第75話



そのあとは少しベッドで結と甘い時間を過ごしてから、私達はシャワーを浴びてソファに一緒に横になってくっついていた。


特にテレビをつけたり話したりする訳もなく私達はただくっついて時折キスをして触れ合う。この時間は本当に満たされる癒しの時間だった。結は私のすぐ横にいて私にくっつきながら手を握ったりキスをしたりしてくるから私はそれに応えていた。普段は私からしているのに、今日はエッチのあとだからか随分素直で可愛らしいものだ。私は可愛いなと思いながら少し耳を赤くしている結の頭を撫でたり髪を優しく撫でてあげていた。



「……言い忘れてたけど、私達の関係は秘密だからね」


私にくっついていた結は唐突に横から私を見上げながら小さく言った。


「うん。私は元から誰にも言うつもりはないよ」


お母さんに言われたのだろうか。結は家の会社の事があるし、私は一切誰にも言わない予定だった。結が何か言われたりするのは嫌だ。結にキスをしながら答えると結は手を強く握ってくる。


「…ありがとう。ママには知られないようにしろって言われてるから。でも、泉が言いたい人がいたら言っていいからね?親に紹介したいなら私は会うつもりだし」


「んー?そんなのいいよ。親に言っても理解されないだろうし」


「……まぁ、それはそうかもね…」


私は複雑そうな顔をする結にまたキスをして笑いかけた。こればっかりは理解できない人もいる。でも、理解されないといけない決まりはない。


「どうにもなんない事はあるよ。私は結が理解してくれるならそれで良いし、親とか周りの人に教えたところでなにか意味があるとは思えないって言うか…、まぁ一番は結の事何か言われたらやだからなんだけどね。私達は好きだから付き合ってるけど理解できない人は絶対いるから無理に理解してもらう必要はないと思う。一々理解してもらおうとしたら大変だし疲れちゃうよ」



周りは彼氏の自慢とか当たり前にするだろうが私はそんな事しなくてもいい。理解されたからって何か変わる訳じゃないし、私達がずっと一緒にいるのに一々理解を求めていたらきりがない。結は私の説明に頷いてくれた。


「うん。ありがとう……」


結はそのまま軽く私に身を寄せるようにくっついてくると握っていた私の手を顔に近づけて私の掌に顔をくっつけた。撫でろって事なのかなと思った私はそのまま親指で結の顔を撫でると結は嬉しそうな顔をしていた。



「私も将来の事真剣に考えるね」


私は結にさっき考えていた事を話した。ただの口約束だけどもうこれは二人の話だ。


「結がピアニストになるなら私も結の隣にいても変じゃないように進路はちゃんと考える」


「泉……」


「私じゃなれるものとか限られちゃうと思うけど、結のために一生懸命勉強してバカなりに頑張るよ。ちゃんとした職についても女だから認められないだろうけど私はそれでも結に恥ずかしい思いとかさせたくないし、結に少しでも近づきたいから将来の事は安心してて」



私は企業の娘じゃないし頭も悪いから選べる立場じゃないけれど、それでも結のために頑張る。結が自慢とまではいかないけど私の話をする時に恥ずかしい気持ちにならないようにしたい。




「本当に真面目なんだから」



結はそう小さく呟いて微笑んだ。


「いつも私のためって真面目に考えすぎ。告白してくれた時からそうだけど……泉はしたい事をしてそのままでいてくれれば私はいい…」


「でも、結のために私もなにかしたいよ。結だけ頑張ってるのに私が頑張らないなんてできない」


結は私の手を離すと少し体を起こした。何をするのかと思ったら私の顔の横に手をついて上から私を見つめてきた。結は私に本当に愛しそうな眼差しを向けるから私はドキッとしてしまった。



「そういうのやめて。私をそうやって喜ばせないで。泉にそう言われると……嬉しくなって、受け入れちゃうし、本当に好きになる。……私、前に泉が教えてくれたみたいに泉の事どんどん好きになってるの。一緒にいるだけで気持ちが強くなって泉の気持ちが分かると胸が苦しくなるくらい好きだなって思っちゃう。泉、私……本当に、泉が好き。……ねぇ、大好き…。…本当に好きなの」


結は心酔したように囁くと私に深くキスをしてきた。結が私をこうやって求めてくるなんて思ってもみなかった私は一生懸命舌を絡めてくる結のキスに応えた。結がエッチ以外でこんなに好きだと言ってくれるのはほとんどない。私は少し体を起こして結の背中に腕を回しながら深く深くキスをした。結の気持ちが伝わって嬉しくて、私も求めてしまう。


「泉…んっ…はぁ、好き…、はぁ、大好き」


「……はぁ、私も……好きだよ」


キスをしながらこの気持ちを伝える。結が愛しくて愛しくてたまらない。私を好きでいてくれる結の愛情が心底嬉しくて、本当に好きだ。自然と唇を離すと結はさっきと変わらずに私を見つめてくれた。



「泉……」


「なに?結」


私は笑って結に呼び掛けに答える。結は本当にキスをすると普段よりも可愛らしくて色っぽくなる。その顔は本当に魅力的だ。



「もっと私に触って?一緒にいる時は泉に触れてたい……」


結は私に艶っぽく言うと私に少し乗るように抱きついてきた。結がこんなに自分の気持ちを言ってくれて大胆な事をしてくるなんて、気持ちが高まったから?それでもこんなに素直な結を目の当たりにすると顔が勝手ににやけてしまう。きっと普段からそう思っていただろう結の体を抱き締めて背中を撫でながら耳元に顔を寄せる。


「好きだよ結。結がそう言うならそうするよ」


私は結の愛しい重みを感じながら耳にキスをする。結と同じような事はよく考えているし、結の要望ならやらないはずがない。


「うん……」


小さく頷いてくれた結は少し私に顔を向ける。私はそれが何を意味しているのかすぐに分かって、結にキスをしてあげた。




帰るまで結と満たされる時間を過ごした私は帰り際に寂しくなってしまったが、これから沢山連絡をする約束を思い出すと寂しさが薄れた。結も少し寂しそうにしてくれたけどまた連絡するねと言うと少し笑ってくれた。


今日は久しぶりに結と二人の時間を過ごしたけど何だか濃い一日だった。お互いに思っている事もそうだけど将来の事は真面目に考えないとならない。


結が私のためにピアニストになるのを決めてこれからそのために結は動いていく。私はそれを支えながら自分の将来をしっかり考えないといけない。正直何になりたいとかはないけど結のためなら何にでもなる。


ただ、まだ私は何も知らないからとりあえず情報を集めようと思った。早い段階で受験のための勉強をする人はいる。そいつらに遅れを取りたくない。



私はその日からもっと勉強を頑張った。まだ先の部分の問題をやってみたり今までやった内容の復習をしたりして積極的に勉強をした。そして携帯で適当に職業について検索してみたりもしながら将来について模索していた。


何になれば結の隣にいても大丈夫なのか。私は勉強よりも将来について悩んでいた。正解はないけど間違ってはならないこれは慎重に決めないといけない。だから結のためにも早く決めてそのために動きたいけど選択肢がありすぎる。


したい事すらない私は最近は本当にそれを悩んでいた。



そして今日も今日とてバイトだ。

バイト先に来ても浮かない私は忙しさに悩みを忘れていたけどバイトが終わって休憩室で渡辺さんとご飯を食べていた。渡辺さんとこうやって被るのは珍しいけど渡辺さんは相変わらず何か面白い事を言ってきた。


「こないだ合コン行ったんだけど、合コンに来たやつが鼻毛出てて気になって見てたら俺に気がある?とか聞いてきてドン引きしながら鼻毛の事教えてやったら何か怒って帰っちゃったんだけど私悪い事したのかな…」


渡辺さんはご飯を食べながら悩んでいるかのように呟いたから私はとりあえず思った事を言った。


「それ勘違いして恥ずかしくて逆上したんじゃないんですか?渡辺さんに何も非がないですよ」


「やっぱそうだよね?てか、何も言ってないのに気があるって思うってヤバくない?酷い童貞臭がするよね。なんのエロ本読んだんだろ。キモかったりしたら普通に見るし、目があっただけじゃ何も始まらねーのになぁ…」


「確かに。ていうかそんな都合良く考えられて逆に幸せなやつですね。人生そんな上手くいかないのに……。その人イケメンだったんですか?」


私はご飯を食べながら聞いた。渡辺さんはいろんな話題を振ってくるけどこの人はたぶんモテるからこういうのに冷静で流されないんだと思う。



「いや、ブス。ブスのチビだった。何か昔付き合った?っていうか……たぶん嘘だろって話を自慢みたいにしてたよ。聞いてないのに普通に反応に困るし興味ないし、ていうか昔付き合ったやつの話とか女々しくない?いつまで引きずってんだよって話だよね。もう昔付き合ったやつとか興味ないし、あいつは消したい過去だと思うのに」


「正論としか言いようがない話ですね。合コンで昔付き合った人の話を普通にしちゃう神経がドン引き案件だし。それでチビでブスで勘違いって……良いところはいったい…?」


「だよねぇ。何かめっちゃ怒ってたから驚いたけど私変な童貞被害に遭ったみたいねこれ。気持ち悪っ。もう会わないから良いけどあのくらい自信あったら私もユカちゃんに連絡先とか渡せるのになー、私は無理だな。私には恐れ多くてマジ無理だわ」


またいつものアイドルの話か。こんな可愛いのにアイドル好きってこの人マジ損してると思うけどここはある意味良いところだと思う。



「でも、渡してみる価値はあるんじゃないですか?」


地下アイドルとファンの近さがよく分かんないけど軽く言ってみたら渡辺さんは真面目に答えてきた。


「そんなの絶対ダメだよ!だって私の天使だよ?!私の崇拝してるユカちゃんにそんなファンの気苦労かけられない!私は金を積めるだけ積んでユカちゃんが人気になってくれればそれで満たされるの。だからSNSで死ぬ程コメントするくらいが丁度良いのよ私みたいなドルオタは」


「はぁ……」


「そもそもユカちゃん会いに行くとめっちゃ優しいし可愛いしとにかく天使だし、存在していただけるだけでありがたい存在なんだよね。ユカちゃんが生きてるってだけでファンとしては…」


渡辺さんはまた推しのユカちゃんの話をいつもみたいに熱弁してきた。身分を弁えてるのは偉いけどもはやパパ活みたいだし何か色々怖い。好きなのは良いと思うが。私が若干引いて話を聞いていたらあとからやって来た遠藤さんに渡辺さんはまた貶されていた。



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