第74話


「……私も、好き。泉が大好き」


素直に好きだと言う結が愛しくて私は結が欲しくなってしまった。こんな誘うような顔をして好きと言われると私はダメだ。欲望に負けた私は結の首筋にキスをしながら舌を這わせた。


「結、好きだよ。本当に……」


「いっ……ずみ…!あっ……待って!…ここ、……ソファーだから…」


「いいじゃんソファーでも。……優しくするから」


「…それでも…ダメ。…んっ……バカ!ここじゃ…やだ……!」


結は私の肩に手を置いて離れるように嫌がってきたから、私はキスをしてから舐めるのをやめた。もう今すぐにでも欲しいのに。結は私を熱の籠った眼差しで見つめた。それが私を熱くさせる。


「ベッドならいい?」


「……いいけど……」


「じゃあ、ベッドでしよう?」


「……うん」


はぁ、もう襲ってしまいたい。結が素直に答えるのが可愛くていじらしい。しかし、結がソファで嫌なら従わないと。私はソファから降りて結を立たせると手を繋ぎながら結のベッドに向かった。先に寝室に入った私は後から入ってきた結が扉を閉めるのを待ってから扉に結を押し付けて激しくキスをする。ここまで来たけれど興奮が収まらなくて、私はもう待てない。



「あっ!はぁ……んっ、んっん……いずみ」


「はぁ、んっ……はぁ、はぁ」


結は力なく私の体を両手で押しながら掴んでくるがそんなのは意味がなくて、私は長くキスをしてから唇を離す。もっとだ、もっと欲しい。これじゃ全然足りない。ベッドはすぐ近くにあるけど今すぐしたい。結の蕩けた顔を見るともう我慢なんて私には無理だった。


「結、ごめん。もう待てない」


興奮しながらも先に謝った私はまたキスをしながら結のスカートの中に手を入れるとショーツをずらして結の大事な部分に触れる。それにまた興奮した。


結はもう濡れている。


「あっ…あっ…んんっ!いずみ……い、はぁっ……ずみ…」


「はぁ……結、好き……好きだよ……」



結も興奮してくれたのに嬉しくなりすぎた私は結の事でいっぱいだった。結の濡れた中で指を動かすだけで結は腰をびくつかせている。最初は抵抗しようとしていたのに結はいつの間にか私の首に抱きついてきていて、唇を離すと耳を赤くしながら眉間にシワを寄せた。





「…一回したら…そのあとはベッドじゃないとしないからね…」



受け入れてくれた結に笑って頷いて、私はそのまま行為を続けた。









結とする時は本当に満たされて幸せで嬉しいけど、私は興奮しすぎていつも自分の欲に負けてしまう。結を前にすると欲望が止めどなくて、上手く気持ちが制御できなくなってしまうのだ。結は私を受け入れてくれるけど終わった後には後悔が少し残る。前よりは着実に上手くできてはいるが私はまだまだ自分本意のガキだ。


あの後扉に結を押し付けながらしてしまったけど、ベッドでもした私達はお互いに裸のまま密着しあっていた。体を横にしながら私は抱きしめてほしいと言ってきた結の背中に腕を回してから髪を優しく撫でる。


「痛くなかった?」


「……平気」


「そっか。……あの、ごめんね?さっき立ってしちゃって」


結は最初嫌がっていたから怒るかなと思ったが、特に顔色を変える事もなくおもむろに頬にキスをしてきた。


「……私もしたかったから、別にいい」


「えっ、……あぁ、そっか……うん」


結はエッチをすると本当に素直になる。こう素直になられると私はどぎまぎしてしまって何だか恥ずかしくなってしまう。


「泉……聞いてほしい事があるの」


「ん?なに?」


結はいきなり真面目な顔をするから予想がつかなくてそわそわする。結は私をしっかり見つめながら口を開いた。


「私、将来はピアニストになる」


「ピアニスト?」


「うん。夏休みにママと約束してピアニストになるって決めた。その時に泉の話もしてきた」


「え?私の話?」


結はピアニストになるだろうとは思っていたが私の話を親にまでしてしまっていたのか。それの方が驚いたけど結は更に私を驚かせた。




「うん、泉と付き合ってるって話。そしたらやっぱりママは反対してきたから、ピアニストになる条件で私の交際には何も言わないようにしてもらった」


「え?」



つまり結は私のためにピアニストになる、という事なのか?私は驚きすぎて言葉が出なかった。だけど結は真面目な顔のまま淡々と話し出した。


「私は元からなりたいものがなかったしピアノは好きだからピアニストになるのは嫌じゃないから良いの。私はそれよりも泉の事をとやかく言われるのが嫌だったし、泉と別れる気もなければこの先泉以外を好きになる事もないからピアニストになろうと思った。ママはピアニストだから昔から私をピアニストにさせる気だったけど、私はなりたいと思ってなかったからよく喧嘩してて…。だけどあっさり頷いてくれたから」


「それは、……分かったけど。それ、いいの?」


私は思わず毛布をまといながら起き上がる。結は私のためにもう人生の道を決めてしまっている。こんな大きな決断をしてしまった結に確認せずにはいられなかった。あとから起き上がってきた結は私から目を逸らさなかった。


「いいから言ってきたの」


結は私の手を強く握る。




「私、最初はこんなに人の事好きになるなんて絶対ないって思ってた。恋愛とか、そういう話は私には全く関係のない話で私は一生誰ともそんな事するなんて思ってなかった。……でも、泉を好きになって、泉と付き合えて、ないと思ってた恋愛を経験したら本当に人生が変わるくらい幸せを感じた。人を好きになるって上手くいかない事もあるけど、こんなに良いものなんだって思ったの。泉が私を好きって言ってくれて一緒にいるだけで……私は本当にいつも嬉しいから。だから、思ったの。私をすごく理解してくれてこんなに好きでいてくれる人を離したくないって」


私が結を想っている以上に結は私を本当に想ってくれている。結の話を聞いているだけで私は嬉しくて胸が苦しくなった。結も私と同じ感情を持って私を好きでいてくれて、更に私を求めている。それは恋人として本当に認められているのを表しているかのようだった。



「……いきなりこんな事言われても困ると思うけど、私は本当にずっと泉といたい。泉と出会って付き合った期間は短いけど、私には泉しかいないと思ってる。泉がいない未来なんて私はもう考えられない。泉がいないと……私は、幸せじゃなくなると思うから。だから……私とは結婚とか、子供を作ったりとかはできないけどずっとそばにいてほしい。……でも、泉がそこまで考えられないなら断っていいから。突然こんな事言われても……その、困るだろうし…。自分でも急だと思ってるから…」


結の真剣な気持ちはただ嬉しいとしか言えなかった。自分の気持ちもあるけど私の事もよく考えてくれている結の優しさは結らしい。確かに突然ではあるが大好きな人に心底想われているという事に変わりはない。

私はそれには応えたいと思っている。恋愛をした事がなかったけど、こんなに私を好きになってくれる人を私も離したくない。



「いいよ。ずっと一緒にいよう。私もそばにいたいと思ってる。結がそんなに私を真剣に思ってくれて好きでいてくれるなら結とずっと一緒にいたい。私だって結と一緒にいるの嬉しいし幸せだなって思ってるんだよ。結婚とか子供は確かに無理だけど、結と一緒にいれるならそんなのいらない。結がいないと私も幸せじゃなくなっちゃうし」



結といれる未来には幸せもあるけど、できない事や困難が多いと思う。それをお互いに分かっていても私達は一緒にいる事を選んだ。他とは違う私達だけの幸せを選択したんだ。




「本当にいいの?私と一緒にいてくれる?」


だけど結は切なげに私に確認するようにそう聞いてきたから笑ってキスをしてあげた。結がいない未来なんてそんなの絶対嫌なんだ。


「うん。いいに決まってるよ。約束する。絶対破らないよ。逆に結は私といてくれる?結婚も子供も無理でなんにもない私だけど…平気?」



結が私のために将来を決めてしまっていても私はぱっとしないただの女だから少し不安だった。でも結は私に強く抱きついて私を安心させてくれた。


「平気に決まってんでしょ。あんたといれるなら結婚も子供もいらない。私は元々その気はなかったし、そんなの泉といれないならなんの魅力もない。私は、私を好きでいてくれる泉がいないとやだから。だからずっとそばにいて私を幸せにして。私も泉を幸せにしてあげるけど、前に私を幸せにしたいって言ったんだから絶対守って」



「……うん、分かった。絶対守るよ」


結を抱き締める腕に力を込める。結は最初からその気でいてくれたんだろう。私が言った言葉を覚えていてくれていたのが嬉しかった。結は私の言葉を本当に信じてくれて私に信頼をおいて好きでいてくれる。それなら私は一生かけても結に応えていかないと結に言った通りの事を実現できない。期待だけで終わらせる気はないんだ。


「泉?」


「ん?」


抱き締めていた結が私を呼ぶから私は体を離して結を見つめる。


「ピアノをこれから頑張るからあんまり一緒にいれないかもしれないけど、あんたのために頑張るから」


結の一途な想いに私はすぐに頷いた。


「うん。じゃあ私は結の応援するよ」


結の頬にキスをして笑いかける。私は頑張る結を一人になんてしない。


「大変だと思うけど結のそばにいて応援する。ピアノは分かんないけど結が頑張りすぎないように見てるから、頑張りすぎないように頑張ってね?」


「……意味分かんない…」


「分かるでしょ。私は一緒にいるから何か辛かったりしたら頼ってね?」


私は結のそばにいて精神的に支えてあげるくらいしかできないけど結は小さく頷いた。


「分かった」


「うん、良かった。じゃあ、一緒に頑張ろうね」


「……うん」


結に優しくキスをして笑いかけると結も小さく笑ってくれた。私はこれから結を注意深く見ておかないと。それともう一つやらないといけない事ができた。

結が将来を決めて頑張るなら結に見合うような人にならないといけない。職も安定して結を養っていけるくらいの仕事をしないとダメだ。だから勉強は確実にできるようにしないと。


結のお母さんは私との交際に何も言わない条件になっているが私に対して何も思わない訳がない。

私は心の中で決心していた。


結のために結の隣に堂々と立てるようになろうと。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る