第4話 魔界へ行こう!

「ウフフ、ものでは無くて人ですけど、私の"好き"はカオス様だけのものですよ」

 そう言って元女勇者は狂ったように美しい笑顔を浮かべた。


 …………落ち着けカオス、クールになれ。とりあえず状況を整理するんだ。


 ①こいつはヤバい奴バーサーカーだ。

 ②こいつから2メートル以上離れると俺のステータスは無力化されるらしい。

 ③こいつは神を殺そうとしている。


 まずいな、かなり詰んでる気がする。

 まず、こいつが神を殺した場合、確実に俺にも仕返しが飛んでくる筈だ。その瞬間、俺の平穏は終わる。


 次に、こいつから逃げた場合、こっちも確実に殺されるだろうな、うん。

 そう言えば最初に会った時も、「手足を剥いで一生私のお喋りに付き合って頂きますよ?」とか言ってたし、それが実現される事は火を見るより明らかだ。


 ………となると方法は一つだな。

 こいつの思い込み状態異常を治すしかない。


 しかし、俺が他の女に話しかけた途端、こいつに殺されかねない。(俺も女も)

 つまり男で治癒魔法が使える奴、それも相当の腕を持つ者を探す必要があるのか。


 魔界でなら心当たりがあるが……行きたくないなぁ。

 天界も入った瞬間に捕まるだろうし、とりあえず人間界で探してみるか。はぁ、面倒だ。


「アイリス、神を殺すのは良いんだがその前に行きたいところがある。付き合ってくれるか?」


「はい!勿論です……ウフフ、ホテルですか?宿屋ですか?それともア◯カンですか?」

 笑いながら意味が分からない事を言い出すアイリス。


「いや、そういうのじゃなくて」


「は、失礼しました。まずはお風呂かご飯ですね?ア、アナタ……えへへ、言ってしまいました」

 何故か顔を赤らめてクネクネしている。


 何言ってんだこいつは?

「いや、違くて人間界に」

「新婚旅行ですか!?」


「いや、違うからね?」


「カオス様ったら、私達まだ結婚式上げてませんよ?もう、気が早いんですから」


「お願いだから話を聞いてくれよ……」


「でも、嬉しいです。カオス様はお外に出るの嫌いだと思ってましたけど、私の勘違いだったみたいで。」


 当たってる当たってる。外も太陽も大嫌いだよ。

 一日中棺の中で寝ていたいね。


「ここに居るのがカオス様の幸せだと思ってましたけど違うんですよね?外の世界で一緒に遊んだりご飯食べたりお風呂入ったり、◯◯◯したり◯◯◯◯したり◯◯◯◯◯◯」

「ちょっ、ちょっ、ちょっと一旦ストップストップ」


「? はい、何ですか?」


 卑猥な台詞を連発するな!と言ってやりたい。

 しかし、本当に元勇者なのかってくらい性欲旺盛みたいだが…………俺の為にずっと我慢してくれていたのか。


 いや、違う違う、落ち着け。こいつが好きなのは俺であって俺じゃない。

 この世界にいたのが偶々俺だったから、俺を好きになったと勘違いしているだけで、

 それはつまり、相手は他の誰であっても変わらないって事だ。


 そうだ、勘違いならさっさと治してやらないとな。お互いの為に。


「人間界で僧侶もしくは神官でもいい、とにかく男で腕の良い治癒魔法使いに心当たりはあるか?」


「腕の良い治癒魔法使いですか?……すみません。聖女なら一応の知り合いは居ますが、男だと分からないです」

 申し訳なさそうに言うアイリス。


 聖女か、それなら試してみる価値はあるだろうが……、

「その聖女に会いた、分かった一旦落ち着こうか」


 スラリ、

 と言い終わる前に首筋に魔剣が押し当てられる。


「何でそんな事言うんですか?治癒魔法が使えないとダメなんですか?聖女が好きなんですか?私と同じ気持ちじゃないんですか?私と一緒にいたくないんですか?私の事嫌いなんですか?そんな事あるはず無いですよね?私とカオス様は運命で結ばれてるんだもの。…………じゃあ、貴方は誰?カオス様の、偽物?」


 ゾッとする程冷たい目になり、腕に力が込められた。


「プロテクション!!!」


 ギィィィィィン!!!!

 鈍い音を立てて剣が弾かれる。


 あっぶねぇぇぇぇ!首持ってかれるところだぞ。


「死ッッッ!!!」

 体制を立て直し、今度は心臓狙いの突きを放ってくる狂戦士バーサーカー


 お前、俺の事好きなんじゃなかったのかい!?完全に即死コースだぞ、それ!


 などと言ってる暇は無い、止めるにはアレしかないな。

 突きが当たる寸前、体を九十度回して回避。

 からの~後ろに引き絞った右拳でカウンターアタック!!!


 全体重を乗せた突進気味の突き繰り出した狂戦士バーサーカーがこれを避けるのはほぼ不可能。

 冷たい目が俺を睨み付ける。

 しかし、それには構わずに、



 ギュッ!!!

 と、


「ふぇっ?」

 と恋する乙女バーサーカーが可愛らしい声を上げる。


 とんでもない無くドキドキするよ、刺されやしないかとな。

「冗談に決まってるじゃないか。聖女なんかよりお前の方が百倍好きだぜ (種族的に)」


「カオス様……」

 アイリスの顔がポッと赤くなる。


 くっ!可愛い!!

 しかし、人間界は諦めた方がいいな、しょうがないから魔界に行くか。


「ごめんなさい私ったら、つい……」


 つい、で殺しにくるアイリスさんマジ怖いッス。

「気にしないでいい。むしろ愛情が深いって事が分かって嬉しいよ」

 深すぎて突き抜けちゃってるけど。


「ウフフ、やっぱりカオス様優しいです」

 アイリスの方からも抱き締めてきて、ぐにゅっ、と柔らかな双丘が押し付けられる。


「ハイハイ、それは良かったよ。それよりアイリス、やっぱり人間界じゃなくて魔界に行こうと思うんだが付き合ってくれるか?」


「勿論です!結婚式をあげるんですね!」

 ペカーッと眩しい笑顔を放ってくる。


 うん、全然違うんだよね、とか言ったら話が進まないし、もういいか。どうせ元に戻れば記憶も抜けるだろうし。


「そうそう、やっぱり俺が魔王やってた魔界でやりたいからさ。人間界生まれのアイリスは嫌かも知れないが」

「そんな事無いです!」

 食い気味に否定してきた。


「カオス様の喜びが私の喜びですから。えへへ、嬉しいです」


 くっ!!可愛い!!!(二回目)

 狂戦士バーサーカーの笑顔とは思えない破壊力だ。


「あ、ああ、俺も嬉しいよ。じゃあ少し離れていてくれるか?魔界とゲートを繋げるから」


「それくらい私に任せて下さい!カオス様の手を煩わせるまでも無いですから!」


 そう言ったアイリスはクルリと反対を向いて、

「グロリアス・ノワ―――――――ル!!!!!」

 凄まじい咆哮と共に漆黒の魔剣を振り下ろした。


 一直線に黒い剣筋が通った、

 一瞬の静寂の後、


 ドン!!!!!!!!!


 鼓膜を突き破りそうな爆発音と共に、アイリスの前方、眼前の空間全てが黒に染まる。

 と言うか、空気も空も地面も何もかもが無くなったらしい。


「今、時空を繋げますね」

 再びクルリと振り返ったアイリスは可愛らしく微笑んでそう言った。


「ウン、ヨロシクネ」


「はい!」

 アイリスが無くなった空間に向かい魔法を唱え始める。


 さすが狂戦士バーサーカーと言うべきか、詠唱無しでこの破壊力、とんでもない怪物だ。

 今後一切こいつに逆らうのはよしておこう…………不死の肉体ごと消されかねないからな。


「カオス様、終わりました」


「あ、うん、ありがとう、ございます」


「? どうしたんですか??」


「いえ! 何でも無いデスヨ」


「変、ですよ?……もしかして私の事」

「違う違う違うから!一旦剣を仕舞おうか!?」


「……私達、これから結婚するんですよね?」


「そうそう! その通りよ!」


「じゃあここを出る前にキス、して下さい」

 アイリスが上目遣いで見つめてくる。


 キス!?ってチュウ!?接吻!?口づけ!?


「嫌なんですか?」

 言いながら魔剣の束に手を掛けるアイリス。


 それは質問ではなく脅迫だよ!?


「いや、全然嫌じゃないけど、今じゃなくていいんじゃない!? 式の時も出来るし、何ならいつでも出来るし!」


「なら、今でもいいですよね?」

 グッ!と両手で俺の襟を掴むアイリス。


 マジか、逃げ場は無い……。くっ!据え膳食わぬは男子の恥よ!!


 アイリスは既に目を閉じて戦闘体勢に移行している。あとは俺が唇を合わせるだけで合体兵器“キス“の完成だ。


 カオス行きま―――――――――――す!!!!!!


 ガリッ!!!

 …………何だ?唇ってこんな硬くて尖ってるモノだったっけ?何か血の味もするし。


 疑問に対して答えの代わりに、飽きる程聞きなれた声が聞こえてきた。

「ゲートを繋げた状態で……魔界の目の前で……の目の前で他の女とキスをしようとするとは……」


 あぁ、だから嫌だったんだよ……。詰んだわコレ。


「百回死ね!!!!クソ野郎―――――――――――――――!!!!!!!!!!!」

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