第52話


「待って泉…」


もう結の体に触れそうになっていた私は結の止める声にやっと理性が戻った。結をもう襲いそうになっていた私は恥ずかしそうな結に慌てて謝った。まだ結の気持ちを待たないとならないのに何をやっているんだ私は。


「……ごめん、本当にごめん!あの、私、もうしないから。本当にごめん」


私は結の上からどこうとしたら結は私の首に回していた腕に力を込めて私を動けなくする。さっきまでキスをしていたけどとても近い距離に動揺した。


「別に、平気だから。……あの、まだ、そういうのはできないけど……キスはしたい」


「え?……でも、私達……付き合ってないんだよ?」


さっきは同意の上で流れのようにしてしまったけど私達は付き合っていない。付き合っていないのにキスなんてよくない気がする。でも結は私を見つめながら本当に恥ずかしそうに口を開いた。



「それでもしたいの。泉に私の事で悩ませたりとかさせたくないから……だからこれは、付き合うのを保証するためにしたい。それに、泉とキスしてれば……私も恋愛感情がすぐに分かるかもしれないから。……だから、したいの」



真面目な結ならこう言うのは何となく分かるような気がした。結は私を待たせたくないと前も言っていたし私を考えて焦っているのが分かる。でも結が悩んでいる恋愛感情が私にはよく分からなかった。

ここまでしてしまって、結は私との関係を発展させたいと思っているけどそうしない理由がなぜなのか私は知りたかった。


「結が考えてる恋愛感情って何なの?」


私は愛しい結に聞いた。私よりもはるかに物事を考えてしまう結は少し表情を歪ませる。


「……分からない。ただ皆が言うみたいに好きな人に会いたくなったり、いっぱい考えてどうしようもなくなったり、胸がドキドキしたりする事なのかなって…漠然とは考えてる。でも、そんな気持ち私はなった事がないの。決定的なそういう気持ちが私にはない。泉の事は好きだけど……好意はあるけど、そういう気持ちが分からない。それでも、泉にくっついたりキスしたりすると、それなりに恥ずかしいし緊張したりするから……これがもっと強くなれば私は泉を本当に好きだって言える気がすると思ってる」


結の真面目な気持ちは結なりに答えを見出だそうとしているのが伺えて、私は容易く何かを言う気にはならなかった。結は私のために分かろうとしてくれている。それは本当に嬉しい事だけど結の焦りを実感して少し苦しくなった。


「…結の気持ちは分かったよ。でも、まだそんな気持ちなのにキスなんてしていいの?私は別に焦ってないし結の事はずっと待てる。結の気持ちも分かってるからキスして保証なんてしなくても私の気持ちは絶対変わらないよ?」


結に私の愛情が伝わるように私は片手で結の頬に触れる。結が悩んでいるなら急かしたくないし私はひたすら待ってあげたい。それでも結は納得していないようだった。


「それは嫌なの。私、泉をそんなに待たせられない。泉は優しいからそう言ってくれるのは嬉しいけど泉の事考えると私がしてる事は酷だと思うから。それに私だって、泉と付き合いたいって……思ってる。まだ待たせてるけど……私が良いなって思ったのは泉だけだから。泉に好きになってもらって嬉しいし、泉の真剣な気持ちに、私は真剣に応えたいの。……確かにまだ付き合ってないから先にキスをしたりするのは良くないけど、それでも私はしたい。泉を安心させてあげたいし、泉を……本当に好きになりたい」


「結……」


必死な結にここまで言われてしまうと結を好きでいる私は断れなかった。本当は良くないけど結は私を良いと思ってくれているし本当に好きになろうとしてくれている。

だったら私は結のためにキスをしたい。今まで求めなかったけど結に私を好きになってほしい。


私は結に優しく触れるだけのキスをした。唇を離すと優しく頬を撫でるように触りながら結を見つめる。


「いいよ結。これからもこうやってキスしよう。結が私を好きになってくれるように私も頑張るから」


結が恋愛感情を理解しようと頑張っているなら私も一緒に頑張りたかった。何でもできる結が焦って悩んでいるのをただ待っているなんてできない。

結は嬉しそうに笑うと頬を撫でていた手を握ってきた。


「ありがとう泉。できるだけ早く応えたいから二人の時は……いっぱいして?」


「うん、分かった。いっぱいキスするね?それで、私が結に感じてる気持ち教えてあげる」


私は笑ってまたキスをすると結の横に体を移動する。私は結が初恋だけど恋する気持ちはそれなりに分かっているつもりだから結に教えてあげたかった。

結に恋をして悲しくなったり辛い思いをしたけれど本当に楽しくて嬉しい思いをしたのも事実だからそういう気持ちを結も分かってくれたら良いなと思う。

結は体を私に向けて私を見つめる。


「どんな気持ちなの?」


結は穏やかに少し照れたように聞いてくるから私は頭を撫でながら結への溢れる気持ちを伝えた。


「凄く嬉しくなるんだよ。結が笑うと嬉しくてドキドキして幸せな気分になる。ずっと見ていたいなって思うから結を喜ばせてあげたくなっちゃって、いつの間にか結のために頑張ってる。でも結が誰かと仲良さそうだとモヤモヤして悲しくなったりするんだよ。好きだから嫉妬もちゃう。けど結と一緒にいるとそんなの忘れちゃってさ、好きだから単純なんだよ。一緒にいれるだけで嬉しくて心が満たされる?って言うのかな、そんな気分になる。それで一緒にいればいるほど結が好きになる。私の結に対する恋愛感情ってこんな感じなんだよ」


上手く表現できないけど私なりに結への気持ちを教えてあげた。結への気持ちはこれからもどんどん膨らんで私の心を占めると思う。今でさえも結が私の心を占領しているのに私は本当に結の虜だ。


照れくさい私の気持ちに結は私の手を握って小さく微笑んだ。


「ちょっと分かりづらいけど、なんとなく分かった。私も泉が思う気持ちと近いものを感じる時があるかも…」


「本当?嬉しいなぁ。じゃあもっと頑張るね。結が嬉しくいられるように私めっちゃ頑張る。頑張って頑張って、結がもっとそういう気持ちになれるようにする」


結が本当に私を好きになって恋をする前から私は結を常に嬉しくさせて笑わせてあげる事に全力を尽くしたい。そうしていたら結がそこまで悩まなくても自ずと理解できるかもしれない。


「……本当に、単純でバカみたい」


結は嬉しそうにそう言って私にゆっくり近付いてきたから私も自ずと近づいた。それは何をするのか私は手に取るように分かった。まるで自然と引き寄せられたかのようなキスをすると結は私の首に抱きつく。


「でも、そういうところも…良いなって思う。私のために一生懸命になってくれるあんたが…好きだなって思う。……バカみたいだけど嬉しい」


「うん……。結が大好きだからね」


華奢な小さな結を抱き締めた。結がそう言うだけで私は結が好きな気持ちがまた高まるようだった。



私達はその後もくっつきながら話をした。結に対する恋する気持ちを赤裸々に教えてあげて私の好きな気持ちを結に伝えると結は本当に嬉しそうに笑ってくれて時折キスをしてきた。あまりに自然にキスをしてくるから私はちょっとどぎまぎしながら応えるけど好きな結とキスができるのは本当に心から嬉しくて満たされる気分だった。


結はまだ決定的な恋愛感情を感じていないけど私はこれを繰り返して隣にいながら結を笑わせていれば必ず結は私を好きになってくれると思う。



そして寝る時も私達はくっついていた。

布団に入ると、結は自然と私に密着するように隣に来たから私は結の背中を優しく撫でながら結の綺麗な髪に触れた。

結は嫌がりもせずに私を受け入れるとおやすみと言ってすぐに眠ってしまったけど私は少しだけ結の寝顔を見ていた。



寝ているだけでも可憐な結がこんなに近くにいる。私を好きと言ってくれてこんな私と付き合いたいと思ってくれている。

今日の事は夢かもしれないって思うけど結の温もりが感じられて私は身に染みて結の気持ちを実感していた。

いつもあんまり自分の気持ちなんか言わないし機嫌悪そうにふてぶてしい態度をしているのに私のために泣いて怒りながら気持ちを話してくれた結を思うと、私は好かれているし結に大切に思われている。


こんなに幸せな気分になってしまって良いのだろうか。叶わないと思っていた恋が叶う前提になっていて結はキスまでしてくれる。あぁ、嬉しくて嬉しくてたまらない。


私をこんな気持ちにしてくれるなんて本当に結を好きになって良かったと思う。

まだ付き合っていないし少し時間がかかると思うけど私は結への気持ちが失くならなくて本当に良かった。




次の日、私はまた結に起こされて目が覚めた。結は服を既に着替えていて私をいつもみたいにウザそうな顔をして起こしてくれた。私はそれに昨日の事は何かやっぱり夢だったのかと思ってしまう。いつも通りは嬉しいけど嬉しくないような、よく分からない気分だ。



でも服を着替えて朝ご飯を食べて歯磨きをしたりしてから勉強を始めると結の様子は何だかおかしかった。


昨日の復習と応用を兼ねて私は結に問題を出してもらって解いていたら結は私をじっと見つめているみたいで、明らかに視線を感じるから結に目を向けると恥ずかしそうに目を逸らしてくる。最初は何か間違っていたかなと思ったけど問題が解けて結に見てもらう時も結はなぜか耳を赤くしていて照れているようだった。


昨日キスをしたから今は距離も近いし意識しているんだろうか?私はあまりにも可愛らしい反応をする結を見かねて笑って声をかけた。

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