幸せ

「本当、単純よね。」


 男の胸に顔を埋めてそう言った。


 「そのお陰で俺達は手を汚さずに奴を殺せた。」


 男は笑った。


 職場の店長は本当に面倒な事をしてくれた。


 私達の美人局つつもたせの証拠を出して、『もうこんな事は辞めろ。』だなんて………。


 笑えて来る。


 だから、始末をお願いした。


 便利な人形、道具に。








昨日の新聞に、職場の店長が殺されたとの一報が入った。


あの人形がやってくれたのだろう。


警察は未だ犯人に辿り着いていない。


















なら、やることは一つ………………。




























足元で波の音が聞こえる。












「なぁ、どういう事だ?その男は誰なんだ⁉」


人形は戸惑っていた。


それもそうだろう。私に呼び出されて眠らされ、気付けば鎖で縛られ、人気の無い崖の上。そして、目の前には私とあの人。


自分の状況、それが解っているのに解りたくないと言ったところだ。


「アナタは騙されたの。あなたは便利な道具だったってだけ。」


「コイツの男は俺だけだ。人の女に色目使ってよぉ!」


そう言って蹴りを人形に叩き込む。


人形が悶える。


「じゃぁ………騙したのか?結婚は?子どもは⁉」


つくづくおめでたい。『あなたとの子どもが出来た。』なんて言ったのを信じていたらしい。


「子どもなんて、ピル飲んでいたから無いわ。結婚はこの人とするの。子どももこの人との。アリガトネ。私の為に勝手に・・・邪魔者消してくれて。」


「僕は……………じゃぁ僕は……………………」


顔が真っ青になる。


「じゃぁな、俺らの為に殺ってくれて。


お前はもう良くやってくれた。用無しだ、死ね。」


男が人形を海に棄てようとする。


「待て!僕は証拠を残しておいた!


僕が死んだら……友達に証拠が行く手筈になっている!」


涙目でそんな強がりを言う。


「オィ、どうするんだ?証拠があるって!」


男が狼狽える。


「そんな訳無いでしょ!ハッタリよ。さぁ、さっさと沈めて。」


「後悔する!絶対!僕…アアアァァァァァァァァァァ!」


男が人形を眼下の崖に叩き落した。


鎖に撒かれた人形は底の見えない海へと沈み、二度と浮き上がっては来なかった。












こうして、私と男は犯罪の証拠をきれいさっぱり始末し、晴れやかな気持ちで男と結婚する事となった。




お腹も順調に大きくなり、男は旦那となって真面目に働き、私の職場の事件は迷宮入りとなっていった。
















順風満帆な人生。
















そう、思っていた。










あの来訪者が来るまでは。


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