第15話


「あ、結あのさ、これ忘れてたんだけどあげる」


意気込んだは良いもののすっかり結に買ってきたお菓子を忘れていた。私は結にお菓子の袋を渡した。


「なに?私何かあんたに頼んだっけ?」


結は受け取りながら顔をしかめた。


「いや頼まれてないけど、今日は勉強教えてくれたからお礼みたいなもんだよ。今日は本当にありがとう。感謝してもしきれないくらいだよ」


「……別に私がやってやるって言ったんだからこんなのよかったのに……私達友達なんだから、こんな気を使うみたいな事…」


結は真面目に少し困ってたけど私は言った。確かに頼まれてはいないし無駄な気遣いかも知れないけどこれは結のために買ったんだ。ちょっと照れ臭いけど。


「気を使ったって言うか、大事な友達だからお礼に買ったの。これからずっと仲良くしていくでしょ?私も結はちょっと怖いけど仲良くしていきたいと思ってるし、これはもっと結と仲良くなれるようにと言うか、お礼とかのためにも買ったけど結に喜んでほしくても買ったから良かったら食べてね?」


私達の関係は始まったばかりでまだまだ全くお互いに関して分かっていない部分もあるけど結の優しい所や今日のピアノを見て私は改めて仲良くしたいと思った。友達としての期間は短いけど結は私を友達と思ってくれているし私もそう思っている。結は暴力的で口は悪いしぞんざいな扱いをしてくるけど私は嫌いな訳じゃない、怖いけど。

結は少し驚いたような顔をしてから照れ臭そうに言った。


「……私は九条のお菓子しかあんまり食べたくないけど泉がそう言うなら分かった。仕方なく食べてあげる」


「ふふ、はいはい。結様光栄でございます。有り難き幸せ」


少しふざけてしまったけど結は真面目に受け止めてくれた。言い方は悪いけど結らしいと思った。しかし結は少し笑ってから呆れたような顔をする。


「……でも、こんな物で私の気を引こうとするなんて、あんた私を誰だと思ってんの?」


結は知ってて当たり前みたいに言うけど庶民の最近友達ができた私は結について詳しく知らない。言ったら怒りそうだけど嘘もつけないから言ってみた。


「……すんごいお嬢様でとにかくヤバいって言うのは知ってる」


「は?……チッ、あんたに聞いた私がバカだったわ。私は前上城まえうえじょう財閥の社長令嬢でうちの会社は海外にも進出してる大企業なの。あんたが数えられない位の資産がある前上城まえうえじょうの娘にこんな安物を渡すなんて……あんたが初めてだわ」


これはつまり、私はまずい事をしている?結の説明はバカな私にも分かった。親の会社は信じられない位でっかい会社で、そしてやっぱり大金持ちなのも分かった。そんなヤバイ娘に安物の菓子を渡してしまった私は屈辱的な事をしてしまったのか。


「あー、それは……マジごめん?……あの、……いらなかったら……と言うか、……こんな安物食べれないのであれば捨てても良いからね?……」


「はぁ?勿体無いから食べるに決まってんでしょ。それに、別にこうやって貰うのは…悪くない気分だし」


私は投げられてしまう恐れを感じて下手に恐る恐る出たのに結は目を逸らしながら即答してきた。この大丈夫なのかよく分からない反応は正直困る。どうしよう……結って言い方がキツいから私には考えても混乱するだけだ。結はまだまだ分かりづらい。私は念のため確認した。


「……マジでいらなくない?無理して食べなくても…」


「何度も言わせないでくれる?悪くないって言ってんだろ」


「…あっ、うん。分かりました、ごめん」


結に睨まれたので頷いたけど大丈夫らしい。良かった。

それにしても海外にも会社あるってやべーなおい。そりゃ才色兼備だよね、中身はあれだけど。しかもこんな城みたいな家に住んでるしやっばいお嬢様なんだな、把握。私マジで身分低いから気を付けないと投げられて消されるよ金の力で……。内心驚いて怖がってたら結は不機嫌そうだったのに嬉しそうに少しだけ笑った。


「まぁでも……泉のそういう気持ちを形で貰うっていうのは安物でも嬉しいかな」


「……」


さっき見たピアノを弾く時みたいに嬉しそうな表情をした結に私はまた目が離せなくて、胸がドキッとした。……これは一体何なの?私は混乱していた。だって結だよ?相手は女の子なのに私何で……。マジでどうしちゃったの?

いや、これは結が可愛過ぎるから頭が麻痺ってこうなってるんだと思う。うん、それしかない。だって結って黙って笑ってたらめちゃめちゃ可愛いしそれしか考えられないよ。


「結は私の事めっちゃ好きだよね」


私はとりあえずふざけてみた。こういう時はふざけてみるのが一番だと思う、よく分からないけど。いきなりふざけた私に結は一瞬で耳を赤くしていた。


「は?いきなり何言ってんの?めっちゃではないから…」


「え?じゃあどのくらい?」


何々?やっぱ好きなんじゃん、こいつめ。私はにやにやしながら結に詰め寄った。結って素直に思った事をズバズバ言う癖になぜか照れるのはどうしてなのか。結は私にたじろいでいた。


「どのくらいでも良いだろバカ」


「えー、良いじゃん。知りたーい。教えてよ結」


「ウザいから黙れ」


ふんふん。結は言いたくなさそうに顔を逸らしたのでもう少し押してからかってやろう。私は結の腕を引いて駄々をこねた。


「やだー。じゃー、聞くまで離さない!絶対離さない!」


結は腕なんか引かれると思ってなかったんだろう少し状態を崩したけどウザそうに腕を自分の方に引いた。


「いいから離せバカ!」


「絶対無理!もう離れなくなった!聞くまで離れない!ねぇねぇ、どのくらい好きなの?もしかして世界一?宇宙一?」


「はぁ?自惚れすんなバカ」


結は本当にウザそうに私を睨むけど、まぁ、これは大丈夫そうだ。私は本当に結が面白くなってきたのでふざけながら聞いた。


「ねぇー、聞かないと帰らないよ?居座るよ?庶民泉が居座るよ?良いの?朝まで寝かせないくらい騒ぐよ?それが嫌なら…」


「じゃあ泊まれば良いでしょ!別にあんた一人くらい泊められるっつーの!泊まれバカ」


「え?…………」


え?冗談も含んでいたんだけど結は本気にしてしまったらしい。え?何?遮ってキレ気味に言った結に驚くけど結は本当の事しか言わない。これ、断った方が良くね?私が驚いて手を離してしまったら結は耳を赤くしながらウザそうに言った。


「なに?明日予定でもあんの?」


「……え、いやないけど……私あの、何か着替えとかないし悪いから…」


「着替えなんか家で用意できるっつーの。そんな物用意できないはずないでしょ?バカにしてんの?」


結のキレ具合に地雷を踏んだのを察した。何このキレ具合、バカにしてないのに。ちょっとまずいので私は即笑いながら否定した。


「いえ、全く。ごめんバカみたいな事言って」


「チッ……分かったんなら良いけど。……じゃあ、そろそろご飯にする?あんたお腹減った?」


結の機嫌は直ったけどこれは泊まる方向みたいだ。何か私いつも意見通らないな、うん、分かってる。下々のハエだもん、仕方ない。私はとりあえず携帯を出した。泊まるならお母さんに連絡しとかないとだよね。


「ちょっと待って、お母さんに連絡するから」


「あぁ、忘れてたわ。私の家からも電話で連絡を入れておいた方が良いよね?あんた電話番号教えて?」


私がお母さんに連絡していたら結は真面目に言ってきた。別に小学生とかじゃあるまいにお嬢様の間では普通なのだろうか。


「いや、私の家はそんなん大丈夫だよ。放任主義だから誰も気にしないから」


「?……まぁ、あんたがそう言うなら良いけど。じゃ、早くご飯にしようか。ちょっと待ってて」


結は分からなそうだったけど頷いてから携帯を弄ると上品にまたテーブルの椅子に座った。


「あと十分でご飯用意できるって、うちは親がほとんどいないから今日は私の部屋で食べるから。あっ、そういえば言い忘れてたけど私の部屋にトイレもお風呂もあるから左側の奥ね。あんたの服とかはあとで九条が持ってくるからサイズとかはその時言えば揃うから」


「……あ、はい。ワカリマシター」


結って本当に色々やべぇ。私は結の普通に言った事が普通じゃなくて頭が少し混乱してしまった。私の部屋にトイレも風呂もあるって……賃貸経営でもしたらいいんじゃないの?私は結にまたイラつかれるかもしれないから急いで結の隣に座った。

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