第5話
何か言おうとしたら結は真顔で言った。
「興味ない訳ないじゃん。私ミュージカル凄い好きだから」
「……あ、……そう、そうなんだ……」
おまえそんな辛口で現実主義そうなのにミュージカル好きなんだ。私は意外過ぎて上手く反応できなかった。ていうか少し引いた。意外と乙女なの?ていうかロマンチスト?暴力的で口悪くて怖いけど意外と可愛いじゃん。
「あんた舞台でミュージカル観に行ったりしないの?」
「え?舞台までは観に行かないけど…」
「はぁ?!なんで?」
え、怖い。また大きな声を出してきた。なに?本当に。また怒っているのだろうか。私は内心ビビりながら答えた。
「舞台なんか観に行く友達いないからさ…」
「じゃあ、私が連れてってあげる。ミュージカル好きなら舞台で見ないと意味ないんだから。声とか響いて見てるだけで楽しくてすっごく感動するからあんた泣くんじゃない?私も泣いてるから」
「……そうなんだ」
いきなり嬉しそうに話し出した結に私は目を奪われてしまった。今の笑顔は昨日今日見たような笑顔とは違う。素の表情なのだろう、本当に嬉しそうに笑うから私は何だかドキッとしてしまった。結はこんな風に笑うのか。いつもは目が笑ってない感じがしたけど優しい目をして笑ったように見えてそれも驚いた。そして何より、あんな辛口な事を言って悪態をついていたのに笑うと本当に可愛らしかった。
「結って笑うとめっちゃ可愛いんだね」
私は笑って思った事を言った。見かけは美少女だと思ってたけど中身は全然違って怖かった。だけど結は中身も可愛らしい所があるみたいだ。好きな事を話す結は少し子供みたいだったから。
でも、結は誉めたのに意味分からなそうに驚いていた。
「はぁ?あんた何なのさっきから。噛み合ってないし意味分かんないんだけど」
「え?だって笑っても目が笑ってない感じがしてたけど、今はそんなんじゃなかったから」
「……意味分かんないんだけど。投げられたいの?」
本心を言ったのに結は舌打ちをして私から顔を逸らしてしまった。誉めたのに怒られたのは何でだ。私は少しシュンとしていたけど結の横顔を見てある事に気がついた。
んん?もしや悪態ついたくせに照れてる?耳が異常に赤かった。なるほど、これは形勢逆転のチャンスだ。私は笑いながら結に話かけた。
「結は笑わなくても可愛いけど笑っても可愛いね」
「はぁ?黙れ」
「誉めてんだから良いじゃん。照れてんの?」
「私が何であんたに照れなきゃいけないの?受け身も取れない運動音痴なくせに」
ふふふ、何こいつ何か面白い部分もあるじゃん?全然こっち見ないし意外に純情で初?認めないのであれば今までやられた分弄ってやろう。私は内心ほくそ笑みながら結を横から肘でつついた。
「照れてるくせに可愛いんだから」
「照れてないから」
「嘘つけ~。耳が真っ赤ですけど?可愛いね結ちゃん」
「…チッ……おまえ投げる!立て早く!」
結は耳が真っ赤のまま若干顔も赤くしてるけど立ち上がって怒りながら私を引っ張ってきた。こいつ暴力に走りやがってずるくない?私はベンチに掴まりながら抵抗した。
「絶対やだ!無理無理!引っ張らないで!」
「いいから立て!ムカつくから三回位投げてやる!」
「三回も投げたら私死ぬよ?殺したいの?勘弁してよ!」
私の腕を引っ張る結は本気そうで超怖かった。ちょっと弄っただけで生命を脅かされるなんてやっぱり可愛くないと思う。私は尚も引っ張ってくる結を逆に引っ張って止めさせようとしたら結は引っ張られると思わなかったのか可愛らしい悲鳴をあげて私の方に体制を崩した。そのチャンスに結を抱き締めるように受け止める。
「よし確保!もう投げさせないからね!観念しろ結!」
「…チッ……いいから離せ」
折角投げられるのを阻止したのに、ここで離したらまた投げられるよねたぶん。間近で照れながらキレて暴れてるけど私は結を離さないように強く抱き締めた。
「絶対嫌です。無理です。離しません」
「…いいから離せって言ってんだろ」
「ごめん無理。ていうか、さっきのキャッ!って言うの可愛かったね。結もそういう事言うんだね」
「……もう…いい加減にしろ」
私を睨んでくるけど照れているからか、いつもの迫力はない。ていうか、結って間近で見ると睫毛長いし肌白いし良い匂いするし本当に可愛くて腹立つんだけど。顔整い過ぎじゃない?内面ヤクザみたいなのに本当に腹立つ。しかも体めっちゃ細いし結ちゃんとご飯食べてんの?私こんな可愛くて細い女に投げられるって間抜けもいい所じゃない?
「…結って……可愛くて良いね……」
内心私の心は荒れていた。可愛くて羨ましいよ。私は醜く
「あんた……さっきから何なの?」
「結が可愛くて羨ましくて泣きそう…」
「はぁ?もう……照れるからやめろ!」
少しふざけたのに結は暴れるのをやめてやっと照れているのを認めた。何か少し目線逸らして言われても可愛いだけなんだけど……。ムカつくよ可愛くて。
「結は照れてると本当に可愛いね」
もはや自分との違いに悲しくなってきた。私もこの位可愛かったら友達一万人位できたのに。
「もう……うるさい……。あんまり可愛い可愛い言うな。熱くなるからやめろ」
可愛いって言われただけで照れるなんてあの悪態ついて暴力していた結はどこ行ったんだ。ていうか本当に熱そうな耳と顔は肌が白いからすんごいよく目立つ。照れてるのがすぐに分かる。
「じゃあ、投げないでよ~」
私は可愛い結の背中を撫でながら言った。もう抜け出そうと思えば抜け出せるのに結は大人しくしているままだ。暴れても良いのに内心動揺でもしてるんだろうか。
「……チッ」
この突然の舌打ちはよく分からない。
「どっち?投げない?投げる?」
私が聞くと結は私の顔を見て悔しそうに言った。
「……今日は投げないでいてやる」
「やったー、ありがとう結」
私は笑って抱き締めながら立ち上がると結を離した。だけど離したのにまだ照れている結は私を睨んで不貞腐れている。顔を歪めているけど赤いから可愛いなとしか思えない。何かさっきまでは怖かったけど可愛い一面を見たから怖さが失くなった。
「もう照れないでよ」
「うるさい。…調子乗るな…もう教室帰る」
「え?ちょっと待ってよ」
結は自分の弁当を持つとすたすた歩いて行ってしまった。全く素直じゃないんだから。私はそれに笑いながら遅れてついて行った。
教室に着くとそろそろもう授業が始まる時間だった。私は自分の席に座って授業の予習をしながら授業が始まるのを待った。この先当てられたら極力と言うか必ず答えないと結に投げられてしまうので私は必死だった。
それから授業が始まって無事当てられる事もなく一日が終わった。帰りのHRも終わったし一安心しながら帰る準備をして教室を出ようとしたら結に呼び止められた。
「泉」
後半は上手く行ってた気がするけどまた文句?と思いながら結に顔を向けると何か高そうな紙袋を渡された。
「なにこれ」
「忘れたの?昨日転んだから体が痛いって言ってたでしょ?」
あぁ、そういえば私のために湿布とか持ってきてくれたんだっけか。おしとやかに言ったけど転んだとかこんな人いる場所で言わないでほしい。さっきの仕返し?だけどとりあえず受け取った。
「ありがとう」
「ううん。泉?帰り道気を付けてね?泉は少しぼーっとしてる時があるから」
そんなないけど作った顔で言われたので頷いて見せた。ちゃんとレールに乗らないと結に何をされるか分からない。
「うん、分かってるよ。じゃあね結」
「うん、また明日ね泉」
私は結から貰った高そうな紙袋を大事に持ちながら学校を出た。こんな高そうな物を貰うと丁寧に扱ってしまうのは庶民だからだろうか。それでも結の気遣いは嬉しかった。贅沢に湿布貼って今日は安静にしよう。結がくれた物ならたぶん凄い良いやつだと思うから。
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