第5話 魔戦姫デミゴール
「百回死ね!!!!クソ野郎―――――――――――――――!!!!!!!!!!!」
激しい怒号に目を開く。
そこにいるのは一人の女性。深紅のドレスを身に纏い、手には煌びやかな装飾が施された剣。
その可憐な容姿からは想像もつかない程豪快な戦いぶりから“魔戦姫“の異名をとる、俺の幼馴染み“憤怒の魔王デミゴール“である。
この二つ名考えた奴マジで頭おかしいと思う。姫サマが、百回死ねクソ野郎、とか絶対言わないだろ。
こいつに比べればうちの
ギン!!!!!!!!
上方から振り下ろされるデミゴールの剣を、
さっきまで目の前でキス顔晒してたのに一瞬で後ろに回り込みやがった。こちらからは顔が見えないが恐らく物凄く冷たい目でデミゴールを睨み付けている事だろう。
「邪魔するなよメス豚。お前も殺すがカオスが先だ、ズタズタに引き裂いてやる」
言いながら俺を睨むデミゴール。
約一万年振りくらいの再開だが、相変わらず酷い言葉使いだな。
「魔界には喋るダッ◯ワイフがあるんですね?でもカオス様には必要ありません。私が妻として毎晩致しますので、お引き取り願えますか?」
駄目だ、こっちの罵倒の方が酷かった。後、毎晩致すって俺を殺す気なのか?
「何を言い出すかと思えば妻だと?冗談は顔だけにしてくれよ、この色狂いの変態が!」
「ウフフ、誰も欲情しないような貧相な顔の貴女からしたら羨ましいんですよね?死んで生まれ変わってみたら如何ですか?醜い豚ならその顔でも構ってくれますよ?」
「おいおいおい魔界で私が何て言われてるか教えてやろうか?魔せん」
「公衆便所ですか?、臭そうですし」
ブチッ!
おっと、聞いてはならない音を聞いてしまったようだ。
「テレポート」
とりあえずあの化物共の戦いに巻き込まれないよう距離をとる。
「あら?図星だったみたいですね?」
言いながら剣を振るうアイリス。
ギン!!
対してデミゴールは剣の腹で受け、
「1……2……3……」
その口から吐き出されるのは言葉では無く数。
「何を数えているんですか?」
アイリスは問いながらも攻撃の手を緩めない、目にも止まらぬ速さで剣を打ち込むが、
しかし、デミゴールは一歩も動く事無く、ただ腕を動かすだけでそれを防ぐ。
「20……21……22……」
出たよカウントダウン。
一見して防戦一方に見える戦いだが、それは間違いだ、魔戦姫の名は伊達では無い。
今のデミゴールは本気どころか遊びですら無いのだ。
「60……61……62……」
「くっ!」
さすがにマズイと感じたのかアイリスも罵倒を止めて、剣を振る。
先よりも速く重い剣に対してデミゴールは変わらずに防ぎ、カウントを続ける。
「89……90……91……」
あのカウントダウンは魔王になってからやり始めた、言わばサービスタイム。
最初は俺が、『俺はあと二回変身を残している』、的な事を言いたくて力を三分割したのだが、それをデミゴールも真似て、あのスタイルになったのだ。
役割別に魔力と魔法とスキルを振り分けた俺に対して、デミゴールは力の振り分けでは無く、単純に自分の力に制限を設けた。
そして驚くべきはその制限率、なんと脅威の
自殺志願者なのか?としか言い様が無いが、つまり今の奴は全開時に対して
「99……100……おめでとう狂戦士」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるデミゴール。
「何の事ですか?」
アイリスも何かあると悟ったようで、攻撃の手を止めて、油断なく構えながら聞き返す。
「この
パチン!
とデミゴールが指を鳴らすと、血のように赤い魔力が溢れだした。
「今までは手加減していた訳ですか」
冷静な口調とは裏腹にその顔に余裕は無い。
「プロテクション」
俺は今からくるであろうアレに備えて先に防御魔法を掛ける。
「せめて10秒は持たせてくれよ?」
ニヤリと余裕たっぷりの表情で言うデミゴール。
ウザッッ!!!
「チィッ!」
アイリスもイラついたらしく舌打ち混じりで剣を振るが、
キィン!
やれやれとばかりに肩をすくめたデミゴールは余裕で弾き飛ばした。
キィン!
そして予想通り飛んできた剣を弾く俺。
「チッ」
あいつ舌打ちしやがった。
しかしこの状況、デミゴールが乱入してきた時は詰んだと思ったけど、よく考えたらスゲーチャンスだよな。
アイリスの動きが悪すぎると思えば、あいつは多分さっきの
その上剣も弾かれたこの状況で、魔戦姫状態のデミゴールに勝つのは不可能、一撃で殺される筈だ。
つまりアイリスが生き返るまでにデミゴールを出し抜く事が出来れば、余裕で治癒魔法使いのところまで行ける訳だ。
そうなると問題は治癒魔法使いに見せるアイリスの体をどうするかだな、何もしなければ肉片一つ残らないだろうし、下手に防御魔法を掛けると死なないかもしれない。
…………攻撃が当たるギリギリのタイミングで体の一部に掛けるか。
「装換!!戦姫の鎧+魔戦砕斧!!!」
眩い光を放ちデミゴールの装備が変換される。
何の変哲も無いドレスから魔力が込められた美しい鎧に、装飾用のなまくらな剣から身長の三倍はあろう巨大な戦斧に。
「さぁ、まずは一撃、耐えて見せよ!!!!!」
軽々と持ち上げた戦斧が、今振り下ろされる。
さぁて、こっちは体が潰れる寸前に防御魔法を掛けるぞ、とアイリスの方に目を向ける。
『逃げて下さい』
魔力も尽きて武器も無し、迫る死を前にあろうことかアイリスは俺を見ていた。
『今のうちに逃げて下さい』
その口が紡ぐ声無き声は、やはり俺の事だけを思って動くらしい。
『私が戦っている間に少しでも遠くへ、カオス様は私の為に生きて下さい』
ズドン!!!!!!!!!!
本来なら全てを叩き潰し、触れるモノ全てを粉々にする戦斧は、標的の前に立つ人物が片手で受け止めていた。
「貴様、どういうつもりだ?」
「何が?」
「女を盾に逃げた臆病者が、何故私の前に立つと聞いている!!!」
「勘違いするなよ、俺は他人の思い通りになるのが嫌なだけだ」
そう、別に助ける必要は無かったのだ、どうせ生き返るし。
だから別にこれは、瀕死なのに俺の事だけ考えてくれるアイリスちゃんマジ可愛い、とか思った訳では断じて無い。魔王が女の子にトキメくとかあり得ないから!
違う違う、違うんだよ、『逃げて下さい』とか言うから俺のプライドが許さなかっただけで、嬉しかったとか全然無いから!!
あ~さっさと元に戻して昼寝したいわ~マジで(棒)
「って事で、またなデミゴール!」
後ろを振り向き乙女顔で「はぅ、カオス様……」とか言ってるアイリスの手をとる。
「待て、貴様!勝負はまだ終わってないぞ!」
「面倒だからパスで!あとお前一万近く経ってるのに相変わらず
ブチッ!!!
「ブッ殺すぞ貴様ァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」
「テレポート!!!」
激怒したデミゴールを残して俺達は魔界の中へと移動するのだった。
――――――――――――――――――――
「うぅ、なんだよぉ、久しぶりの再開だって言うのに、そんなに胸が好きなのかよ、カオスの……」
「カオスの大馬鹿野郎――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
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