内容はどうだったのかという意識があったのだ。
「でも、早めに知っておくことに越したことはないでしょう?」
「限度があるよー。私たちの時も行ったのは5年生以上だったでしょ? なら、3年生からでも良かったんじゃない?」
フィオナも、戦争に行った生徒の1人なのだ。
「いや、でも俺が来年も担任してるかわからないですし。そもそも先生出来てるかもわかんないですしね」
「それは大丈夫じゃない? もしライヤに手を出すやつがいたらアンが黙ってないでしょ?」
「まぁ、それはそうだと思いますけど。俺もあいつに頼るようなことにはしたくないんですよ」
その言葉を聞いて、ニヤァーと笑みが広がるフィオナ。
「なんですか」
「いやー、男の子だなって」
「やめてください、茶化すのは」
「まぁ、そこがライヤの良いところでもあるんだけどね」
いつもとは違った、年上らしい態度でライヤの頭をポンポンする。
「ライヤが正しいと思うことをしたらいいよ。今日の授業だってみんなに死んでほしくないからでしょ? この前の戦争の時も教員で招集されてるのに拒否する人も多かったからね。次もどうなるかわからない。教え子を守りたいと思うのは、当然だと思うよ」
「そうですね……」
だが。
「なんか先輩がちゃんと年上っぽい感じだと調子狂いますね」
「な、なんだよー! 折角元気づけてあげてるのにー!」
「いえ、元気は出ましたよ。ありがとうございました、先輩」
「なんか距離を感じる……」
折角親身になって聞いてあげたのに! とご立腹なフィオナであった。
「アンはどう思う?」
「いいんじゃないかしら。まぁ、おおざっぱに教えた後は本人たちが聞きたいかどうかじゃない? ウィルは大丈夫そうだけど、ほら、この前来てた小娘……」
「……シャロンのことか?」
「そう、それ」
「お前曲がりなりにも先生してるんだから名前くらい覚えてるだろ……」
なんだその対抗意識は。
「とにかく、あの小娘とかには刺激が強すぎるんじゃないかしら」
「そうだな……。そういうこともあるぞという事さえ認識してくれていればいいか」
「……先生、この前の続きを……」
翌週の授業。
戦争についての話をしてほしいと言ってきたのは、その予想を裏切ってシャロン自身だった。
「……どうした? 誰かに言うようにって脅されたか?」
「誰がそんなことするか!」
いや、別にゲイルがやったとも言ってないんだが。
よくあるパターンだとこれのせいで犯人がわかるが、シャロンが首を横に振っているところを見るに、特に指示されてやったとかいうわけではないらしい。
「どうして知りたいと思ったんだ?」
「……えと、アン王女も戦場に行ってたってことに驚いて。……先週おばさまに会う機会があったからちょっと聞いてみたんです……。そしたら、先生も行っていたっていうのを聞いて……」
それを聞いたクラスの皆はウィルも含め、全員が目を丸くする。
「先生も、あの戦争に行ってたのー?」
「だが、そんな事は一言も……!」
各々騒ぎ出す。
「先生、本当ですか?」
「まぁな」
代表してウィルが発した質問に答える。
「なんでそれを言ってくれなかったんだよ! それを知ってたら……!」
「反抗しなかったのにって?」
戦場で戦って帰ってきた人への敬意は一定は存在する。
だが、戦場に出たと言っても最前線で戦う人や補給兵など役割は様々だ。
どの役割の人の方が偉いなんてのは存在しないが、俺が自分からこの前の戦争に行ってたんだよとか言ったところで適当に流されていただろう。
今でこそ全員が俺の実力の一端を知っているから多少の現実味があるだろうが、前ならB
「違うか?」
「う……」
「まぁ、そこに関しては気にするな。俺はアンの補佐としてついて行ってただけだから」
「しかし、姉さまはそれこそ最前線の方に出ていたはずでは? それについて行ったということは先生もかなり前線にいられたのでしょう?」
「今までの非礼をお許しください」
「……ごめんなさい」
ティムとエウレアの2人が教卓の前まで出てきて膝をつく。
「おい、やめろって」
「いえ、王女のお付きとして、アン王女の傍で戦場に立ったという事実は看過できません」
「……先輩です」
「いや、ほんとに。俺はアンとは別にどうせ招集がかかってたんだよ」
今思い出しても苦々しい思い出だ。
A
本気で脱走してやろうかと思ったくらいだ。
「……それで、先生の話を聞きたいって……」
最後に絞り出すように言ったシャロンの頭を撫でる。
「そうだな。聞きたいなら、いいが。全員か?」
神妙な顔でこくりと頷くクラスの皆。
「そうか、なら話すとしよう」
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