第43話


「ごめんね結。あのね、……私、私……結が好きだから本当は今までみたいに結と仲良くしたい。私の気持ちには答えてくれなくて良いから友達として、そばにいれたらいたい。結にいつも笑っててほしいからあの約束も守っていっぱい思い出作りたいって……思ってる」


私の本音はただ好きな結と一緒にいたいから結が嫌じゃないなら私は今までと同じように結と一緒に楽しんで過ごしていきたいだけだった。結は私の本音に抱き締め返して応えてくれた。


「……最初からそう言ってよ。私が告白されたからって泉を嫌いになるはずないし、泉は私の事本当に好きになってくれたから私を大切にしてくれてたんでしょ。今は驚いてどうしたら良いのか分からないけど、私はその気持ちは……素直に嬉しいと思ってるし、別に嫌な気分じゃない。……泉は私を……私の家とか、体を目当てに好きになったんじゃないんでしょ?」


確認するかのように言ってきた結に私の結に対する気持ちはそんなんじゃないからはっきり答えた。


「そんなんじゃないよ。最初は結の笑った顔に惹かれたけど、結の人柄っていうか…優しいとことか、思いやりがあるとことか……良いなって思って……好きになってた」


言葉にするのは恥ずかしいけど結への気持ちは本気だし本当だ。思わず抱き締めてしまったけど結と密着してるし、こんな事も言ってしまって私は今更ドキドキして顔が熱くなるのを感じる。結はそんな私に少し笑うと一瞬強く抱きついてから離れて、耳を赤くしながら私の好きな笑顔を見せた。


「そうやって真剣に私の事好きになってくれる人って今までいなくて、皆私の事なんかちゃんと見てもいなかったから……だから、凄く嬉しい。けど……私は今まで恋愛とかした事ないしこれからもしないと思ってたから、今は悪いけど答えられない。でも、ちゃんと考えたいの。泉が本当に私を好きでいてくれてるのに考えないで答えは出せない……」


結はそこまで言うとなぜか言いづらそうな恥ずかしそうな表情をして目線を逸らす。結の真面目な優しい私への思いやりは嬉しく感じる。だけどいきなりよく分からない反応をされて不思議に思っていたら、結は本当に恥ずかしそうに呟いた。


「それで、私…悪いけど……恋愛経験がないから……その、恋愛感情とかよく分からないの。ちゃんと真面目には考えるけど……分からないから……その……」


珍しくはっきり言わない結は本当に恥ずかしいみたいで困っているようだった。結にもこんな一面があるのかと思うとちょっと笑えてしまったがそれ以上に私を考えてくれるのが嬉しくて、私は結と目線を合わせるように少し屈んだ。


「結が真面目に考えてくれるだけで充分だよ。答えがいつになっても、答えが出なくても私は待ってるから平気。それにダメでもいいから。ダメならダメで早く言ってくれれば諦めるから」


私は正直この先仲良くできるだけで本当に良かった。結が考えてくれると言ってくれたけど私じゃダメなのは知っているから好きだけど諦めている。でも結の優しさが嬉しかったから応えてしまった。望んでいないのに望んでいるみたいに結に合わせてしまった私はまるで結を裏切っているかのようだけど、結の表情を見てたらそうせざる得なかった。だけど結は少し顔を赤くして頷いてくれない。


「そんなの…泉が可哀想だから待たせたくない。今までも私に対して色々思ってくれてただろうし、待たせないように早く答えは出すから…」


「……でも、分かんないんでしょ?」


「それは……そうだけど。泉のためなら分かるように頑張るし、その、……泉の気持ちだって変わるかもしれないでしょ?」


「え?」


気持ちが変わるって結はそこを気にしていたのか?私の中の結への気持ちは大き過ぎるくらいだし初恋だから簡単に心変わりはしないと思うのに結は真面目な顔をしている。


「私が泉を好きになって答えを出すのが遅かったら、その時泉が私を好きじゃなくなってたっておかしくはないでしょ?そうなったら嫌だし、泉にもその間辛い思いさせるかもしれないから…」


「いやあのね、結」


私はとにかく結を止めた。結が私のために真面目に考えてくれているのは分かったけど私だって恋愛経験がない。不思議そうな目線を送る結に私は恥ずかしく思いながらも自分の事を話した。私のこの気持ちは軽くなんてないからそれを信じてほしかった。


「私もさ、あの…初めてだから。人を好きになったの初めてで……私も恋愛経験とかない。だから最初は戸惑ったけど、私は本当に結が好きだよ。凄く結が好き。結の笑った顔を独り占めしたいって思うし、この気持ちは誰にも負けたくないって思うくらい好きだから……結の事好きじゃなくなるのはあり得ないよ。私は……キモいかもしれないけど、たぶんフラれても結が好きだから」


この恋は元々ダメだと思っていたから諦めたかったのに止まれなくてここまで来てしまった。結は私の事を真剣に考えてくれるみたいだけど結の家の事を考えると無理だと思う。結はきっと家柄を重視した結婚を親に望まれてるだろうし、子供だって望まれてるだろう。だってそれが普通の幸せだから。

だからそもそも女の私じゃ話にならないのは理解している。私じゃダメなのは分かってるけどこの気持ちは本当だ。


「……あんまり、そういう事言わないでくれる?……」


結はおもむろに私に抱きついてきた。結は私の肩あたりに顔を埋めて私の背中に手を回してくるから、結に触れているという感覚にドキドキしてしまう。


「……ごめん、こんな事言われても困るよね。ごめん……」


私は結の温もりを感じながら結が引いたのかもしれないから謝ったのに、結はただ強く抱きついてきた。


「……そうじゃなくて。……嬉しくて……照れるから…」


「……う、嬉しいの?」


結の前だと好きな気持ちくらいしか自信がないから結の気持ちに動揺するけど素直に嬉しくなるような気持ちは聞かずにはいられなかった。結はさっきから私を嫌がらない処か私に触れてくれる。


「あんたは……優しくて、私をいつも気遣ってくれるし、一緒にいると……いつも楽しいから……そういう人に想われたら嬉しくなるものでしょ。それに私は、友達としては凄い好きだから」


「……あ、ありがとう……」


結の気持ちに胸が暖かくなる感じがして本当に嬉しくなるけど同じくらい照れる。私は結に比べたら取り柄もないし外見だって普通以下なのに心臓がドキドキし過ぎてどうにかなりそうだ。

結の中で私の存在が悪いものじゃなくて良かった。本当に喜びを感じていたら結は小さな声で私に問いかけてきた。


「……抱き締めたりとか、しないの?」


言いながら顔を上げて至近距離で私を見つめてくる結は若干顔も赤いのに少し気に入らなさそうな顔をする。告白しといて自分から触れるなんて下心満載に感じられるかもしれない事は私には無理だったけど、結の反応を見ると触っても大丈夫なのかもしれない。淡い期待に私は緊張しながら聞いた。


「……触っても良いの?嫌じゃない?」


唾を飲み込む。結に触れるのは正直嬉しいけど結が嫌がる事は絶対にしたくない。結は目を逸らさずに恥ずかしそうに口を開いた。


「……嫌だったら言わないから…。それに、さっきは勝手に抱き締めてきたくせに…」


「…それは、だって……結が泣いてたから。じゃ、じゃあ……抱き締めても…いい?」


さっきは勝手に体が動いてしまったけど今は抱き締めると言う行為に緊張して拳を握りしめてしまう。結が嫌がらないなら私は触れたいけどまだ確認しないと怖い私に結は顔を隠すように私に抱きついた。


「……嫌じゃないって言ってるんだから何度も言わせないで…」


「う、うん。分かった」


良いとは言わないけど許可をもらった私はやっと結を抱き締めた。さっきは結が泣いていたし私がいっぱいいっぱいだったから感じなかったけど結の温もりと綺麗な髪の触り心地が良くて、結の良い匂いがして、更に胸がドキドキしてしまう。

華奢な結が痛くないように本当に優しく抱き締めるけど身近に結を感じられて、触れられて、私は本当に嬉しかった。


「……泉、心臓がうるさい……」


結の指摘には恥ずかしくなってしまうけど結を離したくない。私はそのまま結の髪を撫でながら答えた。


「…好きだからしょうがないじゃん」


「……だったら許すけど、私が答えが出るまでこうやって誰かにドキドキしてたら……投げるからね」


いきなりいつものようは事を言ってきた結に私は慌てて否定した。私は結以外ありえない。


「そんなのする訳ないじゃん。さっきも言ったけど私の初恋は結だからね」


「……琴美に告白されたんでしょ?友達とは言ってたけど疑わしいから」


琴美の事を知っていた結にドキッとするけど答えを早く出すと言ったのはそれもあるのか。内心納得したけど気まずい。琴美は昨日説明すると言っていたからほとんど言ったんだろう。私は琴美とキスまでしてしまっているが今の結の様子だとキスをした何て言ったら本当に投げられる。でもあれは私にする気はなかったしノーカウントにしたい。


「……琴美はマジで友達だから」


今はキスの事は言わなくても良いだろうから深く掘り下げないでおく。結が今キスの事を言わないんだから琴美はたぶん言っていないはず。結は顔を上げて眉間にシワを寄せながら私を見た。


「まぁ、信じてあげない事はないけど」


「う、うん。絶対大丈夫だよ」


ちょっと苦笑いしてしまったら結にため息をつかれた。こりゃもっと言われそうだなと思っていたら結は微笑んだ。


「でも、私達の問題を解決してくれてありがとう。琴美が謝るなんて思ってもなかったけど泉のおかげで昔みたいに戻れそう」


「そっか。何かしたつもりはないけど、二人の仲が良くなって安心したよ」


二人の溝は深くて長い問題になっていたけど今は違う。琴美は酷い事をしたが今はちゃんと謝って反省している。二人の仲はずっと悪かったけど話し合って関係が修復したみたいで私は本当に嬉しく思った。

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