第3話 覚醒☆ヤンデレバーサーカー

勇者の襲撃から八百年

 アイリスの累計九百三十年


「ふああぁぁぁぁぁ~~~、スゲーよく寝た。魔力も手も完全に元通りだ」


 ……しかしおかしいな、俺、服脱いで寝たっけ???

 何故か着ていた衣服が頭の横に畳んで置かれている。

 それに、防壁魔法が全部解除……じゃなくて無理矢理ぶっ壊されてるんだけど。


 ……とりあえず、散歩がてら起きてみるか。

 全壊状態の魔法を解除して、棺の外に出る。


 すると遠くの方から、

 ドン!!!!!!

 という爆発音が何度も何度も繰り返し聞こえてきた。


 数秒固まった後音と反対方向に歩き出そうとした時、いきなり目の前に魔方陣が現れた。

 眩い光を放つそこから出てきたのは、勿論アイリスだ。


 正直起きた時点で感じてはいたが、実際目の前に来られると否定の仕様が無い。

 アイリスの魔力が何倍にも膨れ上がっているのだ。

 ぶっちゃけ俺には程遠いが、たった何百年程度でこうなられるとこの先どうなるのか不安で仕方ない。


 てか、そんな事よりどうしよう?こいつ完全に俺の事殺しに来てるよな。


 声を掛けるか魔法を掛けるか迷っていると、アイリスが先に口を開いた、

「おはようございますカオス様、八百年、正確には八百三年と五十八日振りですね」


「え、あ、うん、……そ、そうね」

 カオス……様??


「あの時は申し訳ありませんでした。私ごときがカオス様に手を上げるなど、どんな罰を以てしても償い切れるものではございません」

 そう言いながらアイリスは、ガバッと土下座した。


「いやいやいや、気にしてない気にしてない!顔上げてよ!」

 何だこいつヤベーよ。意味不明すぎて怖いんだけど。


「ウフフ、やっぱりカオス様はお優しいですね。ですが、何もしなければ私が私を許せないのです。ですから、カオス様の為に出来る事を勉強している最中ですので、楽しみにしていて下さいね」


「う、ウン……ガンバッテネ」


「はい。では失礼します」

 そう言って微笑んだアイリスは再び魔方陣の中に消えていった。


 再び棺に入った俺は、どんどん大きくなる破壊音を遮断する為、音声遮断の魔法を掛けてから眠りに就いた。


 ――――――――――――――

 千年後

 アイリスの累計千九百三十年


 起きた瞬間、今までとは比べものにならないとてつもない違和感を覚えた。

 遠くにいても感じた筈の強大な光の魔力を感じなくなったのだ。


 それだけならまだ良い。むしろ喜ぶべき事態だが、今起きているのはそんな事よりもとんでもない事態だ。


 かなり小さいが俺と同族の、闇の魔力を感じるのだ。

 いやいやいや、夢か?うん、夢だな。でも一応千里眼で確認しておこう、夢だけどさ。


「千里眼」

 魔法を唱えると頭の中に映像が写しだされた。


 うんうん。やはり夢だったようだ。

 視えたのは紛れもない闇の剣士。

 地面に突き刺さった剣は漆黒に染まり禍禍しい妖気を放っているし、その前に胡座で座り、瞑想している女の周りを囲む魔力もまた、黒々とした闇色だ。

 傍らに無造作に置かれた魔導書なんて魔界の深くに封印されていた代物だぞ。


 そう、これは夢だ。

 空間を破壊してこの世界を出て、魔界から魔導書を強奪した勇者が再びここに戻ってきて、禁術を使って魔族になった挙げ句に力を使いこなす修行をしている。

 なんて事はあり得ないからな。うん。


 強いて言えば魔剣のデザインと闇の剣士の見た目が、聖剣と勇者に瓜二つな事は変だが、夢だからな。うん。


 大丈夫だ。もう一回寝て起きたらあの勇者の事だ、また元気に俺を殺しにくる筈だ。


 ―――――――――――――――――――

 更に千年、ダメ押しで二度寝して三百年

 アイリスの累計三千二百三十年


 駄目だ。駄目すぎる。

 千年経ってから二度寝までしたのにずっと棺の前にいやがる。


 いや、俺は寝てるから分からないだけで、もしかしたら動いてるのかもしれないが……うん、無いだろうな。

 起きてから一週間待ってみたが動きは無し、千里眼で見る限り瞑想してるみたいだが、よくもまぁそんなに長い時間起きていられるよ。


 相手が人間だったなら無視して寝続けてもいいが、禁術を使って成ったとは言え魔族は魔族。

 魔王が自分の眷属を蔑ろにする訳にはいかないよな。


 ギ、ギィィィィィィィ

 例によって古びた音を立てて棺の扉を開ける。


 目が、目がぁぁぁぁぁぁ。

 千年以上振りの太陽さん半端ねぇな。


 まぁ、いい。気を取り直して立ち上がる。


「おはようございますカオス様」

 そう言って片膝立ちで頭を下げるのは、もはや勇者の面影は微塵も無い漆黒の騎士アイリスだ。


「随分と良い格好になったなアイリス、見違えたぞ」


「ありがたきお言葉、実はメイド服とナース服も用意してあるのですが、如何致しますか?」


「……は?」

 如何致しますか?じゃねぇよ!

 すました顔で何言ってんのこいつ!?

 え?ギャグ?ギャグなの?ガチなの?


「あ、失礼しました。やはり全裸に」

「ならなくていいから!」

 ヤベーよこいつ、頭おかしくなってやがる。


「そうですか。ところでカオス様、カオス様をここに閉じ込めた神を殺しに行こうと思うのですが、何番目の天界の神でしょうか?それとも全部潰してきますか?」


「ねぇ何言ってるの?」

 ちょっと本気で意味が分からないんだけど。


「? 神を殺しに行こうかと」


 いやいやいやいや、おかしいおかしい。そんな可愛らしく首傾げられても逆に怖いから。

 それに神を殺すって、ちょっと散歩行ってきます、みたいなニュアンスで言う台詞じゃないからね?


「何でそんな事を?」


「だってカオス様に酷い事をするなんて赦せませんし、この世界の出入りを管理する神を殺せば完璧に未来永劫二人きりになれますから、ウフフ」

 狂った笑みを浮かべてアイリスは言う。


 ゾクリ、と背筋が凍える。

 とんでもない奴に目をつけられてしまったものだ。


 魔族に成った上に修行して力をつける、わざわざ危険を犯して神を殺しに行ってまで俺と二人きりになりたい、そして先ほどの発言。

 思えば勇者という職業、出会ってから三十年目の時点で起きた発作からヒントはあったのだ。


 こいつはアレだ、たった今完全に理解した。

 弱者とDuelって、痛みで征服Vanquishするのが大好きなDV女!!!


 恐らくこの不死空間を使って俺を飽きるまで永遠に嬲り続ける気だ。

 何て恐ろしい女なんだ!


 破壊兵器扱いなんてされるのは当然じゃないか、少しでも同情した俺が馬鹿だった。


 クソッ、だがこいつは一つ勘違いをしている。それは、魔王である俺がこの世界を自力で脱出できないと思っている事。


 確かに魔族に成り、それなりに修行した事で力はついたのかもしれないが、俺をオモチャ扱いするにはまだ足りないって事を教えてやる。


 まずは奴の正確なステータスを把握しなければ、

「どうしたんですか?カオス様?」


 奴の問いには答えず、魔法を唱える。

「ステ・ルーペ」


 敵のステータスを閲覧する魔法だ。

 頭に文字が浮かんでくる。

 ――――――――――――――――――――

 アイリス・グラン・スレイピア

 Lv.99

 職業 狂戦士バーサーカー恋する乙女バーサーカー観測者バーサーカー魔王信者バーサーカー


 攻 SSS+???

 防 SSS+???

 魔 SSS+???

 速 SSS+???

 知 もっとがんばりましょう+???

 運 吉が良いキチガイ+???


 スキル

 嫉妬・カオス様の半径10メートル以内にいる♀に対して私のステータスがカオス様への愛情度分上がる。


 束縛・私の側にいる間カオス様のステータスはカオス様への愛情度分上がる。

 逆に2メートル以上離れた場合、カオス様のステータスは私からの愛情度分下がる。


 狂愛・カオス様への愛情度分ステータスが上がる。


 観測・世界の何処にいてもカオス様の事を視ていられる。


 盲信・カオス様の事を考えているだけで満たされる気がします。

 でも、やっぱり側に居て欲しい。


 愛情度

 カオス様・??? (測定不能)

 その他・0


 ――――――――――――――――――――


「…………」


「どうしたんですかカオス様?どこか具合が悪いんですか?」


「ねぇ、アイリス」


「はい、何ですか?」


「お前の好きなものって何?」


「ウフフ、ものでは無くて人ですけど、私の"好き"はカオス様だけのものですよ」

 そう言って元女勇者は狂ったように美しい笑顔を浮かべた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る