第4話
「いった!結、力強いから」
結の見かけからは想像できない暴力性には恐ろしいものを感じる。私の方が身長とかは高いけど結には敵わない。腕を擦っていたら結は弁当を食べ終わったみたいで弁当を丁寧にしまいだした。
「私を笑うなんて頭が高いっつーの。バカのくせに。次意味分かんなく笑ったら投げるからね?」
「うん、ごめんごめん。気を付けるから投げるのは勘弁して?」
私も弁当を食べてから片付けながら謝ると結は一応納得したのか舌打ちをして黙った。ただ笑っただけで投げるだなんて物騒な女だ。だけど案外優しくて真面目なんだろう結に昨日話したばかりだけど好感を持てた。
「結ってさ、友達といつも何話してんの?」
私は暇になったので折角だし色々聞いてみる事にした。結は少し訝しげたけど質問に答えてくれた。
「…授業の事とか習い事とか色々」
「ふーん。結は何か習い事とかやってんの?」
「私は合気道と柔道とピアノ」
「……だから私の事投げたんだ」
合気道と柔道ってそんだけやってれば私なんか障害にもならないじゃん。本当に昨日止めに入った私は自爆しに行ったみたいなもので恥ずかしさを感じる。
「あれは、昨日は私も悪かったと思ってるから。護身のために習ってたのにイライラしすぎて投げるなんてみっともなかったわ」
結はしおらしく謝ってきたけど護身のために習うなんてお嬢様って感じがする。あんな一瞬で私を投げられたんだからもう習わなくても平気だと思うけどこいつは真面目にやってるんだろうなぁ。てか、私身の程知らずだな。とりあえず謝ろう。
「痛かったけど私もあれは他人なのにでしゃばって悪かったよ」
「あんたは悪くないでしょ。まぁ、昨日はごめん。痛かったでしょ?あんた受け身も取ってなかったし今も痛いでしょ?」
結は幾らか気遣うように私を見たけどちゃんと謝った結に私は心底驚いた。こいつ謝れるんだなぁ。もっと高飛車で傲慢だと思っていたけど常識的らしい。私は結の優しさに笑った。
「痛いけど平気だよ。投げられた時は何が何だか分からなかったけど」
「はぁ?強がるな。今日あんたのために湿布とか持ってきたから後で渡すから使って?」
「え?いいの?」
昨日あんな悪態ついてたのにわざわざそんな物まで持ってきてくれるって、違う意味で怖さを感じるけど本当なんだよねこれは。結はウザそうに顔を歪ませると当たり前みたいに言った。
「私がやるって言ってんだから良いに決まってんでしょ。何回も言わすな」
「うんごめん。ありがとう」
「しばらく経っても痛かったら私の家に専属の医者がいるから言ってよ?」
「え?…うん、分かった」
専属の医者って…次元違い過ぎない?医者って自分から出向いて見てもらうんじゃなかったっけ。うちの学校の生徒は皆いそうだけど家はどうなってるんだ。結と話してると驚く事ばかりで頭が許容範囲を越えそう。
「それより、千秋と聡美とも仲良くしてね?あの二人に変な態度とったら投げるだけじゃ済まないからね?」
結はまた平気な顔をして私を脅してきた。
「……えっと、城代さんと高柳さんだよね?頑張るよ」
結と仲良くなるって事はもちろんいつも周りにいる友達とも仲良くしなきゃいけないんだろう。住んでる世界も、見かけからも私とは合わなさそうだけど仲良くできるだろうか。
「特に千秋は消極的で悩みやすいから優しくしないと殴るから。聡美は平気だけど千秋は繊細だから気を付けて」
釘を指すように言った結に城代さんの事を思い出すとなんとなく頷けた。ボブのショートカットだけど何かすんごい大人しそうな印象だし結より小さいし例えると小動物って感じかなぁ。一方、高柳はいつも長い髪を纏めていてクールで綺麗な印象があるけど、二人ともこんなヤクザみたいな女と友達だなんて信じられない。何か弱味でも握られたのかな。
「聞いてんの?聞いてんなら返事しろ」
結は私を軽く睨んできたので慌てて返事をした。
「あ、うん、ごめん。分かったよ。城代さんは何か人見知りそうだしちゃんと気をつけるから」
また怒らせたら困ると思って早く返事をしたのに結の顔は怒っていた。もう私は何かやらかしたらしい。
「…あんたさぁ、千秋の事人見知りって言わないでくれる?イラつくんだけど」
「……うん。すいません……」
よく分からないけど人見知りと言う言葉が良くなかったみたいだ。結は大雑把そうだけど繊細なのだろうか。私が分からないでいたら結は呆れたような顔をした。
「人見知りってあれは小さい子供に使う言葉でしょ。人見知りってよく言うやつがいるけどコミュニケーションができないっていい歳したやつが宣言してるみたいなもんだからね?恥ずかしいと思った方がいいと思うけど。生きてたらコミュニケーション何か取りたくなくても取らないとならないし、ある程度歳が行ったら取れないのはおかしいんだよ。社会に出たら自分から積極的に取らないと相手にされない所か変なやつ扱いされて終わり。それで挨拶も自分からできないようじゃ、あいつは挨拶もできないって言われんだから。あの子は消極的なだけでコミュニケーションができない訳じゃないんだから千秋の事人見知りって言わないで」
私はめんどくさそうに言った結の言葉を聞いて心底感心してしまった。態度は悪いけど言ってる事は大人だ。それに、結は友達思いでもあるし話しをすると言う行為を重要で大切に思っているみたいだ。
私は心の中で色々考えて改めて納得する。結の言ったことは間違いではない。私は接客のアルバイトをしているが挨拶をしないやつはいる。しかもそういうやつは大体コミュニケーションが取れない。そして言われることも大体一緒だ。挨拶もしない、コミュニケーションもできないんじゃあいつは何なんだ?って相手にされないしおかしいやつだと認識されてしまうのだ。
それだけ世の中でコミュニケーションは重要視されてるのに人見知りと言う言葉は大勢が使っている。お金が発生する場所に出たら自分から進んで行かないと友達すらできないのに結が怒るのも分かる気がした。
「なるほどねぇ」
私は感慨深く頷いた。結はただのお嬢様じゃなさそうだ。言う事は大人びているし常識的、それに適当な事は言わない。達観した考えは何だか大人と話しているようだった。
「分かったんなら返事しろ」
返事を求める結に私は笑った。
「結って本当に真面目だね。そうやって堂々とはっきり言うなんて凄いと思う。皆思ってても言わなかったりそこまで考えないよきっと」
結は予想外だったのか返事に顔を歪ませるけどため息をついた。
「思った事ははっきり言わないと相手に通じないんだから当たり前でしょ。こっちはいい歳してちゃんと話せないやつが腐るほどいてイライラしてしょうがないっつーの。コミュニケーションが苦手と取れないとでは話しが違うし、苦手なら苦手なりに努力した結果を見せないと相手をしてる方はただ疲れるだけだし、汲み取りたくもないだろ」
「そうだねー。結が言ってる事は何か分かるよ。日本人だからってのもあんじゃない?でも、結はしっかりしてるね。相手をよく見てるって言うか話してるだけで沢山の情報を手に入れてるって言うか…」
アルバイトはしてないだろうけど社会に出て見て感じてきたみたいに言う結はお嬢様なりに大変な事があるみたいに感じる。まだまだ知らない事ばかりだけど結の人間性が垣間見えた気がした。
「私はパパの会社のパーティーとかピアノで色々あんの」
「そうなんだ。結も大変だね」
「あんたに言われると腹立つわ」
「あ、うん、ごめん」
お嬢様も大変なんだなぁと思いながら少し体を伸ばすように足を伸ばしていたら、結は私をハエでも見るかのように蔑んだ視線を向けて話しかけてきた。
「あんたは?」
「ん?なにが?」
「だから、あんたの事。友達なんだから知っておかないとでしょ。あんたの事教えて」
私の事何かつまんないし話してもどうでも良いと思うけど私に話さないと言う権限はないんだろう。ていうか、目線が痛くて軽く傷つくけど気にしない方が良いよね。私は友達に向けるような目ではない結に少し笑いながら話した。
「私は特に習い事もしてないし普通じゃないかなぁ?友達とゲーセン行ったりカラオケ行ったり皆でファミレス行ったりとか?あとは、趣味とかもないからほぼバイトしてる。あっあと、家で借りてきた映画とか見たりしてるかな?」
「……映画?」
なぜか映画に食い付いた結。映画とか見た事ある……よね?家でテレビで映画見る位ならあるよね?世界が違い過ぎる結に私は戸惑いながら言った。
「映画……見ない?映画館に行くのは面倒臭いから私は家で見てるんだけど。アクションとかホラーとか何でも見るし……あと私はミュージカル好きだから…」
「ミュージカル?」
「え?うん、ミュージカル。……あんま興味ない?」
表情を歪めた結に私は緊張した。キャラじゃないって事?それとも、また気に触った?…どうしよう。結と話してると悩みが尽きない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます