友人の男

お腹が大きくなり、日常がどうしようもなく幸せだった頃、あの人形の死んだ事も忘れかけていた頃、一人の来訪者が来た。


あの人形の友人を名乗る男がやって来た。




「彼は良い友人でした。」


「えぇ………」


「行方不明になってしまい、聞くところによると、他人を殺めたかもしれない……とか。」


「えぇ。」


「………………………………」


不快な男だ。


先程から言葉は不安を抱いているように聞かせているが、その顔には笑いをこらえているのが見て取れる。


何だ?何がおかしい?


気味の悪さで話が頭に入ってこない。


私の下腹部を見て、ニヤニヤニヤニヤ。




「お子さんですか?」


友人の男にそう言われて我に返った。


「え?…………えぇ。もう7カ月で。」


「そうですか。元気に生まれると良いですね。」


無論、その言葉にも気味の悪さがまとわりついていた。


「…………そう言えば、私の事は彼から聞いたんですか?」


そもそも、この男は何故、私の家を知っていたんだ?


「えぇ、彼が失踪する前、手紙が有りまして……ね。


そこに色々書いてあったんですよ。


あぁ、申し訳ない。長く居ては邪魔ですね。それではここいらで、お暇させて頂きます。では……。」


気味の悪い表情を貼り付けたまま、男は家から出て行った。


「あぁ、良いですか?」


私は決心して声を掛けた。






















その晩。


「今日、アイツの友人って奴がウチに来たの。」


「え?アイツ?」


「ホラ、アナタが殺した……」


「アッ……あぁ、アイツね。」


夫となったのは良い。が、この男は臆病すぎる。


「アイツの友達が、『失踪前に手紙を貰った』って言ってたの。」


「!ヤバく無いか?アイツ、やっぱり証拠を!」


「かもしれない。でも、まだ捕まっていない。


私達には未だ、平穏を取り戻すチャンスがある!」


オドオドした夫がそれに対して言った。


「でも、そいつの居場所とかも解らないんだろ?」


「大丈夫、連絡先はちゃんと。」


そう言ってメモを取り出した。






















「連絡先を教えて頂けませんか?


彼の失踪に関して何か思い出したことが有れば………」


友人に対して私は持ちかけた。


最初は良い顔をしなかった。


『面倒だ、もうこれ以上関わり合いたくない』とでも言いたげに。


「良いでしょう。住所と連絡先です。


何か有れば仰って下さい。」


そう言ってメモを渡して来たのだ。




























「手伝って。」


「………え?」


「脅される前にやるわよ。」


「やるって……殺すって事か?」


夫の顔が青ざめる


「駄目だったらそうするわ。


私の平穏な生活を、邪魔させはしない。」


その眼は黒く、醜く歪んだ炎に燃えていた。




















「手紙にはなんてあったの?」


「テッテテ手紙?」


縛られた友人が恐怖に震えながらそう言った。


「惚けないで。


あの死んだクズから手紙を貰ったんでしょう?そこになんて書いてあったの?その手紙は何処にあるの⁉」


「そ、それは…も、もう燃やして…………」


「もう良い。死になさい。」






そう言って、友人の男はあのクズ同様に崖から落ちて、二度と浮かび上がっては来なかった。

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