第58話


昼ご飯を食べ終わってから私達は早速雑貨屋さんに向かった。こないだ琴美と行った所にも行きながらいろいろな物を見て回っていた。


「泉!見て見て?面白くない?」


私が内緒で結のためにキーホルダーを選んでいたら琴美は馬の頭の被り物を被りながらやって来た。女子高生姿の頭だけリアルな馬の被り物を被った琴美は違和感がありすぎて面白かった。


「琴美何してんの?リアルで笑える」


「えへへ、面白いから買おうと思って」


「何に使うの?てかこっち見えてんの?」


「見えてるよ?目のとこにね、小さく穴空いてるんだよ」


琴美は馬面のまま目を指差すけどそれだけでも笑えた。馬面なだけでバカっぽく見えるのは何でだろう。でも、可愛いのにこんな事をしちゃうのが琴美らしくて私は琴美の目を覗き込んでまた笑った。


「本当だね。なんか、それ被ってても可愛く感じる」


「え?……ど、どこが?これ可愛くないよ泉」


それは確かなんだけど結のように小柄な琴美が被ると小さいだけで可愛いし、琴美の楽しそうな気持ちが滲み出ているようでとにかく可愛く見えてしまうのだ。


「ん?そうだけど、琴美が被ると可愛いよ?頭撫でたくなっちゃう」


「じゃ、じゃあ撫でて?」


思った事を言っただけなのに琴美は大慌てで被り物を取った。そのせいで髪がかなり乱れてしまっているけど必死な様子の琴美が可愛らしくて髪を整えるように頭を撫でた。


「琴美そんな急がなくても大丈夫だよ。髪がボサボサだよ?慌てすぎ」


「だっ、だって、気が変わっちゃったら嫌だから」


「気なんか変わらないよ、こんなの別にいつでもやってあげるし」


今は恋人ごっこ中だから、このくらい御安い御用だ。恋人ごっこじゃなくても琴美ならやってあげるのに遠慮していたのだろうか、琴美はちょっと不安そうに言った。


「じゃあ、これから琴美が撫でてほしいって言ったらしてくれる?」


私はもちろん頷いて答えた。


「うん、いいよ。琴美のお願いは大体聞いてあげるから。他にも何でも言って良いよ?」


琴美が喜ぶなら大体の事はするつもりだ。琴美に寂しい思いはさせたくないし、あの日みたいに泣かせたくない。琴美に甘いのは確かだけど私には琴美が特別だから仕方ないのだ。私は髪を整えて琴美から手を離すと琴美は私の手を握ってきた。


「ありがとう泉。琴美嬉しい」


「うん。でも、できる範囲でだからね?」


「うん!あっ!琴美三人でもお揃いが欲しいから一緒に探そう?」


琴美はそのまま手を引くから私は頷いた。早速されたお願いをしっかり叶えてやらないと。


「いいね。三人で探そっか。結どこ行ったかな」


「琴美も見てないけど、琴美が探してくるから泉待ってて?」


「うん」


琴美は大量に色々入れたかごを持って小走りに行ってしまった。これは、今がチャンスか。私はさっきまで見ていたキーホルダーに目を向ける。結は何が好きか今一分からないけど、これなら大丈夫な気がする。私は琴美が結を連れてくる前に自分のかごにそれを入れた。




結を琴美が連れてきてから三人でキーホルダーを選んだ。琴美が良いと言うやつは全部変わったやつで結が不審がっていたけど結が選ぶやつは意外にも可愛らしい女の子っぽいやつだった。結は冷めている割りにやはり乙女のようだ。

私は二人が喧嘩しないようにどちらの意見も尊重しつつ眺めていたけど琴美が珍しく可愛いやつに惹かれていた。


「ねぇねぇ!これは?これ可愛いよ?」


「あ、本当だね」


琴美が指差したのはパズルのピースの形をしたキーホルダーだった。確かにこれはあまり見かけないし可愛い。結もそれには同意見だった。


「良いんじゃない?可愛いし」


「だよね!これにしよーよ?」


「私は良いよ。結は?」


結はパズルのピースのキーホルダーを手に取るとしばらく無言で眺めてから口を開いた。


「これカップル用じゃないの?」


「え?」


結に言われてよく見てみると白と黒のパズルのピースはお互いに嵌まるようにできているみたいでイニシャルが四隅に書かれている。これは三人で付けられない。


「あぁ、本当だね。じゃあ、違うのに…」


「じゃあ琴美と結が白で、泉は黒にしよ?」


私の言葉を遮って琴美は全く気にしていないかのように言うと、私の手に私のイニシャルの黒いキーホルダーを置いた。私達は付き合っていないけどこういう付け方もあるのかもしれないがこれはいったい。結は眉間にシワを寄せていた。


「……なんで?おかしいでしょ」


「え?そうかな?別に良いじゃん。泉とはずーっと一緒にいるつもりだもん琴美。結は一緒にいないの?」


当然のように言った琴美の言葉は結を挑発しているかのようで、私は今さら口を挟めなかった。琴美は笑っているけど結は更に眉間にシワを寄せるから内心動揺してしまう。


「私だってずっと一緒にいるに決まってんでしょ」


「ふふふ、じゃあ決まりだね。泉は琴美と結とずーっと一緒だ。泉どこにも行っちゃダメだよ?」


「……いや、あの琴美…」


私への気持ちは嬉しいけどなんかちょっと不穏な空気にとにかく何か言おうと思ったが、それは無駄だった。


「泉がどっか行く訳ないでしょ。泉の面倒は私が見る予定だから」


何を言い出したかと思ったら結は私と付き合うのを宣言するかのような事を言うから驚いた。今言わなくても良いのに、この二人は何でこんなにぶつかりやすいのか。さすがの琴美もこれの意図に気づいたのかにっこり笑うと私の腕に抱きついてきた。




「結ばっかりズルい。琴美だって泉のお世話してあげたいから独り占めはダメ」


今日は三人で仲良く遊ぶ予定だったのにどうしたんだろう。私は睨み合う二人を見つめながら生きた心地がしなかった。

宣戦布告なのだろうかこれは。私にはよく分からないけどこの空気は気まずい。私はまだ何か言おうとしている結より先に口を開いた。とにかく止める、今の私がしなきゃならないのはそれだ。


「あっ!あのさ!このあとプリクラ撮らない?それで抹茶専門の美味しいお店知ってるからそこ行かない?すっごい美味しいけどちょっと混むかもしれないから早めに行きたいんだよね私」


いきなり何の脈絡もなければ意味不明な自己主張だけど明るく言ってみた。ここで喧嘩の流れになるよりはましだ。私の提案に結は意味分からなさそうな顔をしたけど琴美は嬉しそうに同意してくれた。


「プリクラ琴美も撮りたい!じゃあ琴美先に買ってくるね!このお揃いのやつは琴美が買ってあげる!」


琴美は私の手から黒いキーホルダーを取ると結と自分の分を持って楽しそうにレジに向かってしまった。とりあえず良かった。


「泉」


免れたと思ったのも束の間に結は私の手を掴む。その顔はなぜか真剣だった。





「言ってなかったけど、私はこの先ずっとあんたといるつもりだから」


「え?……」


いきなりの結の衝撃的な発言に驚いて上手く解釈できない。ずっと一緒って本当にそういう意味なの?結は私の手を引くと耳元ではっきりと言った。


「私はあんたしか考えられないから。泉としか幸せになるつもりはないの」


「それって……あの、マジで一緒って意味?」


私は恥ずかしくなるような嬉しい結の気持ちに思わず確認してしまった。まだ付き合ってはいないけど確定してはいる私達の関係の先を見ている結は当然のように言った。


「当たり前でしょ。あんた以上に何か思える人なんていないから。泉は嫌なの?」


こういう事を言う時に結はよく恥ずかしがっているのに今は照れもしないから私の方がなんだか恥ずかしかった。まだ分かんないって言っていたのにこんなプロポーズみたいな事を言うとは、私は本当に好かれているようだ。


「そんな訳ないよ、めっちゃ嬉しいよ」


「だったらそういうつもりで思ってて。私は本気だから」


「う、うん。わかったよ」


「でも……琴美とは仲良くしてあげて。それと、優しくしてあげて。琴美はあんたが凄い好きみたいだから」


琴美に対して敵対心があると思っていたのに、結はそれもなぜか真面目に言ってきた。

どういう意味なんだろう。琴美とはずっと仲良くするつもりだし優しくもする。結は琴美が私を恋愛的に好きだから心配して言ったのか?よく分からないけど私はしっかり頷いた。


「うん、分かってるよ」


とりあえず琴美は能天気そうだけどあれで傷つきやすいから私は結に言われた事は守ろうと思う。私達は琴美の後に続いた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る