あなたのために送る歌

羊草

第1話

僕は今年も歌コンに出場した。僕は19歳。今年もまた、優勝した。9年連続の優勝。君と会えなくなって9年。


思えば、長かった。



歌子かこちゃん、今年は絶対に優勝してみせるね!」


「絶対だよ~!そうちゃん。」


「うん、今年こそは先生が優勝出来そうって、言ってた。」


プクーーッ。


歌子ちゃん、また、頬を膨らましてる。可愛いな。


「歌子ちゃん。だって、コンテストは歌子ちゃんの誕生日じゃないか!だから、絶対に歌子ちゃんに優勝をプレゼントするよ。」


「じゃあ、指切りね!」


「「指切りげんまん針千本飲ーます、指切った。」」


「これで、約束だね!歌子ちゃん」


「うん、歌子、絶対に手術成功して見せるね!奏ちゃんの歌、本当はコンテスト会場で見たかったな。」


「大丈夫だよ!歌子ちゃん今回の手術が成功したら退院って言ってたから、来年から見に来れるよ!」


「そうだね!何と言っても手術は歌子の誕生日にあるし、神様が助けてくれるよね!」


「うん。きっと、助かるよ!」


「じゃあ、明日は頑張ってね!奏ちゃん。」


「うん、歌子ちゃんも手術頑張ってね!」



歌子ちゃんの病室を出て明日の歌コンに備えた。




「第34回歌のコンテスト、あなたに歌を届けたい、開~催~。」



「エントリーNo.5」


僕の番まで、残り5番まで進んでいった。緊張するな。歌子ちゃんの手術ももう、始まってるし、僕も気合いを入れなくちゃ!

「エントリーNo.8」


僕の番まで、残り2番。



ピルルルルル、ピルルルルル。


「一体、何だって言うんだよ!お母さん!」


「あなたが仲の良い歌子ちゃん、今日、手術だったじゃない。さっき、電話が掛かってきたんだけど、歌子ちゃん、手術が始まる前に亡くなったらしいの。」


亡くなったらしいの。らしいの、らしいの、…………………………………………………………………


「だから、早く、帰ってきなさい。」


「………………、」


「奏、聞いてる!聞こえてるの?」


「………………ブチッ、ツー、ツー、ツー。」




「エントリーNo.10」


どうやら、僕の番みたいだ。もう、僕には聞かせたい相手なんていない。歌子ちゃんに会いたい。


「………………エントリーNo.10、棄権します。」




僕はさっきの言葉なんて信じてない。僕が直接、見るまで信じない。


僕は必死に、必死に走った。病院まで走った。


「あの、歌子ちゃんいますか?」


「歌子ちゃんなら、さっきお家に帰ったわよ。でも、歌子ちゃん………………」


僕はやっぱり、間違ってなかった。次は歌子ちゃんの家に走った。


「ごめんください。奏です。歌子ちゃん、返事して!」


「あ~、奏ちゃん、」


「お母さんとお父さん、おうちの奥で泣いてるの。どうして、泣いてるか、わかる~?」


「舞ちゃん、歌子ちゃんはいないの?」


「ねーねーなら、おうちの奥で、寝てるよ~」


「舞ちゃん、お邪魔するよ。」


バタバタバタッ。


ウェーン,ウェン,………………………………………………………………………………………………………………


奥に歌子ちゃんがいる。でも歌子ちゃん、こんな大きな音がするのに、起きないのかな?起こしに行ってみようかな。


「歌子ちゃん、歌子ちゃん、起きて。僕、歌子ちゃんが心配で歌コン止めてきたよ!だって、歌子ちゃん、調子悪くって、テレビも見れないいんだよねえー。」


「ねー、だから、起きててよ!僕、歌子ちゃんとの約束、破ったんだよ!ねー、どうして、起きないの?ねーったら、ねーったら、ねー!」



この後、僕の母が僕のことを見つけて、連れ、帰ったらしい。あの日のことを僕は覚えていない。あれから、10年。僕は大好きだった歌子ちゃんと病室で、楽しく話したこと、あの日、約束したことしか覚えていない。だから、僕は誰が僕に何を言おうと、歌子ちゃんは生きていると信じている。だから、今日も歌った。歌子ちゃんの誕生日にある歌コンで、君がどこかで聞いていると信じて………………







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