第22話


それからちょいちょい体育祭の練習を挟みながら授業を受けて、私はまたバイトに来ていた。

今日は誰とシフト一緒かなと思ってバイト先に向かって裏に入ると高木涼介がいた。


「おはよー高木」


「おっ!おはよー泉!おまえ遂に友達できたんだってな!遠藤さんから聞いたよ」


涼介はにやにやしながら言ってきたけど涼介と一緒なのはダルいなぁと思った。


「あのさぁ、今バイトだから名前で呼ばないでくれる?」


「あぁ、ごめん忘れてたわ!それよりめっちゃ可愛いんだろ?友達!俺に紹介してくれよ」


涼介は近所の幼馴染みで親が仲良しで昔からの腐れ縁だ。高校でお互いに離れたのに私がここでバイトを始めてから涼介も偶然ここでバイトを始めだした。お母さんはそれに運命じゃない?とか言ってたけど気味悪くて私は引いていた。昔はよく遊んで勉強を教えてたけど涼介は引く程頭が悪いしたまに会話も噛み合わない。でも涼介はバスケをやっていて体育会系だから中身は普通ではあるんだけど見かけは茶髪でチャラくて私にはバカにしか見えない。


「涼介みたいなバカじゃ相手にされないと思うよ」


私はどの頭が言ってんだと引きながら言ったけど涼介は引かれているのに気づかず笑っていた。


「え?マジ?じゃあ、柳瀬勉強教えてよ」


「え、やだよ。頭悪過ぎてこっちが疲れるし。おまえ塾行けよ本当に」


昔、私は涼介の頭の悪さにいつもキレていたから途中からノートを貸してあげるだけにしていた。でも、涼介のお母さんは私に会うと涼介に勉強教えてくれる?と申し訳なさそうに頼んでくるから言われたら根気よく教えていたけどあれを思い出すとやりたくもないし、こういうバカこそ塾を勧めるのに涼介は塾も行かずにすんごくバカな高校にギリギリで入学していた。


「塾なんか行ってたらバイトできねーじゃん」


「頭悪いんだからバイトより勉強しろよ。学生なのに何で勉強しないで金稼いでんだよ」


私は赤点をまぬがれているのに涼介は赤点のオンパレードだ。私の正論に涼介は全く動じずに笑って答えた。


「だって金ないし。良いじゃん泉、教えてよ」


「無理無理。私が教えると高額な金発生するから無理。じゃ、私着替えてくるから」


私は適当に嘘をついて更衣室に向かうと制服に着替えてホールに出た。今日はまぁまぁ混んでるみたいで客席が大体埋まっている。面倒臭いなぁ、私はトレンチと言うおぼんを持って空いている皿を下げに回った。


皿をある程度下げてオーダーを取りながら料理を提供していると会計を知らせるベルが鳴った。涼介は違う仕事をしていたから私が会計に向かったら家族連れのおばさんがいた。私はレジに入って伝票を見てレジを操作する。


「お待たせしました。お会計が五千八百七十円でございます」


「……」


ああ、またこいつもか。私は金を投げるように出してきたおばさんに笑いながらうんざりしていた。感じ悪いしいい年した大人が金出すってだけで何でこんな相手が嫌になるような事をしてくるのか理解できない。

しばらく待っているとおばさんは丁度ぴったり払ってきたからレジに入力してレシートを出して渡そうとしたけどそのまま無言でさっさと店から出て行ってしまった。


「ありがとうございましたー」


レシートいらないならいらないって言ってほしいし何も言わないやつ多すぎて私は内心嫌な気分だった。ていうか、何をそんなに急ぐ事があるの?別に求めてる訳じゃないけど口があるんだからレシートの有無位言えるだろうに。そしてお礼かご馳走さまも言わずに行くなんて、何かどうなのかなっていつも思ってしまう。


言う決まりとかはないけど、いい人そうな人とか感じの良い人は必ず言うしうちは親が言うから普通だと思ってたのにバイトをしてみたら言わないやつばっかで驚いた。こんな事も言わないくせに子供なんか作ってんだ、って本当に引く。


まぁでも、何回もやられたから慣れたと言えば慣れるけど多少はウザいと思う。



その後、私は嫌な気持ちをかき消すようにバイトを頑張った。

バイトが終わってお店のメニューから適当に選んでご飯を休憩室で食べていたら一緒に上がった涼介もご飯を食べにやって来た。


「泉お疲れ!なぁなぁ、友達の事教えてよ!」


隣に座ってきた涼介はご飯を大盛りにした定食にしたみたいで十時なのにこんなに食うのかと少し引いた。


「涼介どんだけ食べんの?」


「え?今日腹減ってたから、普通じゃね?それより店連れて来いよ友達!俺、連絡先交換したい!」


テンション高めな涼介はご飯を食べだしたけど呆れてしまう。こんなバカじゃ結は絶対無理だ、他二人も。


「涼介じゃ絶対無理だよ。返り討ちに合うからやめとき」


「マジかぁ、俺バスケしかできないからな」


「いや、そういう問題じゃないから。それよりテストとか大丈夫なの?留年したらマジで笑えないよ?」


涼介は小学校の時も中学校の時も死ぬ程バカだったから先生によく怒られていた。高校も受かったのが奇跡だったし色々大丈夫なのか心配だ。


「ぎり大丈夫だったよ。すっげー頭良い友達できてさ、そいつが教えてくれるから赤点取ってるけど大丈夫だった」


「赤点取ったのかよ」


涼介は普通な顔して言ったけど呆れて見てられない。その教えてくれる人のおかげで大丈夫なのは分かったけどこいつの将来は何になるのか想像できない。


「まぁ、赤点前より減ったから良いじゃん」


「……よくないけどな。まぁ、頑張って留年しないようにね」


「任せろ!それより、今年の夏はプール行かね?皆で」


夏休みまでまだまだなのに涼介は気が早い。うちのバイト先は皆仲良しだから去年は皆でキャンプに行って楽しかったから涼介は楽しみなんだろう。


「良いね。私泳げないけどプール楽しそう」


私は同意した。私も内心楽しみではある。


「だろだろ?遠藤さんの水着も見れるし一石二丁じゃね?」


「……おまえ、遠藤さん彼氏いるからな」


涼介のスケベ心には呆れるけど残念ながら遠藤さんは彼氏がいる。遠藤さんの彼氏は見た事ないけど絶対イケメンだろう、涼介はそれでも笑っていた。


「遠藤さんは高嶺の花だから良いんだよ」


「負け惜しみかよキモ。じゃ、私もう帰るわ」


「え?あぁ、じゃーな」


私はご飯を食べ終わったのでどうでも良い涼介を置いて休憩室を出て家に帰った。



そして翌日、遂に中間テストが返却される日が来た。私は待ちに待っていてもう朝からワクワクしていた。朝のHR前に千秋と少し話してからHRが始まっていざテストが返却されて解説が始まった。


私は解説を聞きながら内心浮かれていた。テストは宣言通り全て七割取れた。しかもこないだ分からないって言ってた数学に関しては八十点だし私は嬉しくて踊り出しそうだった。

さすが学年一位に教えてもらっただけある。学年順位もクラス順位も上がったし結に土下座でもしてお礼の意を伝えるか。


私が浮かれていたらテスト返却と解説が終わって昼休みになった。私は結にいつもの場所で結果発表ね!と連絡を入れていつものベンチに向かった。


結絶対驚くだろうな結、喜んでくれるかな?私はベンチで先に弁当を食べながら浮かれていたら結は遅れて優雅に歩いてやって来るとベンチに座った。


「で?どうだった?」


結は自分の弁当を開けながらダルそうに聞いてきたので私は点数と順位が書かれた細長いプリントを結に得意気に笑って渡した。


「やっぱり全部七割取れた!ありがとう結!」


「……」


結は黙って私の点数と順位を真顔で見ると私にプリントを返してきた。


「おめでとう泉。よく頑張ったんじゃない?」


そう言った結は素の表情でにっこり笑ってくれた。私はそれに胸がドキッとしてしまった。この笑顔に私はやっぱり惹かれてしまっている。泊まった日から感じていなかった胸の高鳴りに言い訳できない自分がいた。結の笑顔を見れて嬉しくて、もっと見ていたくて、そして何よりその笑顔を独り占めしたくなってしまっている。


私はどうしてしまったんだろう。ただ笑った顔を見てこんなに胸が高鳴って、好きだなんて思うなんて。普段は悪態をつかれているのに結の生真面目な部分に触れるのも嬉しくて結の全てが良いと思う私は大概結に惚れているのだろうか。


「……ありがとう結。結のおかげだよ」


私は一瞬見惚れてしまったけど落ち着いて返事をした。この気持ちは結にバレる訳にはいかない。結は大企業のお嬢様だし女が女を好きだなんて引かれてしまうかもしれない。折角仲良くなったのにこの関係を壊したくなかった。


「私は別に何もしてないから。泉が頑張ったから結果が出ただけでしょ」


結は弁当を食べながら私から目線を逸らしたけど耳が赤い。また照れているのか、照れ屋の結に私は笑った。


「私のために勉強教えてくれたじゃん。結が教えてくれなかったら私一人じゃ無理だったから本当にありがとうね」


「……私の友達なのに勉強できないなんてあり得ないって思ったから教えただけだから」


「そんな事言って、私が困ってたから助けてくれたんじゃないの?」


結は困ってる人に潔く手を差し伸べる人間だ。あの時は確かにそう言ってたけど結の人柄に触れて私は確信を持っている。

結は私の言葉に顔を赤くした。

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