2-8.アイドルになる
数ある芸能事務所の中で実績と信頼のあるものを選ぶ。そしてそれらで主催している入所オーディションの合格者の傾向を調べ、対策を練る。当たり前だけど、やることは受験と変わらない。
基本的に本人の意向に沿った芸能活動ができると言われ、そして『εWing』、『Citrush』など人気アイドルユニットが所属している大手事務所『ワンデイドリーミンプロダクション』……ここなら安心して芸能活動ができそうだ。
けれど問題はまだ片付かない。『獅子尾茉莉子』としての芸能活動はお母様が許してくれない。だってそうだ、お母様は私には家を継いでほしいんだから。
だからこの練り香水による変身で、別人として芸能活動をする。お稽古や生徒会の仕事で元々忙しい生活に、さらに第二の顔で芸能活動をするのだから息つくヒマがなくなるかもしれないけど、私なら大丈夫だろう。
ギャルの時の私の名前は……
「……きら」
あの日あーちゃんがくれた、ガラス玉がキラキラ輝くキレイなネックレス。今でも身につけてる、大切な宝物。
あーちゃんが、世界がこんなにも面白くて、輝いてて、自分の生きたいように生きていいと教えてくれた。
失踪したことを悔やむくらい、そんな輝いてる世界に連れ戻すから。
用意した半紙に、太い毛筆で『
当て字のようだけれど、ギャルにはふさわしい名前だろう。それに『貴』の字があるから、いかにもあーちゃん(暁貴)の姉妹のように見える。
我ながらステキな名前だとは思ったけど、すぐに墨で塗りつぶした。
私が『桔梗貴楽』であることは誰にも知られてはならない。
無謀かもしれない。無茶かもしれない。理不尽な目に遭って打ちひしがれるかもしれない。迷宮入りのまま、目的を忘れて芸能活動を続けるかもしれない。
そうならないように、このネックレスをつけて、戒めにしよう。
あーちゃん。必ず見つけ出してみせるからね。私とあなたはBFFなんだから。
本番当日。メイクよし。身だしなみよし。ネイルよし。今日はハデめにストーンつけてみた。
私はまだスタート地点。長い道のりになるかもしれないけど、弱音なんて吐くものか。
たとえオーディションに参加している人たちがみんな可愛くてもビビらずに、自分を出すんだ。
「それでは次の方。お名前と特技をどうぞ」
「エントリー番号17番、桔梗貴楽。特技はラップです」
今までの習い事を披露するにはキャラが合わない。自分の属性を生かしてラップを選んだ。あーちゃんも好きだって言ってたし。
「桔梗さん……めずらしい苗字ですが、まさか桔梗暁貴さんとご関係が?」
「はい。彼女は私の姉です」
ざわ、と他の審査員と参加者が小さくざわついた。質問した男性審査員がわざとらしく咳払いしたところで一旦騒ぎがおさまる。
ラップも調べてみれば奥の深いものだ。かつてアメリカで人種差別を撤廃する活動の一環として歌われたのがはじまりと言われ、世界中に広まり、その国独自の色を見せるようになった。
特に、8小節のうちにラップで攻撃しあうフリースタイルラップは、出す言葉を一瞬で考えながら披露するさまは巧みなものだ。付け焼き刃ではあるけれどこれを特技に選んで正解かも。
相手の攻撃だけがラップじゃない。自分自身の自慢、そして抱負を伝えるのにも使える。
聞いてください。私の、この事務所と夢への思い。
「……以上です」
「はい、ありがとうございました」
三人ほどの審査員から惜しみない拍手が送られる。
がんばったかいがあった。本当にさっきまでなんと披露しようか、緊張のせいか思いつかなかったのよ。
けれど安心してはいられない。これで1回目のオーディションなんだから。今のラップはまだ粗削りだった。もし今回でダメだったらブラッシュアップする必要があるわ。
しばらくして、参加者全員の審査が終わった。さすが大手事務所主催ということもあり、全員個性的で魅力に満ち溢れていて、レベルが高かった。
彼女らに勝てるかどうか……これこそ、神様に祈るしかない。
学校のお御堂で合格のお祈りを……って、神様は正体を偽ってオーディションに出た私をお許しくださるのかしら……?
数週間して、その結果はメールで教えてくれた。
「……マジ?」
素顔のまま、思わずつぶやいてしまった。よかった、周りに人がいなくて。
受かりそうにないと思ってた、難関であるオーディションの結果は『合格』だった。
合格? 私が? ……意外とあっさりいけたんだ。
いや、私の実力を認めてくださったんだ。審査員の人たちには感謝しないと。
で、今後の活動の方針を決めるために直接お話したいと。オーディションの時も思ったけど、あの一等地にある事務所ビル、区のシンボルになれるほどに個性的よね。まああそこらへんは高層ビルが多くて埋もれがちになっちゃうけど。
ともあれ、私は与えられた仕事をこなし、人脈をつくり、彼女の行方を捜す手がかりを集める。そのスタート地点に、予定より早く立つことができた。
『マジで合格!? すげー!!』
あーちゃんからお祝いのメッセージが送られた。同時に、ネコとウサギがクラッカーを鳴らして『おめでとう』という文字を飛び出したスタンプも。
あなたの行方を追ってるのに、こうしてトークアプリでつながってるっておかしな感じね。あなたが所在地を言ってくれれば済む話なのに。
言わないならこっちが突き止める。だから待ってて、あーちゃん。
『貴楽か~、あーしの苗字を許可なしで使うのは驚いたけどイイ名前じゃん!』
『あなたと同じ苗字にすれば手がかりをつかめるチャンスが広がると思っただけです。もしご家族から何か言われたら協力してくださいね』
『それはないんじゃね? あーし身寄りとかないし』
「えっ」
なにそれ、はじめて聞いた。
『小さいころ両親が蒸発して施設に送られたの! まあイヤだったからすぐ出てデルモになって、ダチの家を転々としてたんだけど』
それってホームレスじゃないですか!
私、ホームレスと友人だったの……いや、あーちゃんを悪く言っちゃだめだ。そんな苦境のなか生き延びようとした、と思えばすごいことだわ。
そして打ち合わせ当日。
16階の第三会議室に着いたはいいけど……誰も来てないのか部屋が真っ暗。余裕を持って時間の30分前に来てみたはいいけど、まさか私が一番先に着くとは。
ドアのすぐ近くのスイッチを押せば照明がつき、会議用テーブルが4つ、ドーナツのように囲んで並べているのが見えた。天井にプロジェクターのような機械が設置されており、レンズの先には真っ白な壁があるので、スクリーンの役目となっているのだろう。
長机とセットで置いてある椅子に座る。人が来るまで大人しく待ってよう。
……そういえば阿好くんに、『見た目によらずマジメ』って言われたんだっけ。もう自分はギャルなんだから、話し方もそれっぽくしなきゃ。
人によって口調も性格もそれぞれだしギャルも例外じゃないけれど、一応彼女の妹という設定で芸能界に入ったので、彼女に合わせるようにしよう。
あーちゃんはあまり家族のことを話さなかったのは、そういう事情があったからだったのか。全然知らなかった。……知られないようにしたかったのかな。
それでも、あーちゃんにはギャルの世界が自分の生きる道だって信じて疑わなかった。私には考えられないことだ。母も自分も嫌いだった私を、彼女はどう見ていたんだろう。
コンコン、とドアをノックする音が聞こえる。やっと来たか、と腕時計を確認。集合時間の10分前。来るにはちょうどいい時間かもしれない。
しかしおそるおそるドアを開け、見せた姿は……とても社会人には見えない、ほぼ同世代くらいの女の子だった。
空色のくせのある髪をふわふわとゆらし、頭に一本の角がそびえ立つ、カラフルなたてがみの白馬ことユニコーンがでかでかと描かれたチュニックワンピを着た少女は私の姿を見るなり、ビクリと肩を震わせて部屋に入らずドアを閉めた。肩からさげたポシェットも同じくユニコーンの頭で、いかにも幻想的な夢の世界から来たような格好の子だ。むしろユニコーンが好きなのかも。
……確か彼女は同じオーディションにいた、エア料理を披露した子のはず。あの子の手さばきは、まさしく調理器具や材料のまぼろしが見えるくらいにたくみで、手慣れているのが目に見えた。実技審査でも惜しむことなくかわいげのある歌声をみせていて……そうか、彼女も選ばれたんだ。
自己紹介の時は肩肘張ってて危なげだったけど、逆にそれが審査員のハートをつかんだのかも。
……えっと、一人称は『あーし』。あーちゃんを意識して、私はギャル、私はギャル、少しくらいなれなれしくしても大丈夫……と自己暗示しながら席を立ち、ドアを開ける。彼女は緊張をほぐしたいのか、自分の左手のひらに『人』の字を何度も書いていた。
「もしかしてこの前のオーディションに合格した? あーしもなんだけどさ」
「ひゃっ!? ……はっ、はいっ、そうです……」
ゆるふわな印象と違って、今でもガチガチで肩も声も跳ねまくりだ。……本当に合格したのか、不安になる。
「16階の第三会議室に来るようにって言われた?」
「はい……ここで合ってます、よね……?」
「うん、合ってるよ。入ったら?」
「ははは、はいっ」
ドアを大きく開け、彼女を招き入れる。内またで歩き、歩幅もちょこちょこと歩いていて、なんだか小動物をほうふつとさせる。
仕草もどことなく女の子らしくて、ちょっとうらやましささえ感じた。
隣の席に座るよう促したけど、これじゃまるで私が事務所の人間のようだ。というか、これから面接を始めるかのような雰囲気だ。頬も赤く染まってて、表情もこわばってる。
一応、立場としては同じところに立ってるはず。だとしても年齢はおそらく私が上なんだろうし、彼女をフォローしなくては。
「喉渇いたしお茶飲も。アンタは?」
「おおお、おかまいなくっ」
「ふふっ、一応用意しとくね」
緊張すると喉が渇くっていうし、落ち着くために用意したほうがいいよね。多分事務所の人が出すべきなんだろうけど、これくらいお許しをいただきたい。
棚の中に緑茶のティーバッグが入った紙箱が置かれている。種類はこれだけらしい。ウォーターサーバーに設置されている紙コップを二つ出し、そこにティーバッグを一つずつ入れる。サーバーの赤いボタンを押せばお湯が出るのでコップ半分ほどまで入るように長押し。お湯が緑茶の色にそまったところで青いボタンを押して水を入れて温度調整。それを二度繰り返して、彼女の前に一つ差し出した。
「す、すみません」
「そこは『サンキュー』でいーの。
あーしは桔梗貴楽。貴重の『貴』に、音楽の『楽』ね。アンタは?」
「ぼ……えっと、わ、私は……
「夢中?
「はいっ、えへへ、かわいいでしょ?」
まるで夢の世界から来たような子にふさわしい苗字でビックリ。
「……芸名?」
「えっ!? えっと……本名、です、よ」
どうして目が泳いでるの……?
いや、深く詮索しないほうがいいわね。もし事情があるとしたら、私だって追及されたくないもの。
いいじゃない、夢中さん。下の名前もかわいくて、本当に夢の世界出身っぽい。
「へぇ。ちなみに出身地ってどこ?」
「かな……あっ、ここからとおーいとおーいお星さま、です!」
いま『神奈川県』って言おうとしてなかった?
さっきも、自分のことを名前ではなく『ぼ』から言い始めてた。『ぼく』と言おうとしてたのかしら。そっちもそっちで個性的とは思うけれど。
なるほど、個性的なキャラでアイドルをやりたいタイプなのね。って、私もそうかも。
自分を偽って活動をしている、って共通点……と思いたいけど、さすがに本性を知られたくない。気を付けてギャルになりきらなきゃ。
あまりお行儀がよくないけど、こう、頬杖をついて……
「それってどんな星? 惑星? 星雲? 何光年離れてるって設定?」
「せ、設定って言わないでくださいっ! えっと、お星さまはお星さまで、その、たくさんのユニコーンが住んでて、お空はいつも紫色の夜空で、天の川で輝いてて、だから、えーっと……」
あんまり細かく考えてなかったのか、だんだんしどろもどろになり顔がリンゴのように真っ赤になっていく。
これじゃイジってるみたいだ、と申し訳なくなった。
「わかったわかった、ごめんって」
「ううっ……私こそごめんなさい。これじゃただのイタイ子ですよね」
「別にいんじゃね? アイドルなら許されるっしょ」
「アイドル、なら……
……私、アイドルになれた、んですよね……?」
まだ夢心地なのもわかる。ここに招待されても、未だに実感がわかないし。
まあ、私にはそんな自覚とかどうでもいい。予想より早まったけれど第二段階に進んでるんだから。まずは芸能界に慣れること。人脈づくり、そしてあーちゃんの行方の手がかり掴みはそれからだ。
「えへへ……私が、アイドル……」
両の頬に手を当て、うっとりとつぶやく。長年の夢だったのだろう、幸せなオーラが目に見える。
きっと彼女こそ、一番大きなアイドルになれるだろう。
さて、時刻は集合時間の5分前。まさか合格者だけを集めるなんてことはないだろう。
そう思った矢先、またしてもコンコン、とノックの音が聞こえた。
今度こそ事務所の人かしら。だがまたしても服装と髪型が社会人のものではなかった。
「失礼しますっ!
今日からお世話になりますっ、沙咲サクラといいます、よろしくお願いしますっ!!」
ツインテールの少女が入ってくるなり、その髪型を大きく揺らして頭を下げだした。
すごく元気有り余ってる。第一印象を挙げるとしたら、それだろう。
「は、はひっ、よろしゅくおねがいしゅましゅっ!」
蘭香はまたビビってついに噛みだした。うっとりしていたところに突然の大きな声だもんね、まるで気持ちよく眠ってたところをたたき起こされたみたい。
彼女も見たことがある。というかすごく印象に残ってる。オーディションで「特技は歌とダンスです!」とハッキリ答えた子。多分それ以外のスキルを求められただろうにそう返してて、審査員みんな失笑してた。でもめげることなく、実技で遺憾なく発揮して……アイドルがどうあるべきかを理解したようなパフォーマンスだった。
「ああ、アンタも受かったんだ。どーも」
「あの、お二人って」
「そ、アンタの3番前のラップ見せたギャルがあーし。桔梗貴楽でっす、どーぞよろしくぅ」
ニカ、と歯を見せてはにかみ腰に手を当てもう片方でピース。多分これで合ってるはず。
「えへへ、かんじゃって恥ずかしい……えっと、私は夢中蘭香、です!」
出身地の話はせず、簡潔に名前だけ自己紹介をした蘭香。ぺこ、と小さくおじぎをする姿もいやらしさがなく、見ていて愛嬌を感じる。髪もふわふわだからきっとなで心地もよさそうだ。頭なでられるの好きかな。
って、そんなこと考えてる場合じゃない。それよりも時間が近づいても事務所の人が来ないのが問題だわ。ここは大手事務所なんじゃないの、時間に厳しくないとこの業界やっていけないと思うんだけど?
「ここの人が来る前に自己紹介しちゃいましたね~」
「まー手間省けてイイじゃん? つか遅えんだし向こうが、余裕もって30分くらい前には来いっての」
「桔梗さん、一番早くに来てたんですよ~」
「えっ、そうなんですか!?」
そこまで驚く? ギャルって時間にルーズって印象持たれてるのね、まあ仕方ないっちゃないわよね……それに30分も早すぎたかも。
「キラでいいよ。同期になるんだから堅苦しいのはナシっしょ?
で、二人はアイドルになったら何やんの?」
さりげなく二人に話題を振り、気まずい空気を作らないように仕向ける。彼女のぶんのお茶も作っておこう、いつ事務所の人が来るか分からないし。
沙咲サクラ……彼女も舞台に立つ夢に憧れてかなえようとしたのだろう。その素質はルックスと表現力で十分伝わる。
蘭香も、全身がこわばってはいるけれどその個性の強さは必ず多くの人を魅了できるはずだわ。
「私はぁ……今は分からないけど、きっと続けていくうちに……新しい夢が見つかると思うんです。だって、今こうしてアイドルになれたって実感がわかなくって」
「マジそれ。けどまあ、カワイイアンタらがいるワケだしあーしはなんとなく、かな? 人気アイドルとかに会えたら自覚できっかもね」
またあの人に会って、私のことを知ったらどう思うのだろう。ビックリするかしら、まさか同じ事務所でアイドルデビューできたなんて。……というか、芸能界入りを決めたきっかけが彼なんだっけ。
「サクラは……」
「すっみませーん! 前の仕事が押しててギリギリになっちゃいましたーッ!」
サクラが答える前に、ドアがバンッ! と勢いよく開いた。
ああ、なるほど。私たちに召集をかけた人ってこの人なのかしら。
突然現れたのは、ハニーブロンドをコテで巻いたような髪型の女性。よく遅刻するのか、口調に反省の色が見えない。
メイクが濃くて芸能人みたいな風貌だけど、スーツはカッチリと着こんでいる。『シシオスタイル』じゃないけど、高級デパートに置いてある質の高いもので間違いない。身だしなみもこれといって問題なし。伊達にこの事務所で働いてないわね。
つけている花のブローチは真鍮製といったところか。おしべとめしべの部分に宝石がはめこまれて、つくりも細かい。推定で3万円くらいの価値はありそう。
懐から名刺入れを取り出す仕草も無駄がない。服に着られてるということもなし。うちの店舗の女性店員もこの程度を求められるけれど、決して簡単に得られるものじゃないわよね。
この人……他に仕事を抱えるほどに頼られていて、能力があると見た。なめられないわね。
「皆さまが今回のオーディションで選ばれたお三方ですねッ! ワタクシ、『ワンデイドリーミングプロダクション』のマネージャーを務めております
どうぞどうぞ! と両手で名刺を私たちに差し出す。ちょっと押しの強さが印象に残る。
いただいた名刺を確認すると、左上に添えられている花の絵が、マネージャーさんのスーツに飾られている花のブローチと同じものであることに気付いた。
なにかしら意味を込めているのだろうか。
「あっ、クレオメですね。ステキです~!」
「あら、夢中さんはお花にも詳しいんですね! 素晴らしい!」
へえ、蘭香は花が好きなんだ。名前に「蘭」が入ってるからかな。
その法則でいくと、私もサクラも好きってことになりそうだ。
「たぶんウチらの中じゃ一番女子力高いんじゃん?」
「えへへ……それほどでもないですよ~」
こんなに雰囲気もあって、料理も上手らしいし。特技なら蘭香が上だわ。
サクラもバイタリティを感じるし、歌とダンスでオーディションを勝ち抜いた。生まれ持ってのアイドル……いや、エンターテイナーになれること間違いなしだ。
その点、私の自慢できるポイントの無さといったら……
本当になんで、『私』なんかが合格したんだろう。
私はなんとか、あーちゃんの練り香水を使って変身できたけれど根のマジメさが抜け切れてない。今まで教わったマナー、学院の校則が頭に叩き込まれて世間でいう『ギャル』のキャラが十分に表現できていない。
あまりにも、自分はマジメが過ぎると思ったわ。
……いけない。アイドルになってるのは『獅子尾茉莉子』じゃない。『桔梗貴楽』よ。今までの私を捨てるつもりで、表現したい自分をイメージするんだ……
「花言葉は『秘密』」
ドキッ、とした。えっ、この花の?
マネさん、どんな意味で言ったの?
……あーしが『秘密』を隠し持ってるなんて、知らないよね……?
「もしも悩んでることがありましたら、その名刺に書いてある電話番号にかけてくださいッ! 絶対に『ヒミツ』にします、ワタクシとアナタ方だけの約束ですよッ!」
「ああ、そういうこと。プライバシー保持の誓いってことね」
「そゆことです! さすが桔梗さん、難しい言葉をご存じですね!」
「なるほど~! それでは、スマホにマネージャーさんの電話番号を登録しますね~」
「そーだっ、せっかくだしお互いの連絡先も登録しよっ! トークアプリもいい?」
「ラッ……そ、それは」
マズい。トークアプリだと連絡先を交換した時点で登録名が自動的に向こうのスマホに表示される。
あーし、本名で登録してんだよっ……!
アカウントを知ってる身内にバレないように、アカウント名を変えるつもりはない。かといって、この二人に本名を教えるのもリスクが高い。
「また今度でいいですかぁ……? 今回は電話番号とメアドだけってことで~」
そうそう、そっちならまだごまかしが効く。
二人は、あーしは『桔梗貴楽』が本名だと思ってるから……!
そもそもまさか、変身してるなんて思ってすらないじゃん!?
……しかしなんで、蘭香もアプリのID教えないようにしてるの……?
「そ、そーだねっ、また今度にしよっか!」
「どうやら自己紹介も済んでるようですし、このままお話を進めてもいいかしら?」
名刺をギラギラにデコった名刺入れにしまいながら「どーぞ」と返す。
「えー、お三方に集まっていただいたのはですね……
三人で、アイドルユニットを組んでもらうことになったからですッ!」
……えっ?
こ、この二人と……?
こ、こんなアイドルの規範になりそうなかわいい二人と~~~!?
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