魔王ですが元女勇者に好かれすぎて死にそうです。
五味葛粉
第1話 出会い
無限に続く地面と晴れた空。
それ以外には何も存在しないこの場所は神が創った処刑の世界。
入った者は無限の命を与えられる変わりに二度とこの無の世界から出る事は出来ない。
外の世界では生き地獄と呼ばれる場所だ。
と言っても余りに非人道的だとか意味不明な理由で現在は使われていないらしいが、まぁそんな事はどうでもいい。
要するにここは俺にとって誰にも邪魔されずに無限に昼寝していられる超絶快適空間と言うわけだ。
働く必要も無ければ、飯を作ったり掃除をしたり、と言った家事をする必要も無い。
果ては面倒な対人関係も存在しない最高の世界だ!
こんな素晴らしい世界を何故、生き地獄などと呼ぶのか神や人間の考える事はさっぱり理解出来ない。
まぁ、俺と同じ魔族の奴らにしても全員が全員喜ぶ訳じゃないだろうがな。
フフフ、我ながら今日はすこぶる機嫌が良い、数える者がいない為に正確な時間は分からないが、俺の体感では今、物凄い記録が樹立されたところだ。
今までの最高記録はおよそ三百年、しかし今回は何とその倍!六百年も
「フフフ、ハーーーーハッハッハッハ!!!!!!!」
「ひっ!?だ、誰かいるの!?」
「!?」
人の声?幻聴……では無いか?
「す、すみません!誰かいらっしゃるんですか!?」
またもや困惑と期待が入り交じったような声が聞こえる。
外にいた時の癖で棺の上から透明化と魔力遮断の魔法を掛けていたお陰で俺の正確な位置は分かってないようだな。
こちらからも向こうの様子が分からないのが難点だが、さてどうしたものか。
声から察するに恐らく人間の女、それもまだ若い奴だ。
しかもこいつ、ここに来て日が浅いんだろうな。神や悪魔と違って寿命の短い人間がこの世界に耐えられるのはせいぜい五百年がいいところだ。
突然の声、それも向こうからすれば理解不能の笑い声を、幻聴では無く実際にあった事として飛び付く余裕からして、まだ三百年は経過していないとみた。
「あのすみません!お願いです!私とお話をして下さい!聞いてくれるだけでいいんです!もう一人は嫌なんです!」
女はいまだに声を上げている。むしろさっきより威勢のいい声だ。まるで誰かがいると知っているように。
音声遮断の魔法を使えば済む話だが、何だろう何か嫌な予感がする。
過去にも何度か感じた事のあるこの緊張感、そう、あれは確か
そう思い至ったと同時、またもや女が叫ぶ、
「ここに居るんですよね!魔力を遮断しても私には分かるんですよ!お願いです!魔族でも悪魔でも、魔王でもいい!顔を見せて、私とお話して下さい!」
一呼吸起き、女は続ける、
「ふぅ、これが最後通告です。もし十秒以内に出て来なければ、貴方の手足を剥いで一生私のお喋りに付き合って頂きますよ?」
いや、怖すぎだろ!?
「い~ち」
えぇ!?本当にカウント始めやがった。
「に~い」
「待て待て待て!分かったからちょっと待って!?」
「さ~ん。なら出てきて下さい。ほら、後七秒で奴隷にしますよ?それともそっちの方が好みなんですか?ウフフ」
何だこいつ本当に勇者!?俺より断然、魔王っぽいんだけど!
「よ~ん」
あぁぁぁぁぁぁ!!!!面倒だなぁ!!どうせ殺しても無限の命で甦るし、そしたらやり返されて昼寝してらんねぇじゃん!!
出るしかねぇのか……。はぁ、さよなら俺の
「ご~お、ほらほら、後半分ですよ?」
「分かった、分かった。今出るから」
まず透明化、魔力遮断を解除する。
すると本当に勇者の魔力を感じた、忌ま忌ましい光の魔力だ。
ギ、ギィィィィィィ
音を立て古い棺の扉を開ける。
うぅ、眩しい。六百年振りの朝日は目に染みるぜ。
「アハハ、アハハハハハハハハ!!!本当に、本当に私以外に人がいたんですね!」
人じゃなくて魔族、それも魔王だがな。
立ちあがり、光に馴れてきた目を声の方に向ける。
そこにいたのは予想通り若い女勇者。服装は何故かボロボロの布を巻き付けているだけだったが、腰に差さった聖剣、そして隠しようの無い光の魔力が何よりの証拠だ。
歳は十七、八くらいだろうか?スラリとした長身ながら出るところは出ているし、顔も美しく整っている。長い金髪に赤い瞳を持つ絶世の美女、人間達の評価ならこんな感じか?
見た目を観察していると、不意に女勇者が声を上げた、
「あのう」
「ん?何だ?」
「そんなに見られると恥ずかしいんですけど」
言って、女勇者はカァァッと頬を染めた。
「あぁ、悪い悪い。余りに綺麗な娘だったので、ついな」
つい、は俺だ!何口走ってやがる!
「そ、そうですか。ありがとうございます。でも、貴方もすごく綺麗な顔をしています……魔族、なんですか?」
「あぁ、外にいた時は一応魔王をやっていた。もう四千年以上も昔の話だがな」
「四千年!?そんなに長い間ここに閉じ込められているんですか?」
「そうだな。まぁ俺にしてみればずっと昼寝していられる快適空間なんだが、お前達人間には、そうはいかないんだろう?」
「それは……はい。私はまだ百年も経っていないのに、もう心が折れてしまいそうでした。でも諦めないで歩き続けて良かった……。まさかこうして人とお話出来るなんて」
女勇者の目に涙が浮かぶ。
確かに奇跡的なタイミングだよな。ループでなく本当に無限に続く地面の上で、丁度昼寝から覚めたタイミングで出会うなんてどれ程の確率なんだか
「それで?お話を聞いて欲しいと言っていたが何の話だ?」
正直言ってこの無限の世界に他人がいる事は俺にとってストレスでしかない。
殺しても生き返るし、百年ぽっちで心が折れそうとほざく人間が
だったらどうするか、簡単だ。俺と同じ昼寝マニアにしてやればいい。
話をして疲れれば眠くなるだろう、まずは聞き役に徹して奴を弱らせる。その後は昼寝の素晴しさをじっくりと体に教えてやる。
今から楽しみだぜ、愛だの正義だのとのたまう働き者の勇者が、何の得にもならん昼寝大好き人間になると思うとな。
ククク、怠惰の魔王と恐れられた俺の実力を見せてやる。
この時の俺は想像すらしなかった。わずか数千年後、この女勇者が俺の教育とは正反対の、とてつもなく狂った愛と正義を身につけてしまう事を。
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