第4話
校正依頼のメールが届いて、私が図書室に向かうと、長井はすでにテーブルの隅にいた。
いつもみたいに声をかけてくれることはなく、私が傍につくと、一瞥して、紙の束を出してくれた。
「パソコン?」
長井が広げているのは、とても薄い電子辞書のようなものだった。
「電子メモ帳だよ。集中して書きたいからさ」
そのような機械を、使っている人は見たことがなかった。
スマートフォンが咎められる教室で、ゲームがダメなのはもちろんだが、電子メモ帳はどうなのだろう。
この図書室において、長井は比較的堂々とそれを広げていた。
「俺も頑張りたくなったんだ」
長井の目は電子メモ帳から離れなかった。
長井の出してくれた小説はその場でざらっと読み通した。
いつものように、社会問題に焦点を当てている。
その割に、言葉遣いが淡白になっていた。
殴り書きになっていた呪詛の言葉は、言葉の端々に追いやられていた。
少なくとも、今までよりも遥かに読みやすかった。
思わず顔を上げて、長井を見つめた。
ブラインドタッチで、留まることなく文字が打ち込まれていく。
司書さんが、「静かに」と声をかけてくるまで、長井は止まらなかった。
私も一緒に、むしろ長井よりも深く謝った。
「市立図書館の方がやりやすいか」
畳まれた電子メモを見つめながら、長井がぼやいていた。
図書館の主でも目指すのだろうか。
長井がいなくなったら、図書室はさらに寂しくなるだろう。
誰も来ない図書室に、司書さんがうたた寝をしているだけの広い部屋。
私もきっと、近寄れなくなるような気がした。
「校正、三日でやってみるよ」
真面目な顔つきを見ていたら、つい言いたくなった。
分厚さは前回よりも増えているけれど、尻込みしたくなかった。
「ありがとな」
そんなふうに、普通の言葉を使われるのが、何故かとても気にくわなかった。
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