第36話
次は何をする気なの?私は不審に思いながら問いかけた。
「どういう意味?」
「だから次はそうだなぁ……結の骨を折ったり、顔に一生の傷をつけたりしちゃおうかな?って意味」
何こいつ。可愛らしく笑うこいつが意味分からないけど結にあんな事をするくらいだから冗談でもないだろう。
「あり得ないんだけど。何で私が遊ばなきゃならない訳?」
「んー?だって気になるから。琴美は泉の事気に入ってるの。泉は面白いから一緒に遊ぼうよ?」
「……何するの」
全く乗り気じゃないけど結に何かあったら困る。私は一応確認のために聞いてみたら琴美ちゃんは嬉しそうな顔をして私の腕を引いた。
「着いてからのお楽しみだけど今日はゆっくり話すのも悪くないかな。早く行こ?来ないと結の事また殴っちゃうよ?」
「……」
これは脅しか。笑って楽しそうだけど裏があるとしか思えない。それにここで付いて行かなかったら絶対に結に何かする気だろう。行きたくもないけど私は結のために歩きだした。
「ふふふ、友達ごっこまだやってるんだね?ウケる。それより琴美、泉と色々話したかったんだ。楽しみ」
「……」
何も言ってやる気はないからそのまま無言で付いて行くと琴美ちゃんの家の車に乗せられた。この子がお嬢様なのは言わなくても分かっていたけど私は何をされるんだろう。不安はあるけどまた結がやられるくらいなら私が代わりにやられる覚悟はある。結を泣かせてしまったけど私は結が好きだから構わない。
「携帯出して?」
車が走り出してから琴美ちゃんは私の腕にくっつきながら言った。誰にも連絡させないつもりなのか?ここで出さないとまた脅されそうだし私は無言で携帯を差し出すと琴美ちゃんは笑いながら受け取って私の携帯を勝手に弄りだした。
「ふふ、話が分かるね泉は」
「……」
「ねぇ?無視しないで?琴美もっと泉と仲良くしたいんだけど」
どの口が言ってんだと思うけど琴美ちゃんは私の携帯を弄るのをやめてにこにこ笑っている。本当に何をしたいのか意味が分からない。それに私の事を調べたのか以前も呼んでいたけど気安く名前を呼ばれて腹が立つ。私はそれでも黙っていたら琴美ちゃんは横から私の肩に頭を乗せて手を絡めるように握ってきた。
「ねぇ?聞いてるの?無視すんなって言ったんだけど。立場分かってないの?」
いきなり強目な口調で言ってきた琴美ちゃんに脅迫なのが分かって私は不本意ながら返事をした。変に刺激すると何するか分からない。
「聞いてるから」
「ふふ、なら言いけど」
琴美ちゃんはそのまま私の手を強く握りながら鼻唄を歌って機嫌良さそうにしだした。
なぜこんなに密着してくるのか分からないしこの子は私に何をしたいんだ?仲良くしたいって益々意味が分からない。
車が目的地に着くと琴美ちゃんはよく分からない場所のビルの二階に私を案内した。
扉を開けて中に入ると中はダーツやビリヤード、それに大きなテレビやソファがあって琴美ちゃんが言った通り本当に遊ぶためのような場所だった。
「泉はソファに座ってて?」
「…うん」
私は手を離した琴美ちゃんに促されてソファに座った。ふかふかの高級そうなソファは座り心地が良いけど窓一つないこの部屋から私は逃げれないだろう。そんな事を冷静に考えていたら琴美ちゃんは近くにあった冷蔵庫からペットボトルの水を持ってきてソファの前にあるテーブルに置くと私の膝の上にまたがってきた。
「泉?水飲ませてあげる」
いきなりの行動に動揺していたら琴美ちゃんは笑いながらさっきのペットボトルのキャップを開けて私の口許に持ってきた。訳分からないけど飲めって事だろう。私は無言でペットボトルに口を付けると水を飲んだ。
「ふふ、良い子」
少し飲んだら満足したのか琴美ちゃんはペットボトルを離して私の頭を撫でるとテーブルに置く。そして私の首に腕を回すと笑いながら顔を近付けてきた。至近距離にきた彼女にどうしたら良いのか分からない。すると琴美ちゃんは笑いながら口を開いた。
「泉は結が好きなの?」
急なそれに心臓がドキッとする。でも、反応は見せない。反応するだけこいつを楽しませるのは分かるから私は冷静に答えた。
「何で?」
「だって結の回りにいるし体育祭の時は助けに来たし?泉みたいなのを結が相手にするとは思えないからレズなんじゃないの?」
「は?友達だから」
ハッタリなのか本気なのか分からないけど合っているそれは私を内心緊張させて動揺させる。私は結にキスしたとかじゃないからこの気持ちは私だけしか知らないはず。でも琴美ちゃんは可愛らしく笑うだけだ。
「嘘つき。泉は嘘が下手だね?結を見る目が友達のそれじゃないよ?下心があるいやらしい目付きしてる。結は気づいてないだろうけどね」
「……意味分かんない事言わないでくれる?」
この気持ちは誰にもバレたくない。ましてやこんな女にバレたら大変な事だ。私は至って冷静に答えるけど琴美ちゃんは目線を逸らさない。
「意味分かるでしょ?鋭い目付きなのに結を見る目は恋してるそれと一緒。叶わない恋しちゃうなんて可愛い」
「違うから」
「ふふ、頑固だなぁ」
傍目から見て私の恋心はバレバレだったのか。隠していたし言う気はなかったけど誰かにバレてしまっているのかと思うと怖い。こいつは確信を持って言っているようだし何でこんな事を言ってくるんだ。
琴美ちゃんは私の上から退くとブレザーのポケットからタバコを取り出して灰皿をテーブルに置いてタバコに火をつける。
タバコ何か吸ってたのか、驚く私を他所に普通にタバコを吸いながら私をにこにこ笑いながら見る琴美ちゃんは隣に密着するように座るとタバコの煙を吐きながら言った。
「泉、琴美に嘘ついて良いの?結の事もあるけど、素直に言わないと顔に押し付けちゃおうかなタバコ」
「……」
煙がやけに甘いバニラのような香りがして不快に感じる。また脅される私は言うのを迷った。言いたくない。言いたくないけど言わないとダメだ。もうこいつには私の恋心がバレているのだろうか。琴美ちゃんはタバコを吸いながら私の腕にくっついて手を絡めるように握ってきた。
「泉?早く教えて?」
「……何でそんな事聞く訳?」
「え?そんなの琴美が興味あるからだよ。言わないんだったら……明日結の事呼び出してまた皆で遊んじゃおうかな?泉はここでお留守番にして結と遊んでるとこ動画撮って送ってあげるから」
「だから友達だって言ってんじゃん」
分からない。分からないけどまだしらを切れると思った私はバカだった。琴美ちゃんはタバコを灰皿に置くと腕に抱き付いて笑いながら言った。
「泉分かってないの?今琴美が言ったのは本当だよ?それに琴美の言う事聞かないと泉にお仕置きしちゃうよ?琴美に抵抗しても無駄。琴美は何でもできるから何かしようとするだけ泉に不利なの分かるでしょ?」
本当に腹立たしいしムカつくけど楽しそうに言うこいつの言う事を聞かないとならないのは確かだ。ここで暴れても無駄、嘘を付いても無駄。それどころかこちらの分が悪くなるだけだ。私は言いたくなかったけど結のためにも言った。ずっと隠そうとしていた気持ちを。
「……結が好きだよ。恋愛的に」
琴美ちゃんは私の気持ちに満足げに笑った。
「ふふ、やっぱり。泉はレズなんだ?可愛い」
「……もう満足したでしょ」
「んー?まだまだだよ。もっと泉の事知りたいもん」
屈辱的な思いにどうにかなりそうなくらい腹立たしいのに琴美ちゃんは私の顔を両手で掴むとそのまま顔を近付けてキスをしてきた。
甘い香りを感じながら柔らかい唇が離れても私はいきなりの事に唖然として動けなかった。本当に何なんだ?この子は何がしたいんだ?理解できないでいると琴美ちゃんは可愛いらしく笑った。
「ふふ、奪っちゃった。泉は今日から琴美の物だね?」
「……本当に何なの?何がしたいの?」
意味不明な発言も理解に苦しむ。それにこいつにキスをされる何て予想外だ。琴美ちゃんはまたタバコを吸いながら話しだした。
「泉と仲良くしたいのって言ったでしょ?それより、明日から琴美の連絡にはすぐに返信しないとダメだよ?あと、お昼も一緒に食べたいな」
「……分かった」
「ふふ、それと分かってると思うけど結には言っちゃダメだよ?琴美達の事は秘密」
タバコを吸い終わった琴美ちゃんはタバコの火を消すと立ち上がってにっこり笑ってから私の上にまたがる。全部従わないと結に何かされるのは分かっている。でも、私はなにもしない確信がほしかったから至近距離で私を見つめる琴美ちゃんに聞いた。
「ちゃんとそれに従ったら結には何もしないんだよね?」
「うん、もちろん。琴美の言う事に従うなら結には何もしないよ?約束してあげる」
にこにこ笑うけど疑わしい事に変わりはない。私は強気で出た。
「ちゃんと守るの?」
「んー?守るよ?琴美は約束守るから大丈夫だよ。泉が守ればの話だけどね」
結局私は何もできない。それが悔しいけど私は頷いた。
「……分かった」
「ふふ。じゃあ、契約成立だね。泉よろしくね?」
こうして私はこいつの言いなりになってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます