第91話
体を抱き締めて、手を強く繋いで求め合う。それはさっきよりも激しくて気持ちが良くて止められなかった。
もう唾液が垂れてしまっているのに気遣えない私はこの空気と欲情に翻弄されている。結が私の背中に腕を回して求めているのが苦しいくらい嬉しい。
私達は鼻息を荒くして、ただただキスを続けた。
結はキスの最中に私を時おり呼びながら抑えられない甘い声を漏らす。普段の結からは考えられないような声のせいで胸が高鳴って盛ってしまう。
しかし、今のこの荒れた手でエッチは無理だ。気分が高まって欲望が溢れそうになる私は名残惜しくもキスを終わりにして結を見つめた。
「次、……しよっか?手が酷いから今日はこれだけにしよ」
正しいのに結は少し不満そうな顔をした。
「……こないだ、約束したのに……」
それはそうだが結の肌を傷つけたら困る。私はまたキスをして小さく囁いた。
「じゃあ、おうちデートの時にしよ?いつもよりいっぱいするから。いい?」
「……」
結は黙ってしまったが小さく頷いてくれた。以前から少し我慢させているみたいだがテスト終わりに沢山しよう。結を待たせすぎるのもよくない。テストが終わる頃には私の手荒れも良くなっているはずだ。
「結こっち向いて?」
私は結にこちらを向かせると指で唾液を拭って舐めとる。結は恥ずかしそうに黙ってその行為を受け入れてくれた。
「今日はできないからちょっとだけいちゃいちゃしようよ。結はまだ時間平気?」
「……うん」
「良かった。じゃあもう少しこのままね」
結を綺麗にしてから更に引き寄せようとしたら結も私の首に滴っていた唾液を指で拭って舐めとってくれた。
「しないくせに……がっつきすぎ」
「あぁ、うん。ごめん、ごめん」
結とキスをするのにがっつかないようになるのはまだまだ時間がかかる。ついつい求めてしまう癖をどうにかしないと。私を綺麗にしてくれた結はおもむろに首にキスをしてきた。
「……しないならもっといちゃいちゃしてくれないとやだから」
やれない事にご機嫌斜めな結はいちゃいちゃをご要望のようだ。しっかり応えないとむくれてしまいそうだ。
「じゃあ頑張っていちゃいちゃします」
結と握っていた手を強く握りながら腰に回していた手で更に引き寄せる。結は手を握り返して応えてくれたが可愛らしく脅されてしまった。
「ちゃんとしなかったら帰さない…」
「えぇ?じゃあ何したい?」
「そんなの自分で考えて…」
「えー、教えてくれても良いじゃんケチ」
結は私から顔を逸らしてしまったので結が前に言ってくれた通りにしようと思う。結の手を握りながら優しく頭や頬にキスをして呟いた。
「結、好きだよ。……大好きだよ」
こちらを向いてくれない結を満足させられるだろうか。もう一度頬にキスをしようとしたら結が私に顔を向けてくれた。恥ずかしそうな表情は私の胸をぎゅっとさせる。
「…ちゃんとキスして」
こちらを向いてくれなかったからできなかったのに。私はまた愛を囁きながらキスをした。
その後の結はいつもよりも甘えてきていた気がする。デートはしたけど手を繋いだりキスをしたりするのはできなかったからだと思うが結は私の手を離さなかった。
なんか結の可愛らしい一面をまた見れたなと思いながら私は結が満足してくれるようにいちゃいちゃするのを頑張った。
それからの日々はあっという間だった。
もう目前に冬休みが迫っているからかテストが終わると既に冬休みモードだ。
冬休みは何をしようと皆が浮かれる中私はほぼバイトに徹していたがクリスマスはどうしようかなとふと思っていた。
結はクリスマスについて触れてこないけどクリスマスは一緒にいた方が良いのだろうか?初めて恋人ができた私はどうすべきか分からなかった。結はあんまりそういう行事に関心がありそうに見えないしクリスマスはもう冬休みだから予定があるだろう。
それに私も普通にバイトを入れていたのを忘れていて一日一緒にはいれない。少し悩ましいなぁと思っていたら終業式がやってきた。
通知表をもらって、あとは家に帰るだけなんだけど結にクリスマスについて聞けていない。
どうしよう。私が悩んでいたらもう放課後になってしまった。朝も聞けなかったし今聞かないとあと数日後にはクリスマスが来てしまう。私は鞄を持った結に話しかけた。
「結、今日は予定ある?」
いきなり聞くのはなんか恥ずかしい。とりあえず今日は時間があるか聞いてみた。あったらお昼に誘ってから尋ねてみればいい。
「今日は合気道とピアノがあるけど。どうかしたの?」
「そっか。今日で最後だからご飯でも食べたいなって思ってたんだけどしょうがないね。じゃあまたね」
結に予定があるんじゃお昼は誘えない。帰ってから電話して聞いてみるか。私はどうやって聞こうか悩みながら去ろうとしたら結に止められた。
「待って泉。まだ時間は大丈夫だからお昼くらいなら平気」
「え?そうなの?じゃあお昼食べ行こうか。駅の近くで良い?」
「うん。駅の近くで食べよう」
時間があるなら良かった。この機会に絶対に聞こう。私はそう思いながら結と二人で学校を出た。今日は学校からの最寄り駅のカフェで昼食を食べる事にする。
「結は冬休み海外行くだけ?」
ご飯を食べながら尋ねる。結は相変わらず上品な所作でご飯を食べながら答えた。
「うん。それとパパの会社のパーティーかな。めんどうだけど毎年出ないとならないから。泉は?」
「私はバイトだよ。あと、塾と医学部の学校見学かな」
来年の受験に備えてやるべき事はある。結は思い出したように口を開いた。
「そういえば医学部の過去問適当に集めてやってみたんだけど教えてあげようか?一応分かりやすくまとめてもみたんだけど‥」
「え?そうなの?私もやってみたけど難しかったから教えてくれると助かる」
「うん。じゃあ、また休みの日に予定合わせよう」
「うん。ありがとう結」
いつの間にそこまでやってくれたんだろう。テストもあったしピアノもあるはずなのに結は私のために全く自分とは関係ない事までわざわざしてくれていたみたいだ。結のこういう何だかんだいつも優しいところが嬉しく感じる。
結はお礼をしただけなのに少しだけ照れていた。
「協力するって言ったでしょ」
「そうだけどそこまでしてくれてありがとう」
「別に……他にもなんかしてほしい事があったら言ってよ?……私の方がいつもしてもらってるんだから」
「うん、ありがと」
私は結の役に立っているようでそれも嬉しく思っていると結は何か言いづらそうに口を開く。
「それと、私……謝んないとならない事があって…」
「ん?なに?」
謝る事って結が?いったい何があったんだろう。結は申し訳なさそうな顔をして話しだした。
「私は毎年クリスマスはママがチャリティー活動をしてるからそれを手伝ってるの。海外の教会とか、病院とか保護施設に行って子供達にピアノを弾いたりプレゼントを渡したりするんだけど……」
そうか、つまりクリスマスは一緒にいれないという事だ。でも、それなら話は別だ。それにしてもそんな事までしてるなんて凄いなぁ。結は口ごもっていたから私は笑って言ってあげた。
「いいよ全然。今年もやるんでしょ?行ってきなよ。皆喜ぶよ」
チャリティー活動をしているから結はとても優しいのかもしれない。最初から結は私に優しくしてくれて助けてくれたのを思い出した。結のおかげで嬉しいクリスマスを送れる子供が沢山いるなら一緒にいれなくていい。
「でも、……初めての、その……クリスマスだし…」
気にしている結を見るとどうにかしてあげたくなる。私は少し考えていたら良い事が閃いた。
「じゃあ、お泊まりの時にクリスマスのプレゼント交換しない?ケーキも用意してクリスマスは過ぎちゃうけどちょっとしたお祝いしようよ」
わざわざクリスマスの日にこだわらなくても良い。私は結といれるなら気にしないけど初めてのクリスマスだから思い出に残るような楽しい事をしてあげたい。日が過ぎても関係ない。結は嬉しそうに頷いてくれた。
「うん。だったらケーキは私が用意する」
「え、いいの?じゃあ、結は何か欲しいものある?いっぱいバイトしたから結の欲しいものあげるよ」
ケーキの代わりと言ってはなんだか結が欲しいものをあげたい。だけど困ったような顔をされてしまった。
「え?……欲しいものなんか特にないし」
「マジでないの?よく考えてよ」
「そう言われても……別にないし……」
「えー、……んー、そっかぁ」
結は本当にないみたいだった。これには私が困ってしまう。私が選ぶんじゃセンスを問われそうで下調べがかなり必要そうだ。結は意外に可愛いものが好きだからよく吟味しないといけないか……私が内心悩んでいたら結はなぜか耳を赤くした。
「あのさ、……私、……お揃いのマフラー欲しい」
「マフラー?そんなので良いの?」
結は私から目を逸らして頷いて見せた。
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