第35話


「楽しい楽しくないとかじゃなくて、何でそうしたか聞いてるの」


イライラしたような口調で言われても私は答えたくない。私は結が好きで色々思ってしまって結と一緒にいたくなかっただけなのだ。怒っている結に私はそれでも笑ってみた。


「だから何でも良いじゃん。別に皆の事嫌いになったとかじゃないし、たまに皆と食べてるんだからさ」


私の言葉は結をイラつかせるだけで結の口調は更にきつくなる。


「……なに?そんなに私には言いたくない事なの?私が嫌だから?嫌いになったからって事?」


「……そうじゃないけど大した理由なんかないし、聞いてどうするのそんな事」


私の事なんかそんなに興味ないだろうしそもそも凄く仲良い訳じゃないから言ったのに、結はついに怒ったような顔をして怒鳴った。


「友達なんだから気にするのは当たり前でしょ!?なにその言い方!言わないと気持ち何か分かるはずないんだから知りたいって思うから聞いてるの!」


結は怒っているけど私は何で結がこんなに怒るのか分からなかった。関係の浅い友達に何をそんなに気にかける事があるのか理解できない。私には何も教えてくれなかったくせに自分の時は怒るってどういう意味だ。ムカついた私は今まで思っていた事を言った。


「聞いた所で何か変わる訳?…大体さ、結だって何も言わないじゃん。私には何も教えてくれないじゃん。琴美ちゃんの事だってほとんど聡美が教えてくれたし、琴美ちゃんが一番大事な友達なんじゃないの?私なんかただの口止め程度のどうでもいい友達でしょ?だったら琴美ちゃんと話して分かり合えば良いじゃん私の事何か放っといてさ!」


言ってるそばから私はむしゃくしゃして止められなかった。どうせ私はただ勘違いしてた痛い女だしこれ以上勘違いしたくない。それに、あんな事されても友達だと思いたいならあの子と分かりあった方がよっぽど良いだろう。


「言わなかったのは悪かったけど私は泉を放っておけないから。確かに琴美は幼馴染みだから割り切れない部分もあるけど私は泉の事…」


「もうウザいんだけど」


結の話はもう何だか聞いていられなかった。どう足掻いたって私が格下なのは変わらない。これ以上結と琴美ちゃんの仲をひけらかすような事は結が好きだから聞きたくなかった。聞いたら醜く嫉妬するだけだ。今だって嫉妬しているのに、これ以上私を乱さないでほしい。


「私達そんなに仲良くないしもうどうでもいいじゃん。そもそも結は私よりも仲良い友達いるんだから私と遊ぶより違う友達と遊んだ方が良いでしょ。私はバカだし何かよくできる訳でもないし、話してたって疲れるんじゃない?もう帰るわ」


私は悲しそうに表情を歪める結を見てられなかったから椅子から立ち上がるとテーブルの方にあった鞄を持って部屋から出ようとした。何であんな顔をするのか私には理解できなかった。だって私の言った事は間違っていない。なのに何で私は罪悪感を感じているんだろう。


「泉!待って!」


結は私の手を掴んで引き止めてきたけどもう顔も見たくない。私は振り返らなかった。


「なに?離して」


「……なんで……なんで、そんな事言うの?」


必死そうに言われてもそんなの言う訳がない。結が好きだから、好きだから色々考えて勝手に悲しんだり嫉妬したりしてる何て言いたくなかった。これは全部私のエゴだけど結にバレたくない。私は少し考えてから結を突き放すように言った。


「……なんでって、本当の事じゃん。琴美ちゃんにあんな事されても友達だって思えるくらい好きなら私よりも仲良くしてなよ。私は別にどうでもいいからさ。それに私には自分の事なんて話したくないだろうし、もう本当に帰るから」


話せない内容に私は歩き出そうとしたら結は強く私の手を引いて阻止した。それに思わず振り返ってしまったら、結は本当に悲しそうな辛そうな顔をしていて胸が締め付けられた。


「ちゃんと話さなかったのは本当にごめん。琴美の事は自分でどうにかしようとしてたし、話しても困るかなって思ってたから話さなかった。それに、私は泉とは仲良くなった気でいたし…」


「…そういう気遣いもさ、もういいから」


私にはやっぱり話す気なんて最初からなかったのか。そう思うと内心ムカムカしてイライラが止まらなかった。私の言葉に結はショックを受けたようだったけど私は止まれなかった。


「仲良くしたくないなら無理してしなくていいから。私は元から友達もいなかったから今さらいなくなった所で変わらないし何とも思わない。しかも、私と仲良くしたってメリットないじゃん。私の家は普通だし私はバカで何にもないし…」


「私はそんな事思ってない!!」


結は私の言葉を遮って涙をこぼした。私は間違ってないのに、どうせ琴美ちゃんの方が好きなのに、何で泣くの?苦しくなって一瞬動揺してしまったけど、遂に泣き出してしまった結に私はそれでも怒りに任せて言ってしまった。


「思ってなくたってそうやって相手に伝わってるんだよ!言わないんじゃ何も分かんないしそうやって思われるんだから多少は思ってたって事でしょ?!もう離してよ!!」


もう結が泣くのを見たくない。私は結の手を振り払った。結が泣いているのに胸が締め付けられるけど私だって色々思っている。それにこうやって距離を取ってしまえば私の恋心も消えてくれる。

私は傷ついたように泣いている結を置いて部屋から出て行った。




帰ってる間も、帰ってからも、私は結の傷ついて泣いている顔が頭から離れなくて苦しかった。




そして休み明けの学校は憂鬱だった。本当に行きたくないし結に会いたくない。私は結を泣かした日の事を今になって冷静に考えて反省していた。

結に八つ当たりみたいに琴美ちゃんに嫉妬して怒って傷つけた。あれは言い過ぎだし、結が私を大切な友達と思ってくれているのは思い返せば分かる事なのに私は怒りや悲しみや色々な感情に任せて結を泣かせた。あの強気な結が泣くなんて絶対に結は傷ついて辛かったと思う。


あんな傷つけて泣かせるくらいならいっそ告白してしまえば良かったかもしれない。告白の方が結は泣かなかったし結が知りたいと思ってくれた私の事を教えられた。


私はため息をつきながら下駄箱で靴を履き替えると教室に向かった。

教室に着いて自分の席に座って教室を眺めるともう結は来ていて千秋達と楽しそうに話していた。


泣かしてしまったけど結が笑っていたから少しだけ安心した。

それから授業が始まっていつも通りの日常が始まる。授業終わりの間の休み時間に千秋と話したり勉強を真面目に頑張ってはいたけど頭の中は結の事でいっぱいだった。


謝らないといけないけど、どうすれば良いんだろう。あんなに言い過ぎてしまって、許してくれるだろうか。私に愛想が尽きてしまっても仕方がない事だし友達じゃなくなっても頷ける。

結は私を嫌いになったかもしれない。

それでもあの顔を思い出すと罪悪感と後悔が押し寄せて結に謝らないと気が済まない。



昼休みになって私は千秋にお昼を誘われる前にいつものベンチに向かった。

今すぐにでも謝りたいけどどんな顔をして謝ればいいのか分からない。私はベンチに着いてから一人で弁当を食べた。


結と友達になってから楽しかったけど私の結への気持ちのせいで上手くいかない。私はあんな事を言ったのに結への気持ちがなくならなくて更に辛くなった。


その日は結と会話する事もなかったけどそれは次の日も、その次の日も変わらなかった。

私はあれからずっと結と顔を合わせてもいないし話してもいない。

そんな日々が続いていたら千秋はやっぱり私に聞いてきた。



「泉ちゃん、最近ずっとお昼も一緒じゃないし結ちゃんとかと話してもないし、何か……あった?」


千秋は言いずらそうに授業の合間の休み時間に話しかけてきた。まぁ、あったにはあったんだけど結を泣かした何て言う訳にもいかないし私は苦笑いしながら適当に答えた。


「え?あぁー、最近自分だけでできる所は勉強頑張ってみようかなって思ってお昼は勉強してるんだよ。それに、結とかとは何もないよ?携帯では話してるし」


軽く嘘をついてしまったけど千秋は心配するだろうからこれが無難だろう。千秋はそれでも少し不安そうだった。


「そうなんだ。でも、最近結ちゃん元気ない感じがして…泉ちゃんは何か聞いてない?」


「聞いてないよ」


「……そっか。結ちゃんどうしたのかな」


「さぁ、でも結の事だから大丈夫だよ」


全部私のせいだから早く謝らないとならない。千秋の話を聞いてそう思うけど私はまだ行動に移せなかった。意気地無しの自分に本当に嫌になる。私はあんな事を言っといて結に嫌われるのが怖かった。


「そうだね、結ちゃんなら大丈夫だよね」


千秋はやっと安心したように笑った。千秋も心配しているから早くしないといけない。私はその後も千秋と少し話してからまた昼休みはベンチに逃げて過ごした。

そしてその日も結と話もできずに下校時間になった。今日もダメだったなと思いながら校門を出た時に私に話しかけてきたのは私の嫌いな女だった。


「ねぇ、琴美と一緒に遊ばない?」


私の前に現れた琴美ちゃんは以前私をからかいに来た時と同じように笑っていた。今はそれどころじゃないし結に関わるなと言われているし少しうんざりする。こんなやつの相手をする気はない。


「忙しいから無理」


それだけ言って琴美ちゃんを避けて歩きだしたら琴美ちゃんは私の腕に抱きついてきた。いきなりの行動に意味が分からなくて琴美ちゃんを見るけど琴美ちゃんはただ可愛らしく笑っていた。


「付き合って泉。付き合わないと次は結に何するか分からないよ?」


楽しそうに言った琴美ちゃんに私は思わず動揺してしまった。



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