第2話 初日~三十年目
出会って初日
女勇者の累計百年
「それで?お話を聞いて欲しいと言っていたが何の話だ?」
「あ、その、すみませんやっぱり、私より貴方の話を聞かせて欲しいです。四千年も一人なんてどれ程の苦痛なのか私には想像も出来せん。話たい事いっぱい、いっぱいあるんじゃないですか?」
いいや、まっっっっっったく無いね!一ミリも無いよ、むしろ一人にして欲しい。
なんて馬鹿正直に言ったら、可哀想とか心が死んでしまったのね、とか思われるに決まってる。
「悪いが話すのは苦手なんだ、だからお前の話を聞かせて欲しい。」
「あ、そうなんですね。ごめんなさい私ったら。外の世界にいた時もよく言われてたんです。私は特別なんだから自分の物差しで考えるのを止めろって」
どこか悲しそうに勇者は言う。
おいおいおい、これだから真面目ちゃんは嫌なんだよ。そんなのどう考えたって凡人の僻みじゃねぇか。
「特別と言うなら俺も昔は魔王だったからな、気持ちは分かる。だが、お前が言ってるのは外の話だろ?ここではそんな面倒な事は考え無くていい、どうせ俺とお前しかいない世界だ。」
「魔王さん……ありがとうございます。お優しいんですね……私が倒したあの魔王も、貴方みたいに優しい人だったのかな……」
はぁぁぁぁぁぁぁ?????
仮にも勇者がそんな台詞吐くなよ、馬鹿なのか?
「お前は不意討ちで魔王を倒したのか?」
「え?そんな酷い事しません!正々堂々正面から挑みました!」
「なら、それは誇るべき事だ。魔族と人間は寿命も力も違うから分からないだろうが、長く生きた魔族は常に死際を探していると言ってもいい。中でも魔王として勇者に正面から倒されるならそれは素晴らしい名誉だ。それを倒した本人が疑問に思うのは侮辱だ、今すぐに止めろ」
「はぅ、ごめんなさい」
子犬のように縮こまってしまった、無意識に威圧を掛けてしまったからか。
「悪い、強く言い過ぎたな。」
「いえ、謝らないで下さい!その、変な子だと思われるかもしれませんが、私嬉しいんです。外では皆“勇者の私“しか見てなくて、こんな風に“私自身“を叱ったり、肯定してくれる人、いなかったですから」
うへぇ、変な子どころじゃねぇよ。何言ってるのか全然理解できないし、したくない。
「あの、魔王さんのお名前教えて頂けませんか?」
勇者が上目遣いで聞いてくる。
こいつの職業、実は勇者じゃなくてビッチなんじゃないか?
「俺の名前はカオスだ」
「カオスさん、私はアイリスです。えへへ、私ここに来れて良かったかもしれません」
言いながら勇者もといアイリスが抱きついてきた。
押し付けられるこの柔らかい感触、中々悪くないな。
「このまま、お話聞いて貰ってもいいですか?」
「あぁ、イイゾ」
「では――――――――」
それからアイリスは力に目覚めてからここに閉じ込められる事になるまでの経緯を話始めた。
長ったらしい為に要約すると、
①山奥の村で五歳まで生活。
②ある日村がいきなり魔物の集団に襲われアイリスを庇って親が死亡。
③怒りで力が覚醒、魔物を村人ごと全滅させる。
④街に降りて冒険者になる。
⑤なんやかんやあって魔王討伐。
⑥授賞式の前日、国王の息子の第一王子サマに魔道具でこの世界に閉じ込められた。
こんなところか?どうやら勇者と言っても扱いは破壊兵器のそれだったらしい。
つまりソロで魔王を討伐したハイパーボッチって訳だ。
そんな可哀想なハイパーボッチさんは今、スッキリした顔で俺の横で寝息を立てている。
勘違いしないで欲しいがヤラシイ事はしていないからな。
適当に相づちをうちながら聞いていたんだが、アイリスは終始泣きっぱなしだったから疲れたんだろう。最後まで話した途端に寝落ちしてしまった訳だ。
勇者らしく悲惨な過去に俺も、若干少しちょっと一ミリくらいはイラついたが、それより気になるのは最後の魔道具の話だ。
この世界は神が創った処刑世界。俺自身もそうだったように、入るには神が直接手を下す必要がある筈だ。
つまりこの件には人間界のみならず天界も関わっていると見て間違いないだろう。
お偉方の出世にしか影響しないような小さい事件から、世界全体を巻き込む大事件まで色々と考えられるが、まぁ俺には関係無いな。
とりあえずこの棺は一人用なんだ、悪いなアイリス、と棺から蹴りだそうとした時、
「んん……、えへへ、カオスさん……私達、お友達……むにゃむにゃ」
「……はぁ、寝言は寝て言えよ」
まぁ、たまには床……じゃなくて地面で寝るのも悪くないか。
――――――――――――――――――――
話を聞いてから三日後
アイリスの累計百年と少し
「さん……おすさん……かおすさん……カオスさん!!」
「ん~??」
「カオスさん!良かった、私死んじゃったのかと、うぅ、ぐす」
「ん~~??」
なんだコレ?柔らかくて気持ちいいのが…………、
「ZzzZzz」
「カオスさん!?カオスさん!!!」
――――――――――――――――――
三十年後
アイリスの累計百三十年
「ん~~??腕が……」
違和感を感じて眠りから覚めた俺は寝ぼけたまま腕を見る。
「あれ?……手が無い??」
ドクドクと大量の血が流れるかわりに手首から先が無くなっていた。
「い、い、い、イギャアアアアアアァァァァァァァァ!!!!!!」
完全に目が覚めると同時に凄まじい激痛が腕を襲い俺は飛び起きた。
なんだコレ?なんだコレ?なんだコレ?なんだコレ!?
「ウフフ、やっと起きてくれましたねカオスさん」
突然の声に後ろを振り返ると、そこには右手に聖剣、左手に血の滴る俺の右手を持って立つアイリスがいた。
「お前、何やって?」
痛みも忘れて問う。
するとアイリスは歪んだ笑顔を浮かべて、
「だって毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日ず――――――――――――っと話しかけていたのにカオスさん、さっき何て言いました?」
「は?さっき?」
何言ってんだこいつ、さっきまで確か忍者になった夢を見ていたような、ってまさか………。
「サヤカって、サヤカって誰何ですか――――――――!!!!!!!!!!」
寝言だよ馬鹿野郎!と叫ぶ間もなくアイリスが怒りと共に聖剣を振るう。
なるほど、五歳で魔物と村人を全滅させたと言っていたがこれは凄い。
さすがに魔法無しでは受けられないな。
「プロテクション!!!」
左手を突きだし防御魔法を発生させる。
ズドォォォォォォォォォォン!!!!!!
凄まじい轟音が鳴り響き、砂ぼこりが舞い上がる。
残念ながら俺の防御魔法には傷一つつけられなかったが、確かにこの力なら
しばらくして立ち込めていた砂ぼこりが消えると、眼前には巨大なクレーターが出来ていた。
アイリスは魔力を使い果たしたのだろう、その中心で倒れている。
こうなったらアレだ、引きこもろう。
俺はアイリスに全力で束縛魔法を、棺に最大の防壁魔法を魔力が尽きるまで掛け続けた後、再び眠りに就いた。
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