第14話


私が目を離せないでいると結はピアノの演奏を終えて楽しそうに私を見た。


「どう?私この曲大好きなの。最近は自分なりにアレンジして弾くのにハマってて、ジャズ風にアレンジして弾いたから普通とは少し違うんだけど」


「……う、うん!めっちゃ良いよ!これは私も知ってる!アレンジしてたなんて分かんなかったけど…だから指を一気に滑らすみたいに弾いてたの?」


私は結の言葉に慌てて答えた。さっきの胸のドキドキは薄れたけど結の笑顔に動揺してしまう。結は椅子に座ると本当に楽しそうに話しだした。


「そうそう、それグリッサンドって言うの。この曲を盛り上げるにはぴったりだしアドリブだけどこうやってアレンジして自由に弾くのは普通に弾くより楽しいから思わず立って弾いちゃった」


「……え?アドリブだったのあれ?」


全然変じゃなかったしそういう曲かと思った私には信じられなかった。アドリブであんなにワクワクするほど人を楽しませるなんて、結はやっぱりすごい。


「アドリブに決まってんじゃん。クラシック以外は自由に弾きたいし」


当たり前みたいに笑って言う結には本当に才能を感じる。私が頑張ってもできないような事を簡単にやって見せる結に私は本当に感心した。


「結本当にやばいね。作曲家になりなよ?すっごく楽しかったよ。また聴きたい」


「作曲なんか無理に決まってんでしょ。…そうだ、次はエレクトーンで弾いてあげる。エレクトーンならいろんな音が出せるから楽しいと思うし、また最近やり始めたばっかりだから上手くないけど」


無知な私にはエレクトーンがどんな物かよく分からなかったけどまた弾いてくれると言ってくれた結に喜びを隠せなかった。よく分かんないけどピアノみたいに凄いやつだろう。ていうか、上手くないとか言ってるけどどうせさっきみたいに結はできるに違いない。またこんな楽しくなるような曲を聴けるなんて楽しみだ。


「マジか!超嬉しい!それ絶対ね!約束!」


私が少し結に詰め寄ってしまったら結は少し動揺しながら頷いた。


「はいはい…分かってるっつーの。…私は嘘なんか言わないから」


「うん!ありがとう結!超楽しかった!本当にピアノ上手いね。この感激をマジありがとう!」


私はピアノを弾いてくれたお礼を言った。本当に楽しい時間だった。私は弾いていないけど見て聴いているだけでこんなに楽しい気分になるのは初めてだった。


「……別に普通だから。難しくないし……お礼言われても困るんだけど」


結はどういう反応をしたら良いのか分からないみたいに少し困ったような顔をして私を見るけど、全く素直じゃない。耳を見るとまた照れていた。


「だって本当にヤバかったよ?私には人生かけて一生懸命やっても足元にも及ばないだろうし、結は可愛いのにピアノもできて凄いね」


「…もうだからいいから!あんたに誉められても困るしウザイから黙れ」


結は捲し立てるように言うと耳を更に赤くして顔をしかめた。何か結って誉められたりするのに慣れていないの?って位照れるけど面白いから弄ってやる。


「良いじゃ~ん、誉めたってさぁ。弾いてるとこは本当かっこよくて可愛かったしあんな難しそうなのさらっと弾いちゃうし…」


「もううるさい、この話終わり!」


結が面白い反応をするから私は楽しくてまた弄りたくなってしまう。ここは少し大袈裟なリアクションをしてやろう。


「何でよ?…あっ!分かった。結照れてんでしょ?」


「はぁ?!…ふざけた事言うな!」


「またまたぁ、だって何か顔赤くない?あ!熱?もしや熱?どれどれ」


私は身振り手振りしながら照れてる結に大袈裟に言っておでこに手を当てた。結は怒っているけどこれは大丈夫だ。


「ちょっ!!熱な訳ないでしょ!触んなバカ!」


しかし、結は驚いて私の手を掴んでおでこから退けた。結は本格的に照れてきたのか顔も若干赤くなってきている。肌白いって良いけどこういう時不利だよね。まぁ、そんな結も可愛くて楽しいけど。


「だって本当に赤いよ?照れてないのに赤いなんておかしくない?絶対熱だよ熱!」


私は尚も明らかに違う事を大袈裟に言った。結は認めたくないんだろうけど、どうするのか見ものだ。結はいつもめっちゃ態度悪いし目付きも言葉使いも悪いのに、照れると笑える程動揺して明らかに照れてるのを隠すから見てて飽きない。


「違うから、うるさいから黙れ!」


「黙りませ~ん。結ちゃんやっぱり熱だよ熱!ほらほら」


私はふざけながら結の腰に手を回して逃げられないようにしてから指で赤い頬をつついた。すると結は何かもう凄く照れて、顔を凄くしかめるとあからさまに顔を逸らしてしまった。


「もっ、…もう本当に……顔が熱くなるから止めろバカっ…!」


「やっぱ熱なんだね、分かるよ。何か少し暑いから…」


「チッ……だから照れてんの!!」


私の冗談に結はやっと怒鳴って照れているのを認めた。私を見る目はマジでウザそうだけど素直に認めた結に内心笑いが止まらない。庶民として腹黒お嬢様を見事してやった!

それにしても怒鳴って顔はしかめてるのに可愛い結に顔がにやにやしてしまった。


「ふっふっふ、やーっと認めたか。あー、もう本当面白くて楽しいわ」


私はまた結に抱きつくと結は私を引き剥がそうとしてきた。


「さっきから私に抱きつくな!熱い!」


「良いじゃんケチ。良い匂いするからずっとくっついてたいわ」


私は結の匂いを嗅ぎながら言った。結は見かけはお嬢様で可愛い感じだから甘い匂いしそうって思ってたけど、イメージと違って爽やかな感じのめちゃめちゃ良い匂いするんだよね。こないだも良い匂いって思ってたけど嗅いだ事のない匂いだ。きっと聞いた事もない高いブランドの香水な気がする。


「嗅ぐな!早く離れろバカ!」


結は怒ってるけどいつも怒ってるから何かもう今は気にならない。ていうか、私の事投げた癖に抱きついたりすると途端にいつもの暴力性が失くなるのは照れているから?次から身の危険を感じたら抱きつこうかな私。やってる事は不審者だけど良いよね、華のJKだし問題ない。


「あー、めっちゃ良い匂いをありがとう。結は爽やかな香りが好きなんだね」


私は結の香りに癒されてから体を離した。結はまだ照れてる癖にウザそうに舌打ちをしてから髪を手で整えた。


「甘ったるい女の匂いは頭が痛くなるから嫌いなの。ったく、髪が乱れただろ」


「そんな怒んないでよ。乱れてても可愛いから平気だよ」


「……本当に黙れ」


結は耳を赤くして睨んでくる。本当の事を言っただけなのに酷い。

それにしても甘ったるい女の匂いって、結みたいに見かけが甘ったるくて女の匂いしそうな人いなさそうだけど。でも結の匂いは好きだ。今度結に何の香水か聞いてみようと思う。私じゃ買えないかもしれないけど。


「……もう早く勉強するよ?あんたのせいで無駄に休憩しちゃったじゃん」


結は髪を整え終わるとさっさと私から逃げるように勉強してたテーブルに向かった。折角楽しかったのに時間のようだ。


「はいはい、すいません。頑張って勉強しますよ」


私も結の後に続く。休憩は終わってしまったけど少しだけ結の事が知れて私は嬉しく思いながら勉強をまた教えてもらった。



テスト範囲をしっかり教えてもらって私の分からないがなくなった頃には日が暮れていた。時刻は六時だ。昼過ぎからほぼ全部の教科を教えてもらったのに時間はあっという間に過ぎて本当に全部が理解できるようになって驚いた。結には感謝しかない。

これなら次の中間テストは大丈夫だし、平均八十点も夢じゃないかもしれないって思うけど元がバカだから自惚れ厳禁だ。それこそ結に投げられてしまう。



「もう大体教えたから後はちゃんと復習して中間に備えてよ?じゃないと今日やった事何にも意味ないからね」


結は教科書やノートをしまいながら釘を刺すように言った。私もノートや筆記用具をしまうけど当たり前に答えた。


「絶対やるに決まってんじゃん。バカだから人より沢山やんないといけないからやるよ」


私は勉強とかはしっかりやるし教えてもらったからには結果を出したいと思っている。バカだけど。結はそれに鼻で笑った。


「バカとしては真面目で良いけど結果が出ないと意味がないからね。まぁ、中間の結果を期待してる」


「任せといて!全部七割は取るつもりだから!」


バカにされてるけど私は頑張る。この感じなら大丈夫そうだし結を驚かしてやる。私は高校に入ってから下から数えた方が早い順位だったけど次の中間で順位も上げるつもりだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る