第12話


「あんた友達いたの?クラスで一人だったじゃん」


突き刺さるような言葉に内心傷つくけど結の言った事は間違っていない。私は結と友達になる前はずっとぼっちだった。


「学校ではいないけどバイト先とかにはいるから」


何か負け惜しみみたいに聞こえるかもしれないけど至ってそんなんじゃない。結は信じられなさそうに私をじろじろ見てきた。


「その外見で友達いたんだ。あんたって柄が悪いし威圧的で態度も悪いのにね」


「……それはよく言われるわ」


遠慮ない私の特徴はよく言われたし自分でも分かってるけど改めて聞くと投げられた時並みに威力があった。主に心に。


「あんたって誤解されやすいだろうからね」


傷ついていたら結は普通に言ってきたけど私にはよく分からなかった。それは言われた事がなかった。


「どういう意味?誤解?」


「うん。話してみると普通だし常識的だけど仲良くしたいとは思わない外見じゃん」


刺さって抜けない位刺さった言葉に傷ついたけど正解ではある。しかし、また刺さりそうだけど他人の率直な意見を聞いてみたいと思った。結は本当の事しか言わない。


「私……どこらへんがダメかな?」


「ダメって言うか……まず顔が無愛想。目付きが悪いから無表情でも笑っても好感は与えないかな。それで態度もでかいし威圧的でいつも一人だから普通に座っててもバカな不良に見える」


「…………そっか」


私が気にしていた事を凄いディスられて悲しかった。座ってるだけで不良に見えるってなぜ?態度ってどうやって直せば良いの?そんな態度とってるつもりないんだけど結がそう見えるって事は皆そう見えてるんだよね。なんて悲しい現実。しかも笑っても救われないと言う負の連鎖。


「でも、中身は良いから私は今は特に何とも思ってないけど」


やっとプラスの事を言ってくれた結。外見はもう今言ってくれたのを忘れずに心に刻み付けて良く見られるよう精進すれば良いと思う。改善不可能な問題もあるけど頑張る事に意味があると思いたい。


「結だけだよ、そんな事言ってくれるの」


結のたぶんする気でしたんじゃないフォローに私は泣きそうだった。そりゃ友達できない訳だわ話しかけても。不良に話かけられるって怖いよね皆。私も怖いしやだよ。はぁ、まず何から変えたら良いんだろう。整形しかない目に関しては打つ手ないし常に目をつぶっていたら良いの?それはそれで怖くない?悩んでいたら結はダルそうに言った。


「あんたはさ、理解するまでに時間がかかるってだけでしょ。見かけで判断する世の中だから仕方ないけど、誤解されてちゃんとした判断がされてないから友達できなかったんじゃないの?あんたの良さは話してみないと分からないし、あんたへの最初の印象を変えるのが大変ってだけじゃないの」


「……何か分かった気がする」


結はダルそうだけど真面目に言ってくれて納得した。印象ってやっぱり大事だ。それだけで好感が持てるか持てないか決まってくるし人脈を作るのにかなり重要になるって事だし。私にはないものだから帰ったら携帯で調べてみようと思う。


「ま、あんたの事はちゃんと分かってくれるやつがいるから大丈夫でしょ。それより勉強、まだまだ半分も終わってないんだからやるよ」


結はコップの紅茶を飲むと私を急かした。話が脱線してしまったけど今日は勉強会だった。私はすぐに返事をしてまた勉強を再開した。




勉強会は結のおかげで本当に本当にスムーズに進んだ。あんな出会い方してハエを見るようなうざそうな顔されてたけど結にはもう頭が上がらない。無償でここまでしてくれるって裏がありそうな予感がするけど何も求めないって言ってたし、結は自分のプライドのためなのかもしれないけど庶民のバカには本当に有り難い事だ。


私はその後も結に教えてもらいながらしっかり真面目に勉強した。

真面目に勉強して半分は終わったかと言う所で結は休憩にしてくれた。そしてその頃を見計らって九条さんがお菓子を焼いて来てくれてそれが本当に美味しかった。

売ってるやつかと思うくらい綺麗なできの美味しそうなお菓子は美味しかったけど私はそれが何のお菓子なのかはよく分からなかった。一つはモンブランなのは分かったんだけどもう一つはよく分からない焼き菓子だ。


「結これ本当に美味しいね」


私はよく分からないキャラメルのアーモンドが乗ったサクッとした美味しいお菓子を食べながら言った。結はそれには同意見みたいで珍しくにこやかだった。


「私が一番好きなお菓子だからね」


「そうなんだ。これ何て名前なの?」


「……知らないの?」


結は知らない事に驚いているみたいだったけど私は生憎ハエ同等なので全く知らん。私が頷くと結は少し呆れながら教えてくれた。


「フロランタン。あんたフロランタンも知らないでどうやって生きてきたの?」 


「え、普通に生きてたけど……」


何このディスり具合。名前知らないだけでそこまで言わなくてよくない?それにしても、フロランタンって可愛い名前だな。私とか結より名前可愛いな、美味しいし。食べた事なかったけど普通に生きていた私は少し人生を損していたかもしれない。


「……あんたじゃ知るはずないか」


呆れた結はフロランタンを食べながら汚い物でも見るように見てきた。その目が本当に刺さるからな、と少し傷ついていたけど最近慣れてきた私はもう気にせずにフロランタンを食べた。結について一々気にしているとメンタルが死去すると思うから私はもう極力気にせずに行く予定だ。


「それよりさ、この部屋って結の部屋なの?」


私はすんごく良い香りのする紅茶を飲みながら聞いた。


「そうだけど」


「あ、そうなんだ。……結ってマジで本格的にピアノやってるんだね」


この部屋の広さでこの家族用かと疑うテーブルかあって一人って、贅沢だけどピアノのでかさが一番驚いた私はピアノについて聞こうと思った。ピアノ習ってるって言ってたけどこんなでかいピアノ持ってるんじゃ将来ピアニストにでもなるのか?


「小さい時からやってただけだから本格的ではないけど、このピアノは私が産まれた時にママが買ってくれたの。私に元々習わせたかったみたいでね」


「へぇ、すごいね。結はコンクールとか出ないの?」


すんごい金持ちな箱入り娘だなぁ。結がこのピアノを使いこなさない訳ないし結はピアノでも一番だろうなと思っていたら結はどうでも良さそうに答えた。


「昔はよく出てたけど今は自分で決められるからたまにしか出ない」


「ふーん。千秋は今月末に出るらしいけど結はそれ出ないの?」


「ああ、あのコンクールは出ない。今はそれよりもやる事あるしハマってる事あるから」


「……ハマってる事あるの?」


結がハマるってこんな夢とか見なさそうな女が一体何に?私はとても興味が沸いた。結ってミュージカルが好きなのは知ってるけど他は全く考えても分からないし結が何か楽しんでる姿が想像できない。私みたいなハエを見てウザそうな顔してあざけ笑うのは想像できるけど。


「あるけど……聴く?」


結は普通な顔をして聞いてきた。聴くものなのか?益々分からないけど興味津々な私は頷いていた。


「聴く聴く!ぜひ聴きたい!」


「……まぁ、あんた聴いた事ないだろうし教養としてよく聴いといた方が良いんじゃない」


結はそう言っておもむろに立ち上がるとなぜかピアノの方に向かってピアノを弾く準備をしていた。ピアノどうでも良さそうだったのにピアノ弾くのにハマっているのか?マジで結の反応分からないと思いながら私はピアノを弾く椅子に座った結の後ろに立った。


「普通のピアノは大体クラシックとかで楽譜を正確に読み取って、正しく間違わずに弾くの。それはアレンジしたり作曲家の意図に反する事はしちゃいけないんだけど……あんたクラシックとか聴いた事ある?」


いきなり説明をしてくれて申し訳ないけど私はクラシック等と言うものは聞いた事がない。


「ないです」


正直に言ったら結に舌打ちをされた。結にはまたあり得ない事を私はしていたみたいだ。


「……クラシックは聴いて当たり前でしょ。全く。じゃあ、ちょっと軽く弾くから聴いてて」


「え?あ、うん。分かった、静かに聴いてる」


結は楽譜とか置いてないけど大丈夫なのか疑問に思っていたら、結はいつものように綺麗な姿勢のまま静かに鍵盤に指を置くといきなり激しく、まるで指が流れるかのようにピアノを弾きだした。



私はもう理解不能だった。初めてピアノの演奏を聴いたけど流れるように指を早く忙しなく動かして弾くメロディーは激しくて荒々しくて、聴いているだけで気持ちが高ぶるような、緊張するようなよく分からない感覚に陥る。

結は涼しい顔をして弾いているけどその音に私は魅了された。

焦りや恐怖感を感じさせるような曲調は見てるのも相まって弾いてないのに緊張感が伝わるみたいで本当に凄かった。

そして時おり静かなメロディーに変わるのに段々力強さが増してまるで追いかけられるような早い曲調に私は心が奪われて結から目が離せなかった。



結は本当に何でもできるみたいだ。


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