第53話


「結なに照れてるの?」


結はそれだけで動揺していた。


「は?……なにいきなり、意味分かんないんだけど。さっさと問題やれっつーの」


「もうこれで一通り終わったじゃん」


「えっ?あ、あぁ……そっか。ちょっと待って今から考えるから」


結が作ってくれた問題はもう全部結が丸を付けてくれたのに結は分かりやすく動揺していて少し笑えた。急いで紙を出して問題を考えてくれる結に私は腰に手を回して顔を近づける。


「結」


「い、泉?」


可愛い結を見ていたらキスをしたくなってしまった。私は益々動揺している結の腰を引き寄せてキスができる距離までくると結は恥ずかしそうに自然と目を閉じた。私の気持ちが分かってくれたのか、私はそれを見てから結にキスをする。少し長く唇を合わせて離すと私達は自然とまた啄むように何度かキスをした。


言葉がなくても結とのキスはお互いに理解できているように本当に自然とする事ができるのが不思議に思うけどキスをしていると気持ちがよくなってしまって中々やめられない。


それでも昨日みたいに理性を失くして結を襲ってしまいたくないので私は名残惜しく思いながら結から唇を離す。

結はとろんとしたような目をしながら私を見つめる。いつもは強気で私を見る目付きは悪いのにキスをするとこんな風に私を見つめるのは私を高まらせるだけだ。



「さっきから照れてるじゃん。昨日のキス意識してたの?」


私は腰に手を回したまま近い距離で結に尋ねた。


「そんなの……意識するに決まってんでしょ」



結は開き直ったように言ったけど机に置いていた私の手を握って途端に恥ずかしそうに小さく呟いた。


「私は……こういう事すんの初めてなんだからね。…私だって人並みに緊張したり恥ずかしいって思ったりするから…」

 

私は思わず手を握り返してしまった。胸がドキドキしてしまって結が本当に愛しく感じる。私はこんなに可愛くて綺麗で優秀な結に好かれていて、こうやって触れる事ができるのにもう胸がいっぱいだった。私は結を独占できている、そう考えると結をもっと感じたくなる。


「私も一緒だよ。なんか、嬉しすぎてまたキスしたくなっちゃった。してもいい?」


私はもうキスができる寸前の所で結に聞いた。結はそれに顔を赤くしながら私に控え目にキスをすると、気に入らなさそうな顔をして睨んでくる。こんな顔をされても私の胸の高鳴りは増すばかりなのに結は分かっていない。



「一々ウザいから…。…昨日言ったでしょ、私が言った事忘れたの?」


もう結の気持ちは行動と態度でバレているのに結は本当に素直に言わない。強気で言ったからって今さら何かを誤魔化せないのに、そんなところが本当に愛しく感じる。


私はそうだったね、と笑いながら結にまたキスをした。唇を離しても至近距離で見つめてくる結が愛しくて私は何回もキスをする。そして愛しい気持ちが溢れすぎた私は昨日初めてした深いキスをした。


少し強引に舌を捩じ込んで結の口を開けさせると結の舌に自分の舌を絡めながら至る所を舌でなぞった。結は私のキスに手を強く握りながら応えてくれて私も強く手を握り返しながら結を感じる。


「はぁ…はぁっ……んっ……はぁ、んっんん!……あっ…はぁ……」


「はぁ……んっ、……ちゅっ……はぁ、結」


舌を絡める卑猥な音に頭が麻痺しそうだ。激しく舌を絡めながらキスをして私はやっとの思いで唇を離す。もっとしたいけど自制しないと止められなくなる。でも、結が熱く私をみつめてくるからまた欲望が溢れ出してしまった。


あと少しだけしたい。私がもう一度キスをしようとしたら結はいきなり顔を逸らしてきた。


「もうダメ……」


その可愛らしい制止は私の熱を冷ます。


「ごめん、嫌だった?」


またやり過ぎたかもしれない。私は内心不安に思っていたら結は顔を逸らしたままちょっと怒ったように口を開いた。



「嫌とかじゃなくて…勉強がまだでしょ。こんな事してたら勉強できなくなっちゃう…」


そういえば勉強を忘れていたのを思い出した。嫌がられていないのに安心したけどもっとキスをして結に触れていたかったからがっかりしてしまう。



「…あとでじゃダメ?」


繋いでいた手に少し力を込めてねだるようにキスをしたい気持ちを伝えるけど、結は眉間にシワを寄せて照れながら私に顔を向けた。


「……ダメ。あんたが赤点取ったら困るから」



結はやっぱり真面目だ。結らしい返答に思わず笑ってしまう。こう言われては私も勉強をやらない訳にはいかない。


「うん、そうだね。分かった、ごめんね結。勉強再開しよ」


「……うん」


まだキスの余韻も残ってるし結の可愛らしい表情を見ているとキスをしたくなるけど我慢だ。結から手を離して椅子に座り直すと結は早速紙に問題を考えて書いてくれているみたいで私は嬉しく思いながら結の横顔を見つめていた。






「……あとでしよう」


「え?」


結は紙を見ながら書いている手を止めずに言った。いきなりの誘いに私が戸惑っていたら結はそのまま答えた。


「勉強終わったら……していいから。だからちゃんと勉強して」


いつもの口調で言われたけど、つまり終わったらキスをいっぱいして良いって事だろう。私にとってプラスでしかない事は私のやる気を上げるのに充分だった。


「うん!頑張る!」


それから私は結にしっかり勉強を教わった。

結が考えてくれた問題を解いたり口頭質問に答えたり暗記問題を覚えやすく教えてもらった。至れり尽くせりな結に私は応えたくて頑張って必死に勉強をした結果、休憩を挟みつつ勉強が終わったのは夕方前くらいだった。



まだまだ日が明るい時間に終わった私達は勉強道具を片付ける。私はもう待ちきれなくてうずうずしていた。勉強中はちゃんと勉強に集中してたからそこまで結を意識しなくて済んだけど今は違う。

もう集中は結に向いてしまっている。


結が教科書を自分のデスクにしまうのを確認すると私は思わず後ろから抱き締めてしまった。


「泉?!ちょっと、ビックリするでしょ?」


「結、早くしようよ?」


私はさながら腹を空かせた狼のように驚いている結を腕に閉じ込める。

結は特に抵抗もせずに私に向き直った。


「まだ片付けてるから……そっちのソファで待ってて」


少し目線を大きな高級そうなソファに向ける結。結とキスができるならどこでもいいけど私は喜んで頷いた。


「うん、じゃあおとなしく待ってる」


結を抱き締めるのをやめて私は素直にソファに向かった。がっつき過ぎるのはよくない。


結はデスクに向き直ってまだ片付けたり整理をしているのを私は仕方なく一人でソファに座って眺めていた。

それにしても、ふかふかのこのソファは人が寝れる位大きくて一人で座っていると何か落ち着かない。でもすぐに来るだろう結を待ちながら、私はソファの感触を楽しみつつ携帯を弄る。




昨日からずっと結といたから携帯をほとんど確認していなかったけど携帯には琴美から連絡が来ていた。それを確認してみると琴美はヴァイオリンの先生にかなり怒られて絞られたようだった。最後の文にはもうヴァイオリンはやりたくないと書いてあって私は笑いながら返信した。



琴美って本当に小学生みたいで笑えるなと思いながらすぐに連絡が来た琴美と携帯の文面で話していたらお待ちかねの結がやって来た。


「なに笑ってんの?」


琴美が携帯の文面で嘆いているから少し笑っていたら結は私の横に座りながら不審がってきた。こんな面白い琴美は中々見ないから私は結に説明してあげる。


「琴美が昨日ヴァイオリンの先生に超怒られて練習死ぬ程やらされたんだって。珍しく嘆いてるから面白くなっちゃってさ」


ちょっと携帯を見せてあげると結は鼻で笑って呆れていた。


「琴美は昔から練習は真面目にやんないしレッスンはよく忘れるし……良い教訓になったんじゃない」


「ふふふ、そうなんだ。そういえば琴美ってピアノできたんだね?私知らなかったよ。ヴァイオリンやってたのも知らなかったし」


「琴美は昔からヴァイオリンとピアノはやってたよ。ただ、ちゃんとはやってなかったけど」


琴美らしい結の発言は頷けて想像がつく。私は笑ってしまった。


「そんな感じするわ。琴美ってちょっと変わってるし」



「まぁね。……それよりあんたに入れ込みすぎて最近ウザいんだけど。琴美を甘やかすのやめてくれる?」


いきなりウザそうに怒ってきた結に私は気まずく感じて焦った。確かにそうなんだけど私はなんだか琴美を怒れない。


「え、そんな甘やかしてるつもりは…」


「あるでしょ?いつも何も言わないし、あんたが調子に乗らすからあんたがいなくても泉泉って本当にうるさいから」


「あー……はい。ごめん」


私は結の直球に何も言えなくてただ苦笑いしながら謝った。なにこの肩身の狭さ。琴美って何か妹みたいだし言動が可愛いから強く結みたいに言えないのは事実だった。しかしこれから改めて何かを言っていくのは私には無理だ。ここはもう謝るしかないか。私は言い訳のように口を開いた。


「何かさ、琴美って妹みたいというか、動物っぽいとこあるじゃん?だから可愛く見えちゃって……とても言えないわ私。ごめん結、こればっかりは勘弁して」


琴美はいつも私に犬みたいにくっついて来るしいつも嬉しそうににこにこ笑っている顔を見ていたら私は琴美に弱くなっていた。その結果、破天荒でうるさいしよく我が儘を言う琴美を私はいつも笑って受け入れていたのだ。

謝ったけど、結がこう言うのは当たり前だ。

何かキレられそうだなと感じながら結の怒りの言葉を覚悟していたら舌打ちをされた。




「琴美は確かに可愛いけど……私よりそういう事思ってるって事?」


覚悟をしていたのに怒ってなさそうな結は不安そうな顔をしていた。

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