第21話


「……明日から体育祭の練習始まるね」


私はさっき決まったクラス行事の事を結に何か言われそうだからいつものベンチに逃げたのに結が後からやって来て一緒にご飯を食べるはめになってしまっている。

気まずっ。何で来たのだろうか?やっぱり嫌み?脅し?私は話しかけたのに沈んでいた。


「あんた……早く走れんの?」


結は綺麗な所作で弁当を食べながら言った。それは私にはどうあがいても無理な事だった。


「いや、無理。大変申し訳ありませんが私は運動ができないから無理だよ」


「……じゃあ何で二人三脚にしたんだよ」


「それしかできそうなのなくて……。マジごめんね結。転けないように頑張るから許して?」


「……」


何か普通に無視されたけどどうしよう。頑張っても転ばないように進むのが精一杯だよ。結はしばらく黙ってから口を開いた。


「じゃあ、とにかく練習するから。私は負けたくないからしっかりやって」


「あ、うん、分かった頑張る」


勝ち負けとか私からするとどうでも良いけど結は違うらしい。よし、とにかく結果は出ないかもしれないけど二人三脚を死ぬ気で頑張ろう。何か生命の危険がありそうだし結を転ばせた、なんて結の家にバレたら被害届とか出されそうだよ。心で決意していたら弁当を食べ終わった結は高そうなタンブラーに入った飲み物を飲んでからいつもみたいに私を見た。


「で?中間テストはどうだったの?」


何言われるかなと思ってたけど中間テストか、まだテストの返却はされてないけど私は頷いて答えた。


「絶対大丈夫だと思う!分かんないとこなかったよ!結本当にありがとうね」


「ふーん、結果が出そうで何よりだわ」


「絶対出るから期待しててよ結!私あんなできたの初めてだから」


「はいはい」


私は自信を持って伝えたけど結は大して期待していないように返事をした。

今に見てろと思うけど私はそれよりも忘れないように結に言いたい事があった。結に限って忘れたり約束を破る事はしないと思うけど。


「七割全部取れたら約束守ってよ?楽しい事教えてくれるんだよね?」


私はあのテストのできに絶対に自信があるからもう教えてもらう気満々だ。結が言った事を私は本当に楽しみにしている。


「私が約束を破るような事するはずないだろーが」


結は当たり前に言ってくれたので私は嬉しくなった。全く予想がつかないけど私は楽しみでしょうがない。


「さすが結!今の聞いたからね?あぁ、超楽しみだよ!ピアノと同じくらい楽しそう!結、今度は何してくれるの?」


「七割取れたら教えてあげるけど、まだ結果が出てないのに何を自意識過剰になってんだっつーの」


「えー?だって絶対できたよあの感じは。結のおかげで全部答え書けたし」


結はそれでも頷かなかった。堅物と言うか結って本当に真面目で自分の目で見たものしか信じないタイプなのか。


「…はぁ、まぁ、あれだけやってできなかったら私も悪かったと思うし、自信を持ってできてもらわないと困るわ」


「うんうん、大丈夫だから安心してよ」


嫌そうな顔をして言った結に胸を張って答えたら結は少し無言で私を見つめてからまたため息をついた。


「……泉がそう言うとなぜか信じそうになるのは泉のバカが移ったからかもしれないわ」


「え?」


あんな否定的だったのに今一よく分からない。でも、結はいつもみたいに顔を歪ませている。


「バカだけど泉は信頼できると言うか、嘘を言わなさそうだからかもしれないけど結果を見てないのにその気になるって話」


「ふーん。結に信頼をおいて頂けるなんて光栄です」


私は笑いながら肘で結をつついた。態度は悪いけど私を友達として信頼してくれる結に嬉しく感じる。結はウザそうに私を見ると呆れたような顔をした。


「友達なんだから当たり前でしょ」


「そうだね。ねぇ結?私が七割取ったらさ、お礼に何か奢ってあげるね?」


私は七割を確信してるからお礼をしようと思っていたのを思い出した。結には安くて大した事のない物だと思うけど私の好きなお勧めの物を何か奢ってあげるつもりだ。


「はぁ?別に何も求めないって私言ったよね?」


だけど結はまた顔をしかめてきた。確かに言ってたけどこれは気持ちでお礼なんだから普通に受けとれば良いのに、私はそれに首を振った。


「だめだよ。私七割もあんまり取った事ないしテストの点数いつも悪かったからお礼は絶対するよ」


「……勉強会の時に私にお菓子くれたじゃん」


「あれは別だよ。結が絶対喜ぶやつ奢ってあげるから期待しててよ」


結にはお世話になりっぱなしだし、これからもお世話になるだろうから私は何か返したかった。結は気に入らないのか私を少し睨むと顔を逸らした。


「勝手にすれば?まだ取れるなんて分かんないけど」


「ふふふ、勝手にします~。あ!結もうそろそろ時間だから教室帰ろう?」


私は弁当箱をしまってから立ち上がって耳を赤くした結を促した。何かキレたらどうしようって思ってたけど嬉しいみたいで良かった。

私は結を急かしながら教室に帰った。



それからまた嫌な勉強の日々が始まったけど結も千秋も聞いたらすぐに答えてくれるから私は分からない事がなく授業が進められたけど体育祭の練習が食い込んできて競技の練習は運動ができない私には苦痛だった。



最初は配置はどこで流れはどうでって話を適当にして移動していれば楽だったし綱引きもムカデも大人数だから合わせてれば終わったんだけど二人三脚が本当に絶望的だった。



「もう一回ちゃんと合わせてやろう泉」


他にも人がいる中で私と結はお互いの足を一緒に縛って体に手を回して頑張っているんだけれど身長差があるのと息が合わなさ過ぎて全然走れない。しかも、私は恐れ多いと思いながら結の肩に自動的に手を回して結は私の腰辺りに手を回してきていて、何かこの状況も落ち着かない。


「うん、何か色々ごめんね結」


私はとにかく笑顔でキレてるだろう結に謝った。私と組んだのが運の尽きよと思うが結を何度か転ばせそうになったりして本当に申し訳ない。


「絶対最初は縛ってる足からね?ほらまたやるよ」


「う、うん。分かった」


とにかく結の言う事を聞いて、結に合わせて気を付けながら走れば良い。私は結の合図を待った。


「じゃあ、行くよ?せーのっ!」


私はその声に合わせて足を踏み出した。最初はさっきよりも順調に走れた。だけど少しの距離なのに二人で走るから不安定で途中から私も必死で合わなくなってしまう。


「わっ!!」


「あっ!結!!」


するとやっぱり私より小さい結が転けそうになって体制を崩した。私は結の腰に手を回して慌てて転けないように自分の方に引き寄せる。私は転んで良いけど結は転んだら大変だからどうにか体制を整えた。


「ごめんね結、大丈夫?」


「う、うん。大丈夫」


私は結が転ばなくて心底安心した。こんなお嬢様を転ばしたら大変な事だし結もキレそうだから絶対転ばせられない。それに結は習い事がある。私は安堵のため息が思わず溢れた。


「はぁ、良かった。……結あのさ、先生にペア変えてもらう?私達身長差があってやりづらいよね?しかも私は早く走れないし」


私は練習を始めてから思った事を言った。流れで適当に決まった事だけど二人三脚はクラス対抗リレーだからバトンを回していかないとならない。なのに私達は最初から全然できないし身長とか解決できない壁がある。

それに、結は成績も良いから言ったら必ず先生も変えてくれそうだ。私の提案は良いと思ったのに結はなぜか断ってきた。


「いいよこのままで。もう決まった事だしこのままやろう」


「え?でも、走りづらくない?私より背の低い人いるからその人と組んで私も同じくらいの人と組んだ方が良いと思うんだけど…」


結はたぶんさっきから怒ってるから言ったのに作った笑顔で否定された。


「いいから大丈夫。練習すれば大丈夫だよ。早く練習しよう?」


「う、うん。分かった」


結は勝ちたいんじゃないのか?私はよく分からないけど結にこう言われてしまっては頷くしかなかった。

その後、散々練習をした私達はやっと最後まで上手く走れるようになったけど私は結が転ばないか冷や冷やして体も心もへとへとになった。


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