残る 一人
夫が震えていた。
この男は美人局の時には無論、非常に強気で高圧的である。
が、本当の所は臆病なチキン。
相次ぐ殺人という行動に、今更恐怖とストレスを抱いていた。
「なぁ………なぁ、なぁ!大丈夫だよな?
捕まらないよな?証拠なんて残していないよな⁉」
鬱陶しい。
「大丈夫に決まっているでしょう?
そうじゃ無ければ何で警察の捜査が無いの?」
三件の殺人。
しかし、それらが新聞に載ったという事は無い。
警察の行方不明者の欄にアイツらの顔は無い。
死体も見つからず、よって、あの三件は殺人事件にすらなっていない。
決して、問題無い。
問題は無い。
筈だった。
それは、休日の話だった。
夫と私は日がな一日ゆったりと過ごそうとしていた。
ピン・ポーン
来訪者が来た。
男だった。
そいつは自分を『あのクズの友人』と名乗った。
「友人が三人も居なくなっちゃって……あぁ、二人は関係無いですね。」
「えぇ………」「……………………」
夫が青ざめて震える。
動揺したらバレるでしょう!
「それで………もし、お二人に何か心当たりが有る様でしたら………ご連絡等を頂けませんか?」
震える夫。
私だって少しは動揺していただろう。
目の前の友人を名乗る男は全く動揺する様子が無かった。
不自然な程に。
「解りました…………ですが、今日はちょっと………体調が優れないものでして………」
「あぁ!すいません。身重の中で……では、今日の所は御暇させて頂きます。では………。」
彼は荷物を抱えてそそくさと出て行こうとする。
ガン!
その頭に近くにあった置物を思い切り叩きつけた。
あの崖の上で、いつも通り、眠っている男を投げ捨てようとしていた。
そんな中、青ざめた夫が意を決したように私に言った。
「なぁ、もう止めよう!人殺しだぜ?」
「そうよ。」
「4人目、バレるのは時間の問題だ。」
「それは無いと思うわよ。」
「……………なぁ!自首しないか⁉」
…………遂に、遂にその言葉を聴く事となってしまった。
「もう、失踪届が出されたら、共通点とか見つかって、監視カメラを使った警察が俺達に辿り着く!
したら、知らぬ存ぜぬじゃ通じない!
死体が上がればもう逃げ場は無い!
なぁ、考えてくれよ。」
「そう……………ね。」
もう………………………仕方無いのよね。
それが、この子を守る最善手。なのよね。
「解ったわ。」
「ありがとう!」
ドン!
夫が崖下へと消えていった。
ゴロリ ゴロリ ゴロリ ゴロリ
残った死体を夫の消えていった崖に落とし、私は一人、その場を後にした。
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