第109話


結とのお泊まりが終わると結はすぐにドイツに行ってしまって私は夏期講習が始まった。しばらく会えないのは寂しいがお泊まりの日に結といっぱいいちゃいちゃしたし結とは毎日連絡をするから大丈夫だろう。



始まった時は長くなりそうだと思った夏休みは世話しなく過ごしていたらすぐに終わりに差し掛かっていた。

私はほぼ夏期講習をしてたまにバイトをしていたが、バイト先の夏休みの皆でのお出掛けは行かなかった。

今年は大事な時期だから勉強に専念したのだ。お出掛けなら皆とは行こうと思えばいつでも行ける。


受験のための準備は順調に進んだ。

このままいけば最初はできなかった問題もすらすらできているので大丈夫そうだ。

夏期講習はとても有意義に終わった。


夏休みも残りわずかになったところで私はバイトのシフトを増やしていたのでバイトに比重も置きつつあった。あとは最終日までいつも通りバイトをするだけなのだが今日のバイトは騒がしかった。





「泉めっちゃあの子可愛くね?琴美ちゃんも可愛いけどあの子超可愛いな。名前なに?」


今日は運悪く涼介と被ってウザいなと思っていたら気持ち悪いくらい興奮しながら私に話しかけてきた。今日はバイトを始めてしばらくしたら結と琴美がやって来たのだ。知らされていなかったそれは驚いたけれど二人に会えたのは久々で嬉しかった。しかし今は話は別だ。


「……言いたくない」


私の彼女である結を絶賛している涼介はウザい。結をそんな目で見るなと思うが涼介は目を輝かせている。


「教えろよ。泉の学校マジで可愛い子ばっかだな!今日は勇気を持って話しかけてみるかな俺」


「たぶんあしらわれて終わるよ」


結は男を基本的に相手にしないだろう。宮本を思い出すと頷ける。それでも涼介は引き下がらなかった。


「でもあんな可愛いんだぞ?話しかけなきゃ失礼だろ。俺ちょっと様子見てくる」


オーダーを呼ぶベルが鳴ったのを良い事に涼介はホールに出てしまった。

琴美と結は確かに可愛いけど話しかけるのはいただけない。私は中の仕事をしてからホールに出た。


今日は客席は埋まっているがそんなに混んではいない。私は適当に空いている皿を下げながら結達のテーブルに向かった。話しかけさせてたまるか。


「二人ともなんか頼む?」


琴美は私が来た事に嬉しそうにしていた。


「泉!琴美またティラミス食べる!結も食べるよね?」


「え?うん、別にいいけど…」


「じゃあ二つ泉!」


「うんオッケー」


私がハンディに打ち込むと琴美はにこにこしながら話しかけてきた。


「泉今日もかっこ可愛い!今日バイト終わるまで結と待ってるね。あ、なんか予定ある?」


「いや、ないよ。どっか行く?あと少しで終わるけど」


「ううん。今日はパーティーあるからその前にちょっとだけ話したいの!ねっ?結」


「行きたくないけどね。あんなくだらないの」


今日はパーティーのついでに来たみたいだ。結はだるそうに言ったがお嬢様である二人は行かなくてはならない必須イベントである。この二人は住んでる世界が違う。


「そっか。頑張ってねパーティー」


「うん!琴美も暇だから行きたくないけど頑張ってくる!」


「琴美くれぐれも失礼な事しないでよ?たまにやらかすんだからさ」


結はすかさず笑う琴美に注意した。琴美はある意味浮いていそうだがいったい何をやらかしたのか、琴美はきょとんとしていた。


「え?やらかしてないよ琴美。いつやらかした?」


「はぁ?こないだまた訳分かんない事言いだしてたじゃん」


「え?どれだっけ?琴美は暇だからいつも思い付いたの適当に話してるんだけど…」


「はぁ?思い付きだったの?……あんた本当にありえないし…」


「あぁ、二人ともちょっと……」


また揉めそうな雰囲気に止めようとしたら私の隣に狙ったかのように良介がやってきた。


「泉友達来てたの?」


知ってるくせに笑って話しかけてくるこいつにうんざりする。ムカつく野郎だが一応形だけ説明してやった。


「あぁ、うん。学校の友達」


「そうなんだ。仲良さそうだね」


「まぁね」


もう終わりにしよう。無駄に話したくない。結と話させる訳にはいかない。私は裏に帰ろうとしたら琴美が口を挟んできた。


「泉友達なの?」


友達とは言いたくないし仲良しとも思われたくないので雑に説明した。


「ちょっとバイトが一緒なだけ」


「いや、俺達幼馴染みなんだよ。なっ?泉」


「……家が隣なだけね」


言いたくない事を言いやがって。琴美は興味津々だった。


「えー!そうなんだ!琴美と結と一緒だね!よく遊ぶの?」


「全然。仲良くないから遊ばないよ。バイトだけ一緒なだけ」


「え?そうなの?ねぇねぇ、昔から泉は変わらないの?」


涼介に話しかける琴美。もうやめてほしいのに涼介は頷いて話した。


「泉は昔から変わらないよ。こいつ昔から良いやつだよ」


無駄に話すと涼介の思うつぼだからやめてほしいのだが、これはもう強制的に止めよう。美味しい思いはさせない。ていうか、昔の話とかこいつにはされたくない。昔はいつも私がイライラしていたし。私が口を開こうとしたら結が外面スマイルで先に言った。


「泉今はバイト中でしょ?話してて大丈夫なの?」


「え、あぁ、そうだよね。ごめんごめん。ほら仕事だよ」


結が良い事を言ってくれた。私は涼介を急かした。


「そうだな。あ、会計してくるわ」


「はいはい。じゃああとでね二人とも」


「じゃーね!泉!」


阻止できて良かった。あいつに良い思いは絶対させたくない。私はその後も涼介を注意しながらバイトを頑張って終わらせた。


バイトが終わると二人はわざわざ私を車で送ってくれたが乗った瞬間サプライズをされた。


「泉誕生日おめでとう!琴美からはこれだよ!」


なんか大きな袋を渡されて気づいた。忘れていたが今日は私の誕生日だった。


「ありがとう。すっかり忘れてたよ」


「だと思ったから驚かそうと思って琴美と一緒に来たの。はい、これ私から。誕生日おめでとう」


結は若干呆れながらも包装されたプレゼントをくれた。誕生日も忘れて普通にバイトしてた私はバカだなと思うが素直に嬉しかった。


「結もありがとう。嬉しいよ」


「良かったね結!今日大成功!」


「そうだね」


「うん!それよりさっきの誰?泉と幼馴染みって琴美聞いてない!」


にこにこの琴美はいきなりちょっと膨れだした。いなくなっても涼介の話とか勘弁してほしい。


「家が隣の頭の悪い人だよ」


率直に述べたのに琴美はぷりぷりしていた。


「そうじゃなくてどういう仲なの?結も琴美もいるのにあの人と秘密で仲良くしてるの?許せないよ琴美!」


「だから家が隣なだけで仲良くないってば。そんなやましい事なんかないよあんなやつと。気色悪いから」


なぜあんなやつと疑われないといけないんだ。涼介と何かあるとか気持ち悪いにもほどがある。


「本当なの?」


しかし隣にいた結まで疑惑の目を向けてきた。なんだこの状況は。せっかく誕生日を祝ってもらったのに空気が悪すぎる。私はしっかり主張した。


「本当だよ!仲良さそうに見えた?逆に」


「見えたけど」


「琴美も見えたよ!」


なぜだ?二人に疑われて何かいろんな意味で狭く感じる。こうなったら詳しく説明してやらないと。


「あのねぇ、バイトしてたらあいつが勝手にバイトしに来てたまにバイト先の皆と遊んでるだけだよ?個人的に遊ぶとかないし…」


「遊んでるじゃん。浮気してんの?」


蔑む視線は痛すぎて私は結にむきになった。


「するはずないから!なに言ってんの本当に!」


「本当に?泉はそうじゃなくてもあっちは何か思ってるかもよ?琴美の勘は外れないよ!」


「えぇ?琴美までやめてよ。二人ともどうしたの?私と良介は…」


二人には付き合ってられないが流したくない。私はそのあと疑われつつも身の潔白を証明した。




家について二人と別れてからプレゼントを開けてみたら凄かった。

結は絶対高いでしょって思うような私には分からないブランドのボディークリームと化粧水等を一式くれた。

絶対良いやつなのが間違いないそれはメッセージカードを見たらなぜこれにしてくれたか頷けた。


メッセージカードには誕生日の祝いの言葉と今年もちゃんと保湿をするようにと書いてくれていたからだ。去年私の手荒れがあったから気にしてくれたんだろう結の気持ちは本当に嬉しかった。


そして琴美のプレゼントは違う意味で凄かった。

琴美は以前被っていた気持ち悪い魚の被り物をくれた。それはとってもリアルで引いてしまうくらいよく作られていた。しかも一緒に被って遊ぼうとメッセージカードに書いてあって私は琴美の誕生日の日に期待させてしまったみたいだ。なんて最悪な話だ。これも被るのかと切ない気持ちになってしまうが琴美は高そうな手袋もくれた。


琴美のチョイスは謎だが二人にはお礼を言おう。


お礼をした私に結は琴美が魚の被り物を私と被るのを楽しみにしていると返信をくれた。

結は絶対笑っているに違いなくてちょっとムカつくけど笑ってしまった。



九月からまた学校が始まる。もう受験が本格的になってくる時期なので早い人はAO入試をしていたり様々だ。私はなんとか指定校推薦枠を確保できたので十一月に試験と面接を受けて問題がなければ受かるが、ちゃんとできるかまだ不安だ。


その不安を消すように私は勉強を一生懸命頑張った。

しかしもう受験が終わっている人がいるのを知ったのは梨奈と休み時間に話していた時だった。


「泉は受験十一月とかなげーな。あたしなんかもう終わってんのに」


「え?梨奈終わってたの?てか、梨奈はどこ行くの?」


出会った時は失礼だけどバカだったのに梨奈は普通に答えた。


「あたしはT大の医学部だよ。T大はうちが経営してっしうちは医者一家だからな」


「え?マジ?T大の医学部って梨奈医学部志望だったの?一緒じゃん」


まさか同じ志をしたやつがこんなに近くにいたなんて。しかも医者一家ってもう外見から考えられないんだけど。これには梨奈も驚いていた。


「え?泉も医学部だったのかよ。泉はアメリカとか留学すんのかと思ったのに。どこの医学部行くの?」


「私はS大の医学部」


「S大ってあそこ一番頭よくね?さすが泉だな。やべーよおまえ」


「S大はそんな頭良くないよ?学費安いから」


理由の大半はそれだけだ。親は出してくれるみたいだがあまり負担もかけられない。


「いや、やべーって。あそこはやべーよ。にしても泉も医者になるって楽しみだな!同期に泉がいるってだけでワクワクするわ」


「まだ受かってないし医者にもなれるか分からないじゃん」


「いや絶対大丈夫だろ。泉これからもよろしくな」


梨奈は口悪いくせに笑顔でにっこり笑った。

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